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1-8 ノーベル賞

「エッヘン。ワタシが神野かみのゴッド子だ」


 ゴッド子と名乗る女の子が平らな胸を張って高らかにそう告げた。

 てゆうか、エッヘンとかリアルで言う奴初めて見た。


 外見も中身も小学生そのものなこの少女、本人いわく、ただの人間じゃなくて神様だそうだ。

 名前ベタすぎだろ。もう少し脳みそ使え。


 そんで、その見た目に反してオレの何十倍も生きているらしい。

 だから、「こどもあつかいすんなー」だって。

 その言い方がすでに全く説得力ないんだが。


 ちなみに、この神様(笑)がバイトの募集主だった。

 いや、もうここまでの一連の流れで、今さら驚かないがな。

 むしろ、背伸びしながら一枚一枚ペタペタと電柱に張り紙してた姿を想像すると涙ぐましいものがあるくらいだ。


 その神様が今までどこ行ってたかっていうと、近所の弁当屋でバイトしてたって……。

 まさかバイトの募集主が別のバイトしてるとか、まったくの想定外だった。

 それに、バイトしながらボロアパート暮らしってどっかの魔王さまかよ。


 んで、神様がバイト先でもらってきた弁当をこたつに入って食べながらビールを飲んでいる、しかも狭い部屋に女の子が二人も一緒に、ってのが今のオレの状況。

 比呂子さんと同じように、この神様も中身はアレだけど、見た目だけは文句なしの美少女だった。

 ショートカットよりちょっと長めの赤みがかった髪をリボンで結び、クリクリと大きな瞳に柔らかそうな口元、ちょこんと上を向いた小さな鼻。

 そんなちみっこ神様がオレの方を睨みながら、なにせ第一印象が最悪だからな、不器用な箸さばきで鶏のから揚げと格闘している姿がとてつもなく微笑ましい。


 なにこの天国。

 今まで生きててロクなことなかったけど、やっぱカミサマはオレのこと忘れてなかったんですね。今日から信心深く敬虔に生きるって誓います。

 って、目の前にいるチンチクリンがそのカミサマか。

 じゃあ、信者モードやーめた。


 弁当は神様と比呂子さんの二人分しかなかったんだけど、「腹減ってんだろ。いいからオマエ喰えよ」って比呂子さんが自分の分を譲ってくれた。酒とタバコがあれば生きていけるんだって。

 神様は嫌な顔してたが、比呂子さんの言葉には素直に従い、渋々とオレに弁当を差し出した。

 そんな偏狭な神様に対して、比呂子さんマジで気前がいいっす。どっちが神様だよ。


 とそんな感じで、オレと神様がこたつで向き合って弁当をパクついていると、


 「俺もこたつ入るぞ」


 とゲームを中断した比呂子さんがオレの隣に這入ってきた。


 近すぎるよ!

 密着しすぎだよ!

 なに腕絡ませてきてんだよ!

 当たってんだよ! 胸が! その大きすぎるやつが!

 こたつの中で脚を絡ませてんなよ!

 そんで、オレの肩に頭を乗せて、しなだれかかりながら「ふふふー」とか言ってんじゃねーよ!

 急に上目遣いで見つめるんじゃねーよ!

 それと、耳元にふーって息を吹きかけんの禁止! 絶対禁止!

 つーか、なんで急にデレキャラになってんだよ!!!


 いくら話しやすい相手っていっても、それは同じダメ人間っていうカテゴリーだからであって、異性だって意識した途端に全く話せなくなるんだぞ。

 いきなりキョドりだしてキモがられるんだぞ。

 彼女いない歴イコール年齢のオレを舐めんな。


 そんなオレの反応に満足したのか、比呂子さんはニヤリとして、すぐにオレから少し離れた。

 いや、だから、そうやって純情なオレをもてあそぶの止めて。

 本気で惚れてまうから。演技だってわかってても期待しちゃうから。


 童貞男子の惚れやすさをバカにしたらアカンで。

 コンビニでお釣り手渡しされただけで恋に落ちちゃうし、笑顔を向けられたらその子との結婚までのプランまで妄想しちゃうくらいだぞ。

 だからといって、変な絵を売りつけてくるのはヤメロ! 絶対にヤメロ!!!

 笑顔で話しかけてくる女の子は、宗教の勧誘か悪徳商法しかいないって分かりきっていても、ついつい騙されたくなっちゃうからな。


 いやー、マジで危なかった。

 オレ史上、最も女の子と接触した一時だった。

 メッチャ柔らかったし。

 スゲー良い匂いだったし。

 今でも温もりが残ってるし。

 ちょっと名残惜しかったりするし。


 それにしても、なんで女の子ってこんないい匂いがするんだ?

 研究者のみなさん、早くこの良い香り成分を解明して、抽出して、ボトル詰めして売り出してください。

 そうすれば、ノーベル化学賞と平和賞のダブル受賞間違い無し!

 救われない人々に愛の手を!!!

 ちなみに、エイ○フォーのフ○ーラルティアラで女子更衣室の匂いが楽しめるから、今のところそれで我慢しておこう。


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