14-17 甲冑少女
ごっちんによって作られた空洞の中をオレたちは再び走っていた。
「ごっちん、ありがと」
「別に、お礼はいいわよ。ワタシだって早く着きたい気持ちは一緒なんだから」
ごっちんが作り出した空洞は直径2メートルくらい。
そこだけぽっかり空いた空間が数百メートル以上(ヘタしたらキロあるかも)も先まで続いている。
森を貫くそのトンネルをオレたち走り続ける――。
途中、モンスターに襲われることもなかった。
というか、このフロアには他のモンスターがいそうな気配がまったくしない。
『勇者の身体』のおかげか、高いステータスのおかげか、周囲の気配をかなり遠い距離まで察知できるのだが、ひろちゃんとその対戦相手以外の気配は皆無だった。
だから、警戒することなく、オレたちは全力で走る――。
数分間走り続けトンネルを抜けると、そこは森の中にポッカリと空いた広い空間だった。
草木も生えておらず、地面には大きなクレーターのような痕が無数に刻み込まれている。
そんな中で、甲冑を纏った二人が剣を交えている。
白い甲冑はひろちゃん。
黒い甲冑は見知らぬ女の子だ。
二人とも大剣を構えている。
両者は物凄い高速で打ち合っている。
彼女たちの剣と剣がぶつかり合う高い金属音がこちらまで届いてくる。
ひろちゃんが戦っている相手はモンスターだと思っていた。
まさか、相手が人間だとは……。
それとも、人型モンスターなんだろうか……。
「あれがフロアボス?」
「いえ、あれは――」
「サミちゃんっ!!!!!」
オレの疑問に答えるかたちで、ごっちんが大声で叫んだ。
その叫びに甲冑少女が動きを止める。
少女はゆっくりとこっちを向く。
「カコちゃん…………」
こちらを向いた黒甲冑少女が驚愕の表情を晒す。
「……なにしに来たの?」
少女はキツい目付きでごっちんを睨みつける。
「…………謝りに来たの。サミちゃんに謝ろうと思って」
「ふーん。ずいぶんと来るのが遅かったね」
「そうね。一年以上もかかっちゃった。遅くなってゴメンね」
ごっちんの声は萎んでしまいそうなほど弱々しい。
サミちゃんは大剣を地面に突き刺すと、こちらに歩み寄ってきた。
14、5歳くらいだろうか。
長い黒髪を艷やかになびかせ、西洋人形のように整った顔立ちの美少女が颯爽と近づいてくる。
「ごめんね。本当にごめんね」
「その子がカコちゃんの新しい勇者?」
サミちゃんはごっちんの謝罪をサラッと流し、オレの方を見てから尋ねてくる。
「カコちゃん」てのはごっちんのことだろうか。
「ええ、そうよ」
「なかなか素質ありそうね。もうワタシなんか必要ないわね」
「そんなことないッ」
強く断定したけど、その後ごっちんは口を閉ざす。
「でしょー、素質あるでしょー」
「ひろちゃん」
黙りこんでしまったごっちんの代わりに、ひろちゃんが会話に紛れ込んできた。
「ありがとね、ゆーさく。迎えに来てくれたんでしょ。連絡とれなくてごめんね。昨日からずっとこの子と戦ってたから」
「ううん。平気だよ。ひろちゃんが無事でなによりだよ」
鎧はあちこち凹んだり、ぶっ壊れてたりで、戦闘の激しさを物語っている。
だけど、本人は怪我もなく元気そうだ。
ひろちゃんが無事でオレはほっと一安心。