3-11 たったひとつの冴えたやりかた
「話を戻すけど、簡単に言っちゃえば、魔王は依代なのよ」
「依代?」
魔王がなにかを依代にするならわかるけど、魔王自身が依代っていうのはどういうことだ?
「魔王自体は本来、悪でも善でもどっちでもないのよ。中立的な立場なの。ただ、その世界の負の感情――怒り、恨み、憎しみ、悲しみ、妬み、嫉み、僻み、悔み、恐れ、蔑み、忌み、苦しみ、無力感、屈辱、殺意、無念、絶望――それを集めて、増幅させ、それを体現させる存在。それが魔王よ。負の感情の強さが魔王の強さになるのよ。そして、そのチカラは世界を滅ぼそうとする」
「ふむふむ」
「勇者の役目は『魔王を倒して、世界を救う』ことなの」
「ほうほう」
「魔王を倒すってのは、その負の感情を昇華させることよ。ゲームみたいに魔王を殺せばいいとか、そういう簡単な話じゃないのよ」
「そんでそんで」
「世界を救うってのは、その世界の人々を幸せにすることよ」
「なるほどなるほど」
「この両方を達成するのが、勇者の仕事なの。わかった?」
「うんうん。いまいちわからん。魔王を倒す――負の感情がなくなれば、みんな幸せなんじゃないのか?」
「ぜんぜん違うわよ。極端な話、その世界の人々をみんな殺しちゃえば、負の感情はなくなるけど、それで世界を救ったとは言えないでしょ」
貧乏人を皆殺しにすれば貧困問題は解消するってブラックジョークがあったな。
同じ方法で高齢化問題も一気に解決だ。
たったひとつの冴えたやりかただ。
救われねえ……。
「それに、たとえ負の感情だけをなくしたとしても、それは一時的なもの。人々を幸せにしない限り、また負の感情はすぐに生まれてくる」
「臭いは元から絶たなきゃダメってことか」
貧しい人にお金をバラ撒いてもそれは一時しのぎ。
それで貧困問題が解決したわけじゃない。
おっけー、そういうことならわかった。
魔王を倒すだけじゃ世界を救ったことにはならないってことだな。
「じゃあ、逆に魔王を倒さずに世界を救っちゃうってのはどうだ? みんな幸せになるんなら別に魔王がいたっていいだろ」
「そりゃそうよ。もちろんそれがベストよ」
あれ?
それでいいの?
てっきり、それじゃダメって言われるものだとばかり思ってたから拍子抜けした。
それなら、少し気が楽だ。いくら魔王とはいえ、サタン子ちゃんを倒すとか、あまり気が進まないもんね。
「けど、それは無理だと思うよ」
楽観的なオレの考えは、さらっとひっくり返された。
「ほんとなら、負の感情があっても幸せになれる。幸せかどうかなんて本人の気の持ち方次第だからね。でも、それが簡単にできないからいつまでたっても苦しんでんじゃない、アンタたち人間は――」
「…………」
「――負の感情を抱えたままの人々を幸せにできる存在、それをあなたたちはカミサマって呼ぶんじゃない?」
神様はオレを、そしてオレたち人間を突き放すように微笑んでいた。
それは人間が愛玩動物に向ける態度と同じものだった。
「だから、世界を救うには魔王を倒して負の感情を消しちゃう方が手っ取り早いのよ。勇者の仕事はそれで充分。それ以上は求めていないよ」




