5-8 ラノベでいうと5巻目
突然のゼル子ちゃんの口撃の余韻にぼーっと立ち尽くしていると、隣から声をかけられた。
「ひゅーひゅー、お熱いこって」
そういえば、比呂子さんもいたんだった……。
あまりの出来事に動転していて、そんなことまで気にする余裕はまったくなかったな。
つーか、なんでこの人たまに昭和のオッサンみたいな口調になるんだ?
いやいや、そんなこと気にしている場合じゃない。
もっと大事なことがあるだろ。
これはオレの初ちゅーだったんだぞ!
オレの初めてはなんの心構えもできていないうちに、突然奪われてしまった。
しかも、初めてがいきなり濃厚なベロチューとか……。
いや、でも、相手は人間じゃないし、これはカウントされるのか?
こういうときどんな顔すればいいんだ? 笑えばいいのか?
30年も童貞やっていると、妄想こじらせすぎて、理想のファーストキスへの思い入れとか、コ○ルト文庫に夢中な乙女たちに負けないくらいだ。
二人がキスに至るまでの道程(『みちのり』だぞ『どうてい』じゃないぞ)がなによりも大切なんだ、って強い信念を持ってるんだ。
ある日、自分の中の恋愛感情に気づいてしまって、でも、中々素直になれなくて、相手に嫌われていないか臆病になってしまって近づけなかったり、相手の気を惹くためにわざとそっけない態度をとったり、自分の気持ちを隠そうとして変にぎこちない態度とってしまったり、そんなこんなで少しずつ二人の距離が近づいていって、時には少し離れたりして、それでも、やっぱりお互い好きでしょうがなくて、そうやって二人でひとつずつ思い出を重ねていって、お互いの気持ちに気づいて、それからもなんやかんやとあって、そういうプロセスを散々に踏まえた末にようやく辿り着く終着点がファーストキスなんだぞ。ラノベでいうと5巻目くらいなんだぞ!
こんな出会ってから3分でやっちゃっていいもんじゃないんだよ!
大学時代に同じクラスだったイケメンチャラ男が言ってた「キスとかノリじゃね? 挨拶みたいなもんっしょ」じゃねーんだよ!!
こちとら、間接ちゅーですら今日の鍋パで初体験を済ませたばっかなんだよ!!
その間接ちゅーを思い出すだけで1ヶ月はおかずに困らないな、とかさっきまで考えてたんだよ!!!
………………いや、すまんかった。
動揺のあまり、ちょっと感情的になりすぎた。今は反省してる。
ほんとはもっとなにも考えずに行動すべきなんだよな。
リビドーに従って本能的欲求を満たしてきたから、人類はここまで繁栄したんだよな。
こんな乙女チックな妄想をグダグダと考えているだけで、なにもしてこなかったからこの年齢までキスもせずにきたんだよな。
オレらみたいな遺伝子タイプは淘汰されてきたはずなんだが、なにかの間違えで生き残っちゃっててすいません。人類発展の足引っ張っちゃってて、ほんとゴメンなさい。




