Prologue プロローグ
僕は、恵美が本当に愛した人と出会った。
北城 響音 彼はもうこの世にはいない。
だが彼の強い想いは、生きていた。
彼の母親と、先生、北城頼斗の父、彼、響音さんはこの人たちの心の想いの中に、今も生きている。
僕は、響音さんの家族に出会い、響音さんの存在が僕にとっても大切な存在になった。
恵美の奏でるアルトサックスの音色は、響音さんの声だった。
彼女はその声を確かめるかの様に、そして彼の想いを忘れないために、あの河川敷でアルトサックスを奏でている。
最愛の人との永遠の別れ。
恵美は、北城響音を愛していた。いや、今も彼を愛しているだろう。
でもその人は恵美の前には二度と現れることはない。
ただ、彼女の想いのなかで生き続けている。
僕にとって恵美といるあの町は、特別な町となった。
ある覚悟を持って。
その覚悟は、僕には辛いものになるだろう。
僕の妖精だった彼女、恵美は、僕の大切な女性となり、彼女に対する僕の想いは大きく変化する。
恵美を最愛の女性として……
愛するために。
Contents
第1章 姿亡き友人
幻想
Feelings 想い
第2章 The piled love 積み重なる愛
第3章 Readiness 心構え
opening オープニング
その墓石は何も語らない。
薄暗くなった墓地には、僕と先生の二人きりしかいない。
でももう一人、姿はもうこの世には亡いが心の中には生きていた。
彼の名は、北城 響音。
恵美が愛した人だ。
彼もまた、恵美を心の底から愛していた。
決して、砕け散る事のない強い愛を、彼は恵美に注いでいた。だが、その愛は彼女、恵美を失意のどん底へと導いてしまった。
北城響音は、その愛を注いだままこの世を去ってしまった。
そして恵美は、彼の愛と本当の自分の心の中の愛を、厚くそして硬い氷の中に閉じ込めてしまった。
自分では永久に溶かす事の出来ない氷に。
「恵美、そこはもっと柔らかく、優しく吹かないと」
「えぇ、響音にぃ。そんなこと言ったって、どうすればいいのぉ」
「よぅく訊いててごらん」
「ずるいよ、響音にぃ」
「どうして?」
「だって、響音にぃすっごくうまいんだもん。それに、響音にぃに見つめられてると、わたし、わたし・・・」
…………………
「やぁぁ、え、恵美。今日も来てくれたんだ」
「今日の調子はどう。病気少しづつ良くなって来ているんでしょ」
「あ、あぁ。すこしづつな」
「よかったぁ。こうしてお見舞いに来ているのも無駄じゃないよね」
「そぅだな………」
「それより恵美、お前サックスの練習最近してないだろう」
「だって、響音にぃがいないと練習出来ないもん」
「僕がいなければ本当に出来ないのか、恵美」
「そうよ、響音にぃがいるから、私サックス吹けるのぉ。響音にぃがいないと、何にも出来ないの私……」
「恵美、僕がいなければ何にも出来ないなんて言うな。
僕も早く病気を治す。
そして今まで遅れていた時間を取り戻さなければならないんだよ。
プロのサックス奏者になるために。
だから、もう僕に頼るのはやめてくれ。
本当に僕には時間が無いんだよ、だからお前みたいな下手で何にも出来ない奴のことなんか、かまってられないんだ」
「もう……いい加減……僕に、た、頼るのは、や、やめろ……」
「お前は、僕の、足手まといだ」
「お、響音にぃ……」
「ご、ごめんね……… 恵美」




