1-5 堕落ばんざい!
やっぱ、こたつはええなあ……。
実家のリビングへの立ち入りを禁じられてから、しばらくご無沙汰だったが、ほんと堪らんね。
この、段々とやる気とか向上心とか色々と奪われていって、「なんかもうどうでもいいやー」って感じが最高だ。
「堕落ばんざい!」って坂口安吾も言ってたしな。
このまま眠りにおちて、そのまま目を覚まさなきゃサイコーなんだけどなあ――。
部屋に流れるチープなゲーム音とこたつの温もりに浸りながら、オレは黄色くなった自分の手をじっと見つめた。
数時間前までは絶望にくれてたが、それに比べたら天と地の差だ。
こうやってこたつがあって、ミカンがあって、どんなに小さくても自分の居場所があるっていいな。
ここにオレがいて良いんだ、って安心感。
こんな感覚、もう何年も忘れてた。
どこにいても、常に居心地が悪かった。
なんのために存在してるの、って言われてる気がしてた。
なんでオメーここにいるんだよ、って思われてる気がしてた。
今、一緒にいるこの人は、壊滅的ダメ人間で、ぶっきらぼうで、つっけんどんで、傍若無人だ。
けど、オレを否定しないし、拒絶しない。
ビールやミカンも勧めてくれるし、話しかけたら返事をしてくれる。
「あのー」
「ん、なんだ?」
「色々聞いたりしないんすか? オレが誰だとか、ここにきた理由だとか」
「ああ。俺はお前に用がないからな。用があって来たのはお前だし、その相手は俺じゃなくて神野だろ」
「まあ、そりゃそうですけど……」
一刀両断。
たしかに言ってることは理にかなってるよ。間違ってないよ。
けど、ふつうそこまでスパっと会話を断ち切るか?
ちょっとは相手のことも考えてしゃべるものじゃない?
いや、コミュ症のオレが偉そうに言うのもなんだけど。
それでも、それくらいのことはオレでもできるぞ。
こんな返され方したら、会話続かないじゃん。キャッチボールしようよ。
アスペか? 会話する気がないアピールか?
どう返事したものかと黙りこんだオレに、彼女が声をかけてきた。
「話したいことがあるなら、勝手にしゃべってろよ。ちゃんと聞いてるから」
そうだった。別に彼女はアスベじゃないし、会話を拒絶してるのでもない。
単に、自分のやりたいように行動してるだけだ。他人のことなんかまったく気にせずに。
頭では理解したつもりだったけど、ここまで遠慮ない振る舞いをする人に出会ったのは初めてだったから、オレ自身戸惑っていたようだ。
彼女の本質が少しわかった気がした。
オレは彼女の背中に向かってぽつりぽつりと語り始めた――。