6-8 都市型探索ゲーム
「やっぱ、転移ゲートだよな、コレ……」
ここに入るしかなさそうだけど……扉から発せられている渦巻く光の奔流からは、オレを拒絶しているような気配が感じられる。
別に明確な根拠があるわけではないけど、なんとなくイヤな感じだ。いきなりの一撃も食らったばっかだしなあ……。
今まで色んな人から拒絶されまくってきたから、そこら辺の空気には敏感だ。
オレがちょっと動いただけで、露骨に身構えるのとか、マジやめてもらえませんかねえ。本気で傷つくんで……。
放課後の教室に忘れ物を取りに戻っただけなのに、それまでの楽しそうなガールズトークが、オレがドアを開けた途端にピタッと止んで、早くどっかに行けよってオーラが全開になるのはなんでなんでしょうね? オレが悪いんですかね?
「ふぅ……」
こうしてても、しゃーない。
立ち上がったオレは砂を払って、一歩ずつ扉に近づいていく。
大丈夫。拒絶されるのは慣れている。
いくら拒絶されようが、その先待っているのがサタン子ちゃんであれば話は別だ。
オレは躊躇わずに光の渦を通り抜けた――。
見上げるほどの小高い丘。
刈り込まれた短い芝生。
丘の斜面を覆い尽くすほどの巨大アスレチック。
その光景に――オレは見覚えがあった。
実家を中心とした半径約10km。
それがニートを始めて間もない頃の、オレの散歩圏内だった。
金も、友だちも、やることも、なんにもなかった。
只々、時間だけが有り余っていた。
だから、歩いた。歩き続けた。
行き先も目的も決まっていない。
足の向くままに歩き続けた。
どこかにオレの居場所があるんじゃないか。
誰かがオレとの出会いを待っているんじゃないか。
別にそんなことは、これっぽっちも期待していなかった。
単に逃げ続けていただけだ――実家から、家族から、自分から、そして、現実から。
だけど、逃げ場所なんかあるわけない。
結局、歩き疲れて帰るだけの毎日だった――。
でも、そのおかげで公園には詳しくなった。
ネットで取り上げられるような有名所だけじゃなく、ご近所さんしか利用しない、住宅街のありふれた小さな公園まで。
砂場とすべり台しかないヤツとか。壊れかけた遊具が放置されたままの廃墟みたいなヤツとか。
途中から公園探しが無性に楽しくなっちゃってさあ、なんか都市型探索ゲームみたいなノリで。
散歩圏内の公園をコンプリートしてやるぞー、って勢いだった。
慣れてくると「この角を曲がればありそうだ」とか「ココら辺はハズレだ」とか、カンで分かるようになるんだよね。
いっそのこと、公園紹介ブログでも立ち上げようかとも思った。
でも、オレが公園でパシャパシャやってたら、通報待ったナシなことに気づいて、即断念したなあ。
つーか、その頃にポ○モンG○があったらなあ……。
オレみたいなオッサンがスマホ片手に公園をうろついてても、お咎めナシなのになあ……。
つくづく、悔やまれるわ~。
てゆうか、なんだ、オレ、結構楽しんでたじゃん!
さっきはネガティブ発言かましちゃったけど、すまん、それは忘れてくれ!
そもそも、楽しくもないのに毎日出歩くとか、オレにできるわけないよな。そんくらいだったら、蒲団被って寝てるわ。
いや、ホントすまんすまん。