1-4 こたつのうえにあるみかん
――うわっ、寒っ!
全身を包む寒さに、オレは思わず目を覚ました――。
うー、頭がガンガンする。
どうやら、ビールを一気飲みした結果、酔いつぶれて眠っていたみたいだ。
オレは上半身を起こし見回した。
部屋の中、ぼさぼさポニテの女性が相変わらずコントローラを握ってテレビに向かっていた。
違いといえば、日が落ちて部屋に電気がついたのと、ビールの空き缶が増えたくらい……って五本も!!!
時計がないからはっきりとは分からないけど、オレの体感ではあれから一、二時間くらいしか経ってないはず…………飲み過ぎだろ!!!
「あのー」
「あ、起きたか」
相変わらず、振り向きさえしない。清々しいほどのゴーイングマイウェイだ。
でも、声のトーンから察するに、会話を拒む気がなさそう。
その声でオレは酔いつぶれる前の短いやり取りを思い出した――。
オレのことなんかまったく気にかけない傍若無人ぶりだった。
……けど、それは全然イヤじゃなかった。
馴れ馴れしく踏み込んできたり。先入観で決めつけたり。そんなのより、よっぽどマシだ。
「バイト募集の張り紙見たんだけど、あなたが神野さん?」
「ちげーよ。あんなダメな奴と一緒にすんな」
……………………。
オマエがそれ言うか?
いや、確かにオレもダメ人間だ。それは認める。
だが、オマエはオレ以上だろ。
見るからに。確定的に明らかに。
オマエがダメ人間って言う奴とか、むしろ一周まわってチョー真人間なんじゃねー?
でも、勇者とか異世界とか言い出す奴だし、やっぱ超絶ダメ人間なのか?
よし、なんか興味が湧いてきた。
「そのダメ人間さんはどちらへ?」
「そろそろ帰ってくるんじゃん?」
他人事のように無関心そうに返された。
「ダメ人間さんとどういう関係なんすか? それに勇者とか異世界とかどんなバイトなんすかね? なんか知ってます?」
「あー、そういうメンドイのは本人に聞いて。今、取り込み中だから」
そう言われても、暇そうにゲームしてるだけにしか見えないのだが……。
ってのん気に会話してる場合じゃない。いい加減寒さが限界だ。
「あのー、こたつ入ってイイっすかね?」
「なに遠慮してんだよ。自分の家だと思ってくつろいでろよ。そこのミカンも好きに食えよ」
「はあ、じゃあお言葉に甘えて」
つーか、ここオマエんちじゃねーだろ。
それに、自宅だと全然くつろげなかったんだけな、オレ。
自宅どころか自室を警備するだけで精一杯だったからな。
世間(主に家族)のニートへの風当たり、マジで強すぎだろ。
ってツッコみたくなったが、イロイロ考えるのも面倒なので、言われるがままにこたつに入り、積まれていたミカンに手を伸ばした。
こたつの暖かさに包まれ、二個、三個とミカンを食べていくうちに、体調も大分良くなり、オレのルサンチマンも薄れていった――。