赤い糸≪打ち切り≫
いつからだろうか。私の周りから人が居なくなったのは、小4のことだろうか。いや最早、そんなことはどうでもいい。臭いバスの排気ガス、張り巡らされた電車の叫び声、右も左も分からない政治家。そして、それらに付き従い形作られ肉付けされている我々。いつからだろうか。この世界から愛と自由が無くなったのは…いつからだろうか。いつからだろうか。いつから…いt
ポンッ!頭を叩かれた「アナーキー君、国家斉唱の時間に寝てはいけませんよ。」黙って頭を上げるとガラスのビー玉の様な目をした女教師がいた。真っ白なおしろいのような肌に濃い赤色の唇を目指したのであろう、厚い彼女の化粧は実に無様であった。ふと、周りを見回すとクラスの皆がこちらを向いていた黒い瞳がこちらをジッと此方を見定めるような、観察しているような薄気味悪いが目がこちらを向いていた。彼らが何を求めているのか求めてないのか私には分からなかった。ただ、見慣れないいつもの景色であった。唐突に大声を特に奇声を発したくなる衝動に駆られ国家を歌い終えた。
「今日より、新入生が一人加わるので皆さん仲良くして下さい」耳を疑う言葉だった。紅い弧を描いて女教師続けた。「入ってきなさい」。誰もが教室の扉を注視した。八月の睨むような眩しさのせいか現れた少女が何処か神聖な場所から降りてきた女神のように見えた、濡れガラス色の髪に明るく溌剌としたボブカットがよく似合っていた。だが何よりどこまでも自分を貫くような強い意志を持つ彼女の眼に目が離せなかった。-偶然なのか運命なのかー彼女と目が合ったような気がした。「皆さん、初めまして。第八管理区からやってきた東条栄です。」簡潔な一文だったが彼女の声がハスキーボイスに心が揺さぶれた。しかし、彼女の自己紹介終わるとクラスからは疎らな拍手が行われた拍手。当然だ、というのも彼女は”東洋人だ”近年、国家が貧困地域からの外国人労働者の受け入れを行い始めたことによって莫大な数の東洋人や黒人の労働者が出稼ぎにこの国にやってきたのだ。そのせいで、安い人件費の彼らを雇う企業が多くなり国内での、失業者が増大したからである。しかし、可哀そうなのは彼ら外国人労働者も同じだ。折角、故郷から遥々、明るい未来を求めてこの国に来たのにインターネットでの政府の発表でしか我が国を知らないが故に、彼らはこの国で働いて初めて悟るのだ『この国は、理想郷ではない。人間を食い物にして人間から機械にしようとする悪の国である』と.彼女等一家はこの国から隣国シーリアに逃げようとしているんだろう。俺が住んでいるこの第一管理区は国内で唯一、隣国に繋がっているからだ。それに、外国人の出稼ぎに来たものはこの国に一定以上の税金(外国人労働者税)通称、“外労税”を支払は無くてはならない、脱税したものの末路は毎日昼のテレビで流れている、やせ細り骨と皮だけの東洋人に同じくやせ細った民衆が集団で投石やリンチにしているのを流しているのだ。最悪なのはこの”外労税”を知らないで外国人労働者この国に出稼ぎに来ていることだ。なんて最悪な国だ…そして彼らや俺の両親が稼いだお金が何に使われているのかすら俺は知らない。ただ、国家がいうにはこの学校や俺を含めて国民全員に配給している国民服などに使われているらしい。この国家による計画的な政策が無いと我々は生活出来ないらしいが、そんなの嘘だ!出鱈目だ!俺は祖父から今の国家になる前の話を聞いた。国家などなく、親しい親戚同士などで見返りを求めず相互扶助で生きて森や自然を愛し生きていたことを。誰もが笑顔で明るく自由に生きていたことを…ふと隣国シーリアを思い出す、テレビでは法が無く武装集団や犯罪者で溢れる邪悪な国と評されているが、本来はシーリアの方が正しいのじゃないのいか人間の本能が人間の本来の姿は彼らのように何事にも何人にも己の生き方を邪魔されないことが正しいのではないのか…あぁ…いっそのこt
ボンっ!頭を叩かれた「アナーキー君、一時間目の体育が始まりますよ。早くしなさい。」女教師の呆れた顔が見えた。アナーキーは急いで体育の集合場所であるグラウンドに向かった。そのせいか、東条が此方をジッと見ていたことに気づくことはなかった。
体育の時間。アナーキーにとっては地獄の時間であった。というのも、この体育の時間は高校3年間全てマラソンなのだ。毎日毎日、最初から最後まで走り続けるのは頭が狂いそうだった。それに、横を見るとクラスメイトの男子がこっちを見ていた。これだ。後ろからも前からも視線を感じる牢屋の中にいるみたいだった。さしずめ、学校は監獄かなと短慮したがあながち間違ってないことに思わず小さく吹き出してしまった。その後は、体育で疲れた体を癒すために授業は全て睡眠した。そんな俺が面倒なのか見捨てたのか知らないが教師は一度も怒らなかった。それに、授業はゴミみたい内容なのだ。何故、この公式が生まれ何故成り立つのかを説明せずただ暗記しろという数学教師。自由と平等と友愛とか言う癖に国家の支配を推奨する国語教師。特にゴミの中のゴミは社会科であった。まず教本の歴史の教科書が無い。過去というのはいつでも編集できるので過去を習う必要はないと教師がいい、倫理や公民では自由、平等、友愛を訴えるくせに国家の支配を認めてるのだ!おかしいだろ、”自由とは自分を育てることだ!!”国家が与えるものではない、自分から見つけ伸ばしていくことなのだ。経済についても、国家の計画経済がうんちゃら書かれているが、そんなもん知るか。企業の自由にしとけばいい。仮に企業が我々を圧迫するようなことがあれば、その都度、武器を持って立ち上がればいい。ただ、それだけのことなのだ。
全ての授業が終わり、俺は一人帰った。行くとこは決まっている必ず下校したら行くところ。「着いた…」学校から1時間以上も掛かるなだらかな山にある草原だ。一面に広がる瑞々しい深緑のサギソウやフクロソウ、食虫のモウセンゴケもいる。全体的に凸凹とした所だが、一つだけ自分の身長にピッタリな窪みがありそこに入った。国民服が湿った土で汚れるのに抵抗はなかった、寧ろ汚してやりたくて気分も最高だ。仰向けになって空を見ると象のような形をした雲、いろんな形の雲があり、それは常に形を変えながら大きな空を進んでいった。ここなのだ。自分が自由と思える場所、自由を私に意識化させた場所なのだ。誰からも監視されることも強制されることも怒られることも、この世の嫌なこと全てから私を解放してくれるのだ。数分間、そのまま自由を楽しんだ後は祖父が眠る墓に向かった。祖父は何故か平地の墓ではなく、この美しい山の頂上にある草原に埋葬されるのを強く熱望した。墓の近くには”死者の日”(極東ではお墓参りと呼ばれてるらしい)と呼ばれる日の為に作られた山小屋に入った。ほとんど、毎日通っているので山小屋の中は綺麗だった。「あ、発電機付けないと。」慌てて、屋外に出て小型発電機を稼働させた。豊な自然にディーゼルと機械が奏でる不協和音は聞いていて面白かった。アナーキーも釣られて祖父が愛した曲『Bella Ciao(さらば恋人よ)』を歌った。8月の中旬、山はどこまでも成長し美しい緑のドレスを着て、木々や花は歌いそこに、人間と機械とディーゼルらが奏でる美しい夜まで合唱は続いた。
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11月のある日のことである。徐々に冬の猛威が迫っいるのを知らせる様に、乾いた乾燥した風が赤色だったり、橙色だったり鮮やかな色の秋の宝物を舞い上げていた。
ボンっ!頭を叩かれた。頭を上げるとあの女教師だった「アナーキー君、国家斉唱の時間に何、窓を見ているんですか。」流石に、イラついた「あなたこそ、何をみているんですか。何故、美しいものを見ようとしない。」女教師の顔が憤怒で顔が真赤になった「この、売国奴め!!」今まで聞いたことが無いほどの汚い金切り声だった。それが決定打だったのか突然、クラスメイト達が大声で「「くたばれ!この国から出でけ!」」教室は異様な熱気に包まれていた、国民服に染み付いた汗の匂いがこっちまで伝わる。そして、ようやくアナーキーは理解した。彼らが私を見るよくわからない目線とは敵を見る目だったのだと。アナーキーにとって、クラスメイトとはよく分からない者だった。彼らとまともに会話をしたことも遊んだ事もないからである、ただ彼らは皆ビー玉のような目つきで過ごしてる。みんな、退屈そうに目を濁らせとごか静観したような目つきをしていた。それはアナーキーにとって、不愉快で仕方なかった、何故、未来を見ようとしないのだ。
私は、アナーキーでした。相互補助を何より大切にしているつもりでした。しかし、実際はただの利己主義な愚か者でした。これは私の懺悔です。文章に雑であったり読みづらい部分もありますがそこも作者の意図だと錯覚してください。
古典恋愛のモデルはジョージ・オーウェルの「1984年」です。
個人的に、締めの部分がシンプルに纏まっているのが好きです