#4 剣の奪還
取り敢えずその広場を探して、剣が無いことを再確認する。そして、あることに気付く。
「あれ?」
俺が倒したはずの魔獣の死体が無くなっていた。村人が回収していた可能性もあったが、恐らくそれはない。
あの魔獣をどこに回収した?確かにあの人数なら運べるかもしれないが、あの魔獣を保管しておけるサイズの家はこの近くには無い。まあ今はまず剣を探さないとな。
すると、俺が探している剣を持った逃げろと言ってくれたあのときの村人が広場に来た。
なんだ、あいつが持ってたのか。意外と早く見つかったな。
「おー!アベルじゃないか!こんなとこでなにしてんだ?」
「ちょうどその剣を探してたんだ。お前が見つけてくれてたんだな。ありが...」
「なにいってんの?こ・れ・は、俺が拾った剣だ。」
「...は?」
いや......は?マジでなにいってんのこいつ?
「この剣は人を選ぶんだよ。お前、全然扱えてなかったじゃないか。だから変わりに俺が使ってやるんだよ。」
「お前...ふざけるな!」
俺は、男から剣を取り返そうとした。すると男が、
「パライシス!」
そう言ったその瞬間、俺は膝から崩れ落ちた。全身が痺れ、体が思うように動かない。俺の体は麻痺状態になっていた。
魔法ってこいつらでも使えんのかよ...
「...剣を....返せ!」
「俺は、感謝してるんだ。見ず知らずの俺らを助けてくれたあんたに。だから今度は俺らの番だ。まあ安心しろよ、俺がこの村を守れる強さを手に入れるまであんたは殺さない。ただ、俺がこの村を守れる強さを手に入れたらあんたは俺が殺す。だから安心しろよ。あんたが死ぬのはまだ先だ、『転生者』さん。」
「..!?お前、なんでそれを....」
「周りの皆は気づいてなかったが、俺はお前の髪が赤くなった瞬間に気がついたよ。お前が転生者だって。」
あれはやっぱり能力のおかげだったのか。能力発動時は髪が赤くなるのは自分では気づけなかった。
「能力は使いこなせてないみたいだし、お前は捕らえる必要は無さそうだ。じゃあな。」
「ま....て.......」
男は立ち去っていった。
俺の麻痺の効果が切れる頃には、男がどこにいるのか、俺にはもうわからなくなっていた。俺は一度、武具屋に戻ることにした。すると、クレアと店長さんが話しているのが見えた。クレアが俺に気付き、駆け寄ってくる。
「遅かったわね...どうしたの?」
「剣は見つかった。」
「で?その肝心な剣はどこにあるの?」
「わりぃ、村人に盗られた。」
「盗られたって....盗まれたってこと?」
「........はい。」
するとクレアははぁ~、とため息をつきこう言った。
「手伝ってあげるから、その村人の特徴を教えて」
「いいのか?」
「いいのか?って、もう仲間なんでしょ?仲間が困ってたら助けるわよ」ニコッ
俺は今まで、クレアの笑顔に恐怖心しか抱かなかった。まあクレアが笑ったタイミングの問題だけど。俺がこのときクレアの笑顔に抱いたのは恐怖心ではなく「信頼」だった。とても頼もしく、クレアの言うことは信じることができた。それと同時に、この人の笑顔を初めて可愛いと感じた。そんなことを思ってたからなのか、俺はクレアを見つめたまま黙り混んでいた。
「アベル?」
「え?...あ、剣を盗んだ村人の特徴だったよな?特徴ってゆうか、俺が村人に囲まれてたとき俺の正面に立ってた人だ。」
「アイツかー...アイツならやりかねないわね。」
「アイツ俺にめっちゃ冷たくなってたぞ?俺が転生者ってバレたからかなー?.....あ。」
クレアから冷たい目線を感じる....。俺バラしてねえって...。そんなことより武具屋の店長にバレたことが個人的に一番焦っている。そんな俺とは裏腹に、店長さんは落ち着いている。
「....驚かねえの?」
「あぁ。さっきクレアに教えてもらってるからな。」
俺は、クレアに冷たい目線を送る。しかしクレアは落ち着いた状態でこう言った。
「大丈夫よ」
「いや、どこが!?もう二人にバレたよ!?確かにバラしたの俺だけど!俺だけど!異世界ライフ始まってから開始二日目でもう二人にバレたよ!?これのどこが..」
「この人は協力者よ?」
「....先に言ってくれよ...。まあ今は取り敢えず剣が先だな」
「そうね」
俺とクレアが剣を取り返しに行こうとすると、武具屋の店長が俺を呼び止めた。
「アベル..だったか?」
俺は振り返る。
「そうだけど...」
「....いや、お前が剣を取り返して帰ってきたときに話すことにするよ」
「?」
俺は疑問を残しながら剣を取り返しに行った。
訳わかんねえなあの人。
俺とクレアは二手に分かれて男を探した。しかし、転生してから2日目の俺にはこの村から1人の男を探すなんてことは当然出来るはずがなく...
「どこにいるんだよアイツ.....かれこれ2時間くらい探してるぞ...。つーかこの村の大きさ、家の造り、村ってゆうかどちらかと言うと町だな...」
すると、近くで探している男の声が聞こえた。
「近いな....あっちか!」
俺は声のする方へ向かった。すると、俺が倒したはずの魔獣が男と戦っていた。男は恐がっているのか、両手で剣を持ち、剣先どころか体まで震えていた。
「何やってんだよ...!」
俺は助けに行こうとする。しかし、アイツが俺に放った言葉が俺の体を止めた。今アイツを助けたら、俺はいつかアイツに殺される。じゃあ、ここでアイツを助けないのが正解なのではないかと。俺が躊躇している間に、男は剣を弾かれ、武器のない状態だった。そして、腰が抜けたのか、その場にへたりこむ。
ここでアイツを助けたら、俺はいつか殺される。助けなかったら、アイツは死ぬ。アイツが死ねば俺は死なない。けど、本当にそれでいいのか?
「....いいわけねぇだろ!」
俺は落ちてある剣を拾い、男に降りかかった攻撃を防ぐ。
「..アベル!?な、なんで俺を助ける!?俺はお前を...殺すと言ったんだぞ!」
「ああ、確かに言われた!ぶっちゃけ助けたくなかった。」
「じゃあなんで...」
「けど!それはあくまで俺が得する考え方だ。人は、自分のことを大切に思ってくれてる人が必ずいる!もちろんお前にも。俺の個人的な事情で、その人たちを悲しませる訳にはいかない!それになにより、お前が俺のことをどう思ってようが、俺のことを殺そうとしていようが、目の前にいる死にそうなやつや、殺されそうなやつを見捨てるなんてことは、絶対にしない!」
魔獣の攻撃を弾き、攻撃を仕掛ける。能力は...発動しなかった。
「このままなら」負けてしまう。けど、こんだけデカい音出しまくったら気づいて無い訳がない。そうだろ?クレア!
建物の陰からクレアが飛び出してきて俺の剣に向かって魔法を使った。
「イグニート!」
クレアが前に突き出した手のひらの前に出来た魔方陣から炎が飛び出し、俺の剣を包む。俺はその剣で魔獣を何度も斬りつける。一度戦っているおかげで攻撃はだいたい防げた。
「今だ、クレア!」
もう一度魔獣の攻撃を弾き、体勢を崩した魔獣に、クレアが氷魔法を発動した。
「アイシクル!」
空気中に生成されたつららが全て魔獣の方に向いた。クレアが腕を振り落とすと同時につららは一気に魔獣に突き進む。炎魔法で強化された剣で攻撃され続けたため、魔獣の体は散々熱されていた。しかしクレアは、
「マジックエンハンス!」
その魔法を強化した。
ダメージは必ず入る。これで足りなくても、俺が斬りこめば....いける!
クレアが放ったつららは全て命中した。しかし魔獣はふらつきながら立っている。俺はすかさず魔獣との間を詰める。
「これで終わりだ、じゃあな。」
俺は魔獣の首を斬り落とした。
「ちょっとの間世話になった、ありがとな」ボソッ
俺は剣に付いた血を払い落とす。そして、男の方を見る。すると、クレアと話していた。
「あなたっていつも情けないわよね...」
「別にいいだろー!俺には能力もともとないんだから。」
「ただの村人Aだもんね」
なにやら仲良く話している。.......またクレアの知り合いかな。てかアイツ、お礼の1つもしないとかどんだけ転生者のこと嫌いなんだよ...
「何?お前ら知り合いなの?」
「知り合いもなにも、これからあなたの仲間になる人よ。」
「....は?」
「この人はカイル。仲良くは....出来ないだろうけど喧嘩しないように」
「はぁーー!?」