5-26 小鬼
――――鬼だ。
小鬼がいた。
オレより頭ひとつ低い小鬼だ。
頭からチョコンと飛び出ているのはツノではなくて、ヘアゴムで結んだ赤い髪。
そんな子鬼が腰に手を当てた仁王立ちで、オレの前に立ちふさがっていた――――ごっちんだ。
小さなほっぺを真っ赤に膨らませている。
おたふく風邪かな?
――お風呂で覚醒したオレはゴキゲンだった。ゴム人間ではない。
お酒も美味しかったし、気持ちよく酔っぱらえたし、ゼル子ちゃんとの楽しい会話(ボディー・ランゲージ含む)で心身ともに癒されたばっかりだ。
いやー、それにしても、「いつでも大歓迎ですっ!」か。24時間いつでも来ていいって言ってたし、本気で入り浸っちゃうぞ!
現実の世界だと、比呂子さんには精神削られるし、ごっちんは物理で攻撃してくる。
ゼル子ちゃんが唯一の癒やしだよ、ほんと。リフレッシュ空間としてホームを是非とも活用するぜ。
それに――初めてちゃんとした味方ができた気がする。
比呂子さんの説明はテキトーだし、ごっちんもなんか他人事みたいに突き放した感じだし、サタン子ちゃんは一応敵対する立場だ。
よくわからんカタチで巻き込まれて、ワケもわからず始まった「勇者バイト」だった。
けど、ゼル子ちゃんの説明のおかげで、ようやくこの先が見えてきた気がする。なんとかやっていけそうな自信も、ちょっとだけどついた。
困ったら、いろいろ手助けしてくれそうだしね。
よーし、早速、明日も朝イチで行こーっと。
今日はもう、メンドくさい考えごとはヤメヤメ。
後は蒲団にダイヴして、爆睡するだけだ!
そう思いながら鼻歌交じりで着替えて、脱衣所の扉を開けたところで、小鬼とエンカウント――というのが今の状況だ。
「おそいっ!」
小鬼さんはご立腹のようだった。
プンスカとほっぺたを膨らませて仁王立ち。全身で怒りをアピールしてる。
けど、ちんまりとしたサイズのせいで、ちっとも威圧感がない。
というか、むしろ、かわいい。
「あー、すまんすまん」
よしよし、と適当に頭を撫でておいた。
「いつまではいってんのよ! わたしがおふろにはいれないでしょ!」
オレの手はパシッと払いのけられた。
「それより、なにかいうことあるでしょ?」
あー、これ、めっちゃ怒ってるパターンだ。
そんでもって、オレの嫌いなパターンだ。
小学校の担任のクソババ、じゃなかった、先生が「なんで先生は怒ってるか、わかりますか?」って言い出したときと同じやつだ。
「相手の怒りの原因を推測して謝罪しろ」って要求するとか、いったいナニサマなんでしょうね?
いつもは「言葉で言わないと相手に伝わりません」とか、言ってるくせにね。
まあ、今だったら、「更年期障害ですか?」とか、「旦那が構ってくれないからですか?」とか、ちゃんと答えられるんだけどな――。
でも、ごっちんの場合は、不思議とそんなに腹が立たなかった。
あのときは、許せないくらい腹立ってたのにな。
だから、オレは気づいた。気づくことができた――。
ああ、オレはあのクソババアが嫌いだったんだなって。
当時は「先生を嫌う」なんて許されないことだったから、自分の気持ちを押し殺していたんだなって。
オレはごっちんのことが嫌いじゃない。
嫌いじゃないから、多少のことなら許せるんだな。
そう思えたら、気持ちが軽くなった。
だから、いつもみたいに軽口を叩ける――。
「あー、そうだなー」
「なによ?」
「比呂子さんは? もう帰ったの?」
すっとぼけたオレの言葉に、「ばかああぁぁ!」と蹴りが飛んできた。
「あんた、いくらつかったとおもってんのよぉぉっ!」
さらにコンボで鋭い膝蹴りがオレの股間を直撃!
崩れ落ちて悶絶しながらも、オレの心は晴れやかだった――。




