4-16 メイド服
「かいものいってくるっ!」
蒲団の上でグロッキーになってるオレに、ごっちんが投げかけるように言った。
「ごっちん」
「なによっ!」
「ありがとな」
「…………おとなしく寝てなさいっ!」
バタンと強くドアを締めてごっちんが出かけていった。
怒ってキツい口調にはなっていたが、それでもちゃんと掛け布団をかけていってくれたし、おでこには絞り直した冷たいタオルを乗っけってってくれた。やっぱりごっちんは優しいな。
ちょっと調子にのりすぎたかな、いろいろと限界だ。もう、寝よう――。
「ただいま」
ごっちんが小さな身体に大荷物を抱えて帰ってきた。
「ちゃんと寝てた?」
「ああ、今起きたとこ。おかげでぐっすりだったよ。二度と目が覚めないかと思ったくらい」
窓の外は既に赤く染まっていた。
蒲団から上半身を起こすと、さっきに比べてだいぶ肌寒い。
両脇に抱えた荷物をおろして白いコートを脱ぐごっちんの姿をぼーっと眺める。
「皮肉が言えるなら充分ね」
うがいをするために流しへ向かったごっちんが、通り過ぎざまにそう漏らした。
「なんかすげー荷物だけど、なに買ってきたんだ?」
ごっちんは、がらがらぺーっ、と3回うがいした後、ハンドソープでしっかりと両手を洗ってから、こたつに入った。しっかりした子だ。そういえば、「手うが」って流行ったのかな? 「流行らねぇよ」
「アンタのものに決まってるでしょ」
「オレの?」
「生活必需品。どうせアンタひとりじゃ、またすっぽかすでしょ。だから、ワタシが買ってきたのよ」
「お、おう。さんきゅー」
すげーな、出会って3日目で既に勇作くんの信頼度ゼロ!
さすがは神様、オレのことをよくわかっている。
こういう相手だとこっちも気が楽だ。
勝手にこっちのこと期待して勝手に失望する、自己完結型の人とかマジ勘弁。そもそも、オレに人並みを求めること自体が間違いだからな。
「アンタの趣味とかわかんないから適当に買ってけたけど、文句言わないでよね」
「いや、文句言えた立場じゃねーよ。さすがにメイド服着ろとか言われたら、ちょっと考えるけど……」
「アンタじゃないからそんなことしないわよっ! てゆうか、考えるだけなの!? そこは怒っていいところでしょ!」
「いや、別にオレ自身は着てみたいとはこれっぽっちも思わないけどさ。ごっちんがそういう性癖なら、まあ世話になってる手前もあるし、しゃーないから頑張って合わらせるように努力しようかなって。大丈夫、ごっちんがどんな歪んだ性癖をもっていてもオレは受け止めるから! 安心してカミングアウトしていいんだよ?」
「なんでワタシが変態であることが前提みたいな会話になってんのよっ!」
「えっ!? 違うの!?!?」
わざとらしく驚いてみたら、いきなり立ち上がったごっちんに足の裏で顔を踏みつけられた。鼻がグキってちょっと曲がった気がする……。