5-5 二人きり
「あれっ?」
風呂に入っていたはずだが、気がついたらオレはなにもない真っ白い空間にひとりでいた。
見知らぬ場所だが、この感覚には覚えがある。バイトで数回体験した異世界に転移するときの感覚だ。
砂場もないし、サタン子ちゃんもいない。
いつもとは別の異世界だと、直感的に認識できた。
寝落ちしたのか……。
結構飲んでたしな。
「ゆ、勇作っ」
後ろから声をかけられ、振り向いたそこにいたのは比呂子さん。
自分ひとりかと思っていたから少し驚いたが、その比呂子さんの態度にはもっと意表を突かれた。
比呂子さんは先程までとは違い、気恥ずかしそうにモジモジとしている。掛けてきた声もおそるおそるといった感じだったし、わざとらしく視線もそらされている。
おお、これはこれで初めて見るキャラで新鮮だ。
「すまん、勇作、さっきのは忘れてくれ……」
かつてない殊勝な態度で謝罪の言葉を述べた比呂子さん。
この人でも謝ることがあるんだ、とオレはいたく感動した。
それにしても、やっぱりさっきのは酔っていただけか。
謝られたけど、それがわかってむしろオレは安心した。
今まで超然としていた比呂子さんなんだけど、ふつうのカワイイ女の子らしい一面を垣間見れたことが嬉しかった。
それに生きていれば、酔っ払ってやらかして、後で死にたくなるくらい後悔することの一度や二度はあるもんだ。あんまり触れずにそっとしておいてあげよう。
今回のことをネタに比呂子さんをイジることもできるけど、それやったら三倍くらいで返されそうだし。
「別に気にしてませんよ」
「そっ、そうか。それは助かる」
つーか、むちゃくちゃカワイイな、この比呂子さん。
出会ってから今まで完全に主導権握られっぱなしだったけど、こうやって恥ずかしがりながら下手に出てる比呂子さんが、いろんな既出キャラの中で格別にいいな。もうずっとこのままでいてくれたらいいのに。
無性に虐めたくなっちゃうけど、下手につついてまたキャラ変されても困る。ここは無難に接しておこう。
「てゆうか、ここどこなんですか? 異世界っぽいのはわかるんですけど」
さっきまでの比呂子さんだったら、二人っきりの世界で思う存分セクハラを仕掛けてくるんじゃないかと警戒するところだが、今の比呂子さんならその心配はなさそうだ。いったいなんの狙いなんだろ?
「ああ、ちょっと勇作を連れていきたい場所があってな――」
バツが悪そうににコホンと咳払いをして比呂子さんが続ける。
「ただ、さっきの流れのままだとちょっと気まずくてな。一言謝っておきたかったんだ」
素に戻っちゃったから、ワンクッション置きたかったってことか。
「大丈夫ですよ。もういいですから」
「そ、そうか。勇作がよければ、すぐにでも行こうかと思うんだが……」
「オレはいつでも平気っすよ」
「じゃあ、早速だけど場所変えよう」
比呂子さんがそう言うと、視界全体が白い光に覆われ、オレは意識を手放した――。




