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甘いカヌレをあなたに届けたい・Black sweet ・Canelé カヌレ  作者: さかき原枝都は
 届かない願い 前篇

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1.戻れない想い◆昼下がりの午後

◆昼下がりの午後



 次の日、僕は恵美と近くの総合病院へ向かった。


 恵美は一人で行けるときかなかったが、ミリッツァは僕が付き添うようにと強く言った為、恵美もしぶしぶ了解した。


とは言っても二人が、並んで大通りを歩いているところを、同じ学校の生徒に見られたら大変なことに成りかねない。


なにせ恵美は、男子生徒どもにとってマドンナ的存在なのだから



 とりあえず、普段着ないジャケットにブルージンズ、頭にはこれもまためったに被らないキャップを被り何気なく持っていた、伊達メガネを着けた。



 「ユーキ何それ」



 「何それって、やっぱ変かな?」


 恵美は少し間をおいて


 「ユーキのその恰好嫌いじゃないわよ、意外、眼鏡に会うのね」


 面と向かって恵美から言われるとものすごく恥ずかしかった。


 「さあ、行くよ」

 「ねぇ、私病人なの、そんなに急かさないで」


 「ハイハイ、重病人様」

 「んもう」

 恵美は少しすねたように、頬を膨らませた。



 外に出ると、明るい日差しが満ちていた、昨夜は本当に冷えたんだろう、その光には暖かさを感じるには程遠い力だった。



 「寒い」



 恵美は、まだおぼつかない足取りで歩きだした。


僕はその少し後から彼女を見守る様に、後をゆっくりと歩いた。


 病院につくと恵美は受付をし、土曜休日外来の待合ロビーに向かった。


 ロビーには十人くらいの人たちが診察を待っていた。


恵美は真ん中の列の椅子に座り、僕はその後ろの列の恵美の後ろの椅子に座った。


 「あんまり話しかけないでよ」

 「わかってるよ」


 僕は、帽子を前に深くかぶり、足を組んで寝たふりをした。


 30分くらい待っただろうか、ようやく恵美の名前が呼ばれた。


 「三浦さん、三浦恵美さん」

 看護師が、恵美の名を読み上げ


 「はい、三浦恵美さん、2番の診察室へお入りください」


 恵美は、看護師が告げた診察室へと向かい診察を受けた。しばらくして恵美は元の椅子に戻ってきた。


 その顔を見ると目に涙をいっぱいに貯めて、今にもこぼれ落ちそうな顔をしていた。


 「インフルエンザの検査だって、鼻に綿棒入れられて苦しかった。それと採血もされちゃった」


 「そりゃ、仕方がないな我慢しな」

 恵美はしゅんとして前の席に座った。


 僕は、近くにあった雑誌を取り時間をやり過ごした。


 再び、恵美の名前が呼ばれ彼女は診察室に入った、検査結果が出たんだろう。


 10分くらいの後、恵美は診察室から出てきた。


 「どうだった」

 「ただの風邪だって、まだ熱高いからお薬飲んで寝てなさいって」



 僕らは、処方された薬を薬局から受け取り家へ帰った。


途中スポーツドリンクを一本恵美に渡し飲ませた。



 家に戻ると恵美はリビングの椅子に座り、恥ずかしそうに


 「ありがとう、いっぱい迷惑かけちゃったね。何かお礼しなくちゃね」


 「何言ってるんだ、同じ家に住む家族だろ、当たり前のことじゃないか」



 口には出したもの、僕の心はものすごく痛く苦しかった。


 どんな形にせよ、彼女に告白をして振られてしまった僕は、恵美への思いは捨てきれないでいたのだから。



 「ありがとう、やっぱユーキって優しいね」


 「それより、早く部屋で休みなよ、俺、店に行ってくるから」


 「うん、わかった」


 「あ、恵美」

 僕は恵美を呼び止めた。


「なあに、ユーキ」恵美は、髪をなびかせ振り返り、僕を見た。


 僕は恵美から顔をそらし、スマホを恵美の方に向けた


 「はい、赤外線」

 「えっ」


 「昨夜のような事、またあるといけないから、メアド」

 「そっかぁ、ユーキにまだ教えていなかったもんね」


 恵美はカバンからスマホを取り出し


 「ねえ、赤外線ってなあに?私、あんまり詳しくないし、もしかしたらそれって無いかも」


 「じゃ、電話番号言うから僕に電話かけて」

 「うん解った」

 「090-xxxx-xxxx」

 恵美から僕のスマホに電話が来た。


 「来たよ」


 そう言いって僕はその着信番号を、すでに作成済みの住所録に登録した。


 「ありがとう」

 「うんん、メアドは後でおくるわ」

 そう言うと恵美は2階の自分の部屋へと行った。



 僕は恵美の診察結果を告げに店に向かった。


もうお昼を過ぎていた時間、この時間なら店の入口がら行った方がいい。


 あのウッドドアを押すとカウベルがカランカランと鳴り響いた。


 ランチ時を過ぎ静かな曲が耳をかすめていく。



 「よう、笹崎」



 聞き覚えのある声で僕を呼んだのは、担任の北城先生だった。


 「どうしたんですか先生」


 「あん、俺がここに居ちゃ何かあるのかよ、俺はここの「カヌレ」のファンだと行ったろ」


 「いや、てっきり家庭訪問かと」


 「笹崎、お前が望むならそれでもいいぞ」


 「先生、あんまり結城を虐めないでください、私たちの大事な家族なんですから」


 ミリッツァは僕に恵美の様子を伺った。


 「ただの風邪だそうです。熱がちょっと高いので薬飲んで寝ててくださいとのことでした」


 「そう、よかったわ、恵美は?」


 「多分、部屋で休んでると思います」


 「そうか、ま、一安心だな」


 「もしかして先生、恵美のこと心配で来てたんですか」


 「ま、まぁな、俺はあいつの部活の顧問だしな、あんな電話もらうとな、普通心配するだろ」


 ちょっと照れ臭そうに言い放った。


 「あ、そうだミリッツァさん「カヌレ」を二つ持ち帰りにしてもらえませんか」



 ミリッツァはその注文を受けると、少し寂しげに


 「そう、今日だったわね」


 と言って、「カヌレ」を箱に2つ入れ綺麗にラッピングを施して先生に渡した。



 「先生、この分はいいわよ、家からの気持ち」

 「すみませんミリッツァさん」


 「今日、行ってくるのね」

 「ええ、これから向かおうかと」


 先生は、ふと僕を見ると


 「あの、お願いついでにもう一つ」

 「こいつ、笹崎、お借りしても良いでしょうか」


 ミリッツァは返事をためらったが

 「一緒に連れていくの」

 「ええ、多分」


 「そう、わかったわ、先生にお任せします」

 「結城、あなたは大丈夫?」

 「ええ、この後特別予定はないですけど」


 事の成り行きを黙って訊いていた政樹さんは、何も言わず、ただうなずいた。


 「よし、笹崎行くか」

 「先生、安全運転でね」

 「大丈夫ですよミリッツァさん、大事な生徒を乗せるんですから」



 こうして、僕は急遽、行先も告げられずに先生の車に乗り移動した。


 僕らが店を出た後、ミリッツァは

 「行かせて良かったのかしら」



 「さあな、その答えを出すのは結城次第だろ、恵美とこれからも付き合う上でな」




 彼は、ミリッツァの肩に手をやりそうつぶやいた。



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