あなたの犬
僕は野生の勘がよくはたらくし、鼻もよくきく。犬は人間よりも鋭いんだ。
あなたは今日、デートに行った。僕には分かる。
いつもより少し時間をかけて化粧をして、いつもはつけない香水をつけて、あなたは出かけた。僕は香水が苦手だ。香水は匂いがキツくて鼻がひん曲がりそうになる。
あなたが出ていった部屋は、同じ部屋だとは思えないくらい広くて、部屋中が呼吸を止めたみたいに静かなんだ。
あなたは今日会っている人にどんな顔をするんだろう。もしかしたら僕が見たことのない顔をしてるのかもしれない。
そんなことを考えていたら悔しくなった僕は、あなたのベッドに寝そべってみる。あなたの匂いがして安心して、目を閉じていたら少しの間、夢を見ていた。これで少しは僕の匂いがついたかな。これは、いつの日かあなたの愛するアイツがこのベッドに入るような事態になってしまった時の対策なんだ。
ベッドからオスの匂いがするぞ!って誤解されたらいいんだ。そのまま喧嘩してしまえばいい。痴話喧嘩は犬も食わないって言うけど関係ない。そのまま犬猿の仲になってしまったらいい。そして僕の前で泣けばいい。僕は、あなたが泣き止むまでずっとそばにいる。
それから、そのまま僕のものになっちゃえばいいんだ。僕が好きなのは、あなただけ。初恋の時から今までずっと、あなたを好きでいる。僕の心はあなたのものなんだ。でもあなたの心は僕のものにはならない。そんなことは分かってるんだ。分かってしまうんだ。
両親が死んだからって19才にもなって、いとこのあなたの家に転がり込んで、毎日家事だけをして過ごす僕はあなたの犬みたいなものだよね。
そろそろ食器を洗って洗濯物を取り込まないとな。あなたの使った食器を洗うのも、あなたの服を洗うのも僕の仕事だ。
「ざまあみろ」
僕はあなたの彼氏を恨みながら呟いてみた。
はぁ、きっとこれは負け犬の遠吠えってやつなんだろうな。