5-11 コバンザメ
「ふたりだけになれましたね」
ニッコリと微笑むゼル子ちゃんが言う通り、比呂子さんが去ってオレとゼル子ちゃんだけがこの白い空間に取り残された。
「勇者登録も済ませましたし、勇作サマがよろしければホームに移動しましょうか。ここは殺風景ですから」
「ああ、構わないよ」
もちろん、オレとしてもそっちの方がいい。
ここはなんか落ち着かないし。
「それでは少しの間、目を閉じててくださいね、勇作サマ」
言われた通りに目を閉じる。
すぐに、もう慣れた感覚――本日3回目の転移だ。
「お疲れ様でした、勇作サマ。もう目を開けていただいても構いませんよ」
目を開けたら、そこは六畳間くらいのフローリングの洋間。
アンティーク調のローテーブルと革張りのソファーが一台ずつ。
さっきまで突っ立っていたはずなのに、気づいたらそのソファー座っていた。
そして、オレの膝の上にはゼル子ちゃんが横向きに乗っかっている……。
「なんで膝抱っこなの?」
「はい、わたくしの趣味です」
さも当然というふうに、一点の曇りもない笑顔で返された。
「それでは早速ですが、勇者登録に関して説明いたしますね」
「いやいや、ちょっと待ってよ」
「はい、なんでしょうか?」
「さすがにコレは落ち着かないから、下りてもらえないかな?」
この部屋にソファーは一台しかないが、二人並んで座っても充分なゆとりがあるサイズだ。
女の子を膝に乗っけて会話とか、おっパブみたいな行為はオレにはハードルが高すぎる。
オレのお願いにゼル子ちゃんは「勇作サマがお望みでしたら……」と渋々ながらも了承してくれた――んだけど、隣に下りても、やたらと密着してきた。磁石みたいにくっついてる。もしくはコバンザメ。
そういえば、大人になってから知ったんだけど、コバンザメってサメの仲間じゃないのね。スズキの仲間なのね。いや、ほんと、ビックリしたよ。すっかり裏切られた気持ち。
それでこのコバンザメ君だけど、自分より大きなものにくっついていないと不安になっちゃうヘタレで、サメに限らずカメとかクジラとかなんでもひっついちゃうの。節操ねーのよ。そんで、そういう大型生物が見つからない場合は、海底の岩に貼りついちゃうんだって。そんなん「食べてください」って言ってるようなもんなのにね。アホすぎっるっしょ?
そんなところにもの凄く好感が持てるから、是非とも水族館に会いに行きたいわけだ。だけど、リア充スポットの代表みたいな水族館にオレが行けるわけもないから、ネットで動画見て満足してるだけなんだよね……。水族館に行ったら、一日中でもコバンザメ見て過ごせる自信あるのに…………。
話は逸れたが、問題はこの密着状態だ。
この調子だと「ちょっと離れて」とか言ったら、ショボンと落ち込んだ顔とかされそうだしな。しょうがないから、ゼル子ちゃんのために我慢するか。カワイイ女の子を悲しませるわけにはいかないからな。決して、控えめなボリュームの胸が押しつけられてて気持ちいいからとかそういう理由じゃないからな!