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甘いカヌレをあなたに届けたい・Black sweet ・Canelé カヌレ  作者: さかき原枝都は
 届かない願い 前篇
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1.新たな日常

 僕は、学校の休みの日、主に土曜と日曜の早朝の仕事を手伝うことになった。


 ぎこちない生活感に幾分のゆとりと柔らかさ、そして二人の暖かさを感じ始めていた。


 でも僕と見えない大きく重い壁を感じる人がまだいる。

 

 そう彼女「恵美」だ。


決して彼女と仲が悪いというわけではない。


 同じ屋根の下に暮らすようになり、彼女とも気兼ねなく話せるようになった。


毎日顔を合わせ、


朝は「おはよう」の挨拶をし、


家の中ではみんなが集まれば普通に僕とも会話をする。


ただ、彼女「恵美」と二人きりで会話をしたのは、片手に入るくらいの回数に過ぎない。


 僕が「恵美」と始めて会話をしたのは、引っ越しをした日、部屋をかたずけているときだった。


 「こんこん」


 部屋のドアをノックする音を聞き、僕はドアを開けた。


 そこには、薄く淡い緑色をしたワンピースを着た「恵美」がいた。


 「ねぇちょっといい?」

 「え、あ、うん」


 彼女は、「お邪魔します」と言ってベットの上に寄せて置いていた荷物を、自分が座れるスペースを作り静かに腰かけた。


 「大変ね、まだかかりそう?」


 「そうでもないよ」


 僕は窓の縁に腰かけ、空を見上げながら答えた。


 正直、僕は彼女「恵美」と目を合わせることが出来なかった。


 「笹崎くん、私ね、パパからあなたがうちに来ることを訊いて、本当に驚いたわ」


 「お父様とお母さま、残念だったわね。お二人共よくお店にいらっしゃっていたのに」


 「とても仲がよくって、パパとママとも楽しそうに話をしていたわ。」


 「私と同じくらいの男の子が居るって訊いていたけど、それが笹崎君だったなんて思いもしなかったわ」


 彼女は、肩より少し長い金色の髪先を手で触りながら少しうつむいていた。


 「俺も驚いたよ」


 その言葉の後少しの間、窓から僕を隙抜けるように、夏の匂いがする風が部屋にながれこんでいた。



 少しの沈黙のあと


 「ねぇ笹崎君、あなたよくあの河川敷に来ていたわよね」


 彼女は、両手を後ろにやり僕を見上げながら問いかけた。


 「うっ」


 いきなり、やばいところを突かれた。心臓がドクドクと鳴り出した。


 「えーそ、それは・・・・」


 顔がものすごく熱く感じ、頭の中が真っ白になろうとしていた。あーやばい、いつもの悪い性格が露出しそうになった。


 「み、三浦、」


 彼女を見ると、笑うのを必死にこらえていた。



 「ご、ごめん、変なこと訊いちゃったわね。

だってあの時、あなた多分私に「告白?」したんでしょ。


顔真っ赤にして、かちんこちんになって、一人で舞い上がっちゃって。


だから分かったのわたし、なんであそこに毎週来ているのかって、あれから、学校にも来ていなったし心配したわよ」


 「しかたないかぁ、あんなことあっちゃたしね」


 僕の心臓はさらに早く鼓動し、胸のあたりが締め付けられるような感覚が続き、言葉を出そうにも上手く声にならなかった。


 彼女は、スッと腰かけていたベットから立ち上がり、僕いる窓の方にやってきた。



 「いい天気ねぇ、今日も暑くなりそう」



 窓辺にいる彼女の髪が風で軽くなびいた。


今僕と彼女の距離は、今までにない近い距離にいる。


手を差し伸べれば簡単に、彼女を抱きかかえることが出来る距離。


 彼女の甘い優しい香りが微かに鼻をかすめる。



 「ねぇ笹崎君」



 僕は苦しいのを押し殺し何とか声にした。


 「結城でいいよ。これから一緒に暮らすんだから」


 「そう、じゃぁ」


 「ユーキ」



 「あの時の答え」



 彼女は、僕の正面を向いて



 「私、ユーキのこと嫌いじゃないわよ。でも、付き合うとか恋人とかそんなこと、今の私には考えられないわ」



 「ごめんね」



 「あ、いや・・・・」


 僕の気持が急速に冷めて行くのと反対に、また心臓の鼓動が高鳴り出した。


 「こっちこそ、ごめん。もしかして、もう好きな人がいたんだ」


 彼女は少し、下をうつむいて頭を左右に振った。



 「今私の恋人は、あのアルトサックスよ」



 「人じゃないわ。でも私、うれしかった。あんなに真剣に告白されたの初めてよ。めちゃくちゃだったけど」



 「それって、よろこんでいいのかな?それとも落ち込むところかな?」



 彼女は、笑みをうかべて言った。


その微笑みは優しく暖かくそして、どこか寂しげな

 「ふふ、それはあなた次第かな」

 その時僕は、彼女を愛おしく、胸の中が熱くなるのを感じていた。



 「あぁよかった、これから一緒に住むのにギクシャクするのいやだったから」


 「そうだな」


 「三浦っ」

 「なぁに」


 僕は言いかけた言葉を飲み込んだ。


 彼女は不思議そうな顔をしていたが、ふいに腕を組み


 「私のこと、家の中でも三浦って呼ぶ気?」


 「え、でも」


 「ふう、「恵美」でいいわ。でも、ここでだけよ。学校では三浦さんよ」


 「それとこれは、私の友達しかしらない事なんだけど、実は私、ユーキより一つお姉さんなんだからね学年は同じだけど・・・」


 「ええ、そうなんだ」

 「なによぉ」

 プンと怒った顔が可愛い



 「精神年齢は、絶対俺の方が上だな」

 「ばーか」

 彼女は、くるっと向きを変えつぶやいた。



 「かたずけ頑張ってね」


 そう言って、彼女は部屋を出た。



 一人になった僕は、また窓から空を見上げていた。



 「アルトサックスかぁ」



 ふと、あの時の


 「私の何を知っているの」


 恵美のあの言葉が浮かんできた。



 彼女も何か辛い過去を背負っているような、そんなことを思いながら、



僕は青い空に浮かぶ白い大きな雲を眺めていた。



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