1-9 白いふわふわ
タイトル変更しました(2016年10月19日)。
「なにふたりでいちゃいちゃしてんのよ」
ぷにぷになほっぺたを膨らませながら、神様が言った。
いや、あれがイチャイチャに見えるのか?
どう見ても、比呂子さんがオレをからかっただけだろ。
実際、もうこたつに頬杖ついてタバコ吸いながらニヤニヤしてるし。
やっぱオコチャマだな、この神様。
「そんなんじゃねーよ」
ぶっきらぼうに言い放ってみたが、顔が赤いのまでは隠しきれなかった。
うん、酔ってるからだな。
オレはごまかすように、唐揚げを口に放り込んだ。
もぐもぐと咀嚼し、ビールで流し込むオレに、神様がジト目で問いかけてきた。
「で、アンタ勇者になる気あんの?」
「うん。モチロン。そんな気これっぽっちもないぞ」
「じゃあアンタなにしにきたのよー」
「ほら、オレは今日からホームレスのニートだし、する事もないし、行く当てもないし、暇だったから来てみた」
「それに童貞だしな」
比呂子さんがまぜっ返す。
ちょっ、それ、恥ずかしいから言わないで。
それを聞いた神様がオレを見つめる。かわいそうな子を見る目だ。
「……ごめんね、そんなに可哀想な人だって知らなかったから」
うぎゃー、やめてー。
からかわれるのもツラいけど、同情されると死にたくなるからー。
まだ魔法使えるようになってから三ヶ月で、開き直る覚悟もできてないんだからー。
「……どうしても困っていたら、ワタシに言ってね」
顔を伏せ気味にして、小声で神様がそう言った。
でも、さすがに幼女相手にそれは無理ッス。
しかも人間じゃないし。神様だし。
いや、気持ちはすげー嬉しいよ。
でも……やっぱり初めては好きな人が相手じゃないと……。
そういうこと言ってるから、この歳まで未経験なんですよね。
はい、知ってます。
知ってるけど、しょうがないだろ。無理だったんだから。
だから、オレは黙り込むしかなかった。
「そんなワケだからさ、採用してやれば?」
どんなワケですか、比呂子さん?
童貞採用枠とかあるんすか?
それ確実に差別ですよ!
履歴書に「童貞・非童貞」って欄があったら、社会問題ですよ。
デモとかクーデターとか起こっちゃいますよ。怒っちゃいますよ。
ついでに言っておくと、履歴書に年齢書かせたりとか、面接で年齢聞いたりとか、他の先進国だったら大問題だからな。年齢差別で即炎上だからな。
ちゃんと人権意識をもっとけよ。
いいじゃねえか。
三十過ぎてまともな職歴がなくたって。
空白の数年間があったって。
「それとこれとは話が別だよ。やる気がないやつに勇者になってなんか欲しくない」
なんだよそれ。
身体は許せても、オレを雇う気はないってか。
大体なんだよ。勇者とか異世界とか。
意味わかんねーし。
「いいよ、比呂子さん。オレだって、変な貼り紙を見つけたから、どんなアタマおかしい奴が募集してるのか、ツラを拝みに来ただけだから」
「むかっ。なによ。あんたなんか――」
こうなるともうお互いに売り言葉に買い言葉だ。
そんなオレたちに、比呂子さんが呆れ顔で言い放った。
「試しに一回やってみればいいじゃねえか。二人とも選り好みできる境遇じゃねーだろ」
比呂子さんのその言葉に、二人黙りこんだ……。
オレ同様に神様も痛いところをつかれたようだ。
そうだよな……。オレもちょっと冷静になった。
電柱に貼り紙するくらいだし、やって来たのがこんな奴なのに弁当までくれるし、なんだかんだ言いつつもこうやって追い返さずにいるし。
こいつにも何かしら事情があるんだろう。
オレは手元にあったビールを飲み干して、一息ついて口を開いた。
「分かった。やってみる。どうせ、他にすることもないしな」
「意外とコイツ適性あるぜ」
「…………うん。ヒロちゃんの言う通りにするよ」
そう言うなり神様は立ち上がり、タンスから取り出した白いふわふわしたものをオレに押し付けた。
「はい、これっ」
「は? なんでバスタオル?」
「しょうがないでしょ! 学習机も大きな衣装ダンスもないんだからっ!」