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転生者を嫌う世界  作者: ぶばんた
2/8

#2 モデレータ

突然のことで理解が追い付かなかった。

殺される?俺が?生きていたころも..あ、今も生きてるか。前の世界でも殺されるなんてことはなかったぞ?もしかして前の世界よりひどいんじゃないか?

疑問ばかりが浮かぶ。この時すでに俺は、魔獣に受けた傷のことを忘れていた。そのとき、彼女が言った。


「そういえば、傷はもう大丈夫なの?」


「傷?あ!!」


傷口には包帯が巻かれていた。痛みはなく、ただ包帯が巻かれているだけのように感じた。恐る恐る包帯を取り外す。すると、


「あれ?」


そこに傷は無かった。魔獣に攻撃されたその時の痛みは覚えている。しかし、傷があったはずのところには、傷も傷跡すら残っていなかった。


「治ってる?」


「私が魔法で治療したからね。」


「ん?魔法で治療したんだったら包帯いらなかったんじゃ...。」


「先に応急措置で包帯まいたの。」


「なるほど。」


初めて魔法を体験した...って言っても魔法を使われたときはまだ寝てたけど。確かに助けてくれたあのときも魔法を使っていた。傷の話に気をとられ、大事なことを忘れていた。


「そういえばさっき「この世界に、転生者は嫌われる存在になってしまった」って言ってたけど、なってしまったってのはどうゆうことなんだ?」


そう聞くと彼女は、話は長くなると言って話始めた。


「3年前、森の中から一人の男が出てきたの。その男は自分を「転生者」と名乗り、村を混乱させた。その混乱の中、一人の村人がこう言った。「本当に転生者なら、魔王を倒してくれよ!」と。男はその頼みを受け入れ、魔王の城へと向かった。しかし、戦いの素人が勝てるはずもなく、命からがら逃げてきた。すると、魔王を倒せと頼んだ村人が、初代転生者を嘲笑う。それを悔しく思った初代転生者は特訓を重ねた。特訓をしていると、ある噂話が聞こえた。転生者と名乗る者が各地で大量に出てきたのだ。それを聞いた初代転生者は各地の転生者を集めた。初代転生者はその者たちと魔王を倒しに行き、見事魔王を倒すことに成功した。」


「倒したんだったら嫌われる必要なくね?」


「話は最後まで聞いてね?」


「あ、はい。」


何この子恐いんだけど。


「見事魔王を倒した転生者たちは村に報告に行った。すると村人たちは、すぐに転生者たちを英雄扱いをした。転生者たちも不満はたくさんあったが英雄扱いは悪い気がせず、むしろその状況を満喫していた。しかし、初代転生者に支配欲が生まれてしまった。一度負けて侮辱された憎しみは消えず、村人たちの急な手のひら返しもあって、日に日に増えていく支配欲に我慢出来なくなり、村人に命令するようになった。そして、命令をするようになってからしばらくたったころ、ついに気にくわないやつがいたら処刑台に上がらせるほどになっていた。いつしか初代転生者は魔王の城に住み着くようになった。そして彼は「モデレータ」と名乗るようになり、世界の支配者へと変貌を遂げてしまった。」


「それが転生者が嫌われた理由か...。他の転生者はどうなったんだ?」


「他の転生者も初代転生者についていってしまったわ。私たちはこれに抗っている。」


「私たち」?グループを組んでるのか?しかし、話のスケールが予想よりデカすぎる。いきなり転生者が異常に増えたのはおそらく、俺が死んだ原因でもあるあの自然災害だ。しかし、それにしては俺が転生したタイミングと異常に増えた時間は離れすぎている。


「今考えても仕方ないか。ありがとう、なんとなくだけどこの世界がどうゆう状況なのかは理解できた。」


聞きたいことは山ほどあったが、今は聞かないでおく。また別の機会に聞くことにしよう。取り敢えず今日は1つだけ。


「そういえば名前、何て言うの?」


「たしかにまだだったね。私はクレア、あなたは?」


「俺はアベルだ。これからよろしく!」


俺が笑顔でそう言うと、彼女は不思議そうな顔でこう言った。


「...え、どうして?」


え、めっちゃ傷付くんだけど。


「どうして?ってそのモデレータってやつに抵抗してんだろ?手伝うよ。」


「...能力は?」


「知らん!!」


満面の笑みで自分の能力を知らないと言った俺に呆れたのか、ため息をついた。そのとき、外が騒がしいことに気付いた。


「今日って祭りとかあんの?」


「いきなりどうしたの?今日は祭りなんて無いけど...」


「いや、外がなんか騒がしいから...」


窓から外を見た俺は目を疑った。間違いない、俺が最初に会った魔獣だ。魔獣に攻撃されたときのことがフラッシュバックする。気付けば俺は後退りをしていた。


「あれと戦うのか...?」


恐怖心が俺を煽る。


「助けないのか?」


そう言った俺の声は、震えていた。そして、村人の悲鳴が聞こえるなか、クレアはこう答えた。


「私たちは、村人たちの防衛は活動内容に入れてない。」


俺は、助けないといけないと思った。でも、能力の使い方を知らない。まず能力があるか分からない。俺は、なにもできない。そんなときに死に際の声を思い出した。


『死なないでよ...ねぇ.....一人にしないでよ......』


そうだ、俺は死の恐怖を知っている。けど、この声の主を...俺は知らない。覚えていない。けど俺は、その人を一人にしてしまった。その人のような人をこれ以上増やさないために...俺は!


「悪いクレア、協力するとは言ったけどその活動方針には賛成できない。俺は、村人たちを...助けたい。」


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