3-10 僕、アルバイトォォ!!
「まあ、最初だから簡単に説明するんだけど――」
神様による異世界講座が始まった。
「魔王に会ったでしょ?」
「サタン子ちゃんか? カワイくて良い子だったぞ」
サタン子ちゃん――長い黒髪と白い肌の幼女。
比呂子さんの言葉によると、彼女は魔王だ。
オレの知ってる魔王は、人類皆殺しだとか、世界の破滅とか、そういうのを目指す極悪な存在だ。
決して、泥んこプールに何回も何回もダイブしたり、小さなお手てでぺちぺちと砂山づくりに熱中したり、できあがった砂山の山頂で嬉しそうな笑顔を浮かべて「たかい!」とか言ったりしない。
サタン子ちゃんが魔王だとは今でも信じられなかった。
「あの子はまだ魔王になったばかりだからね。まだまだチカラも弱いからね」
「でも、凄かったぞ。いきなりぶっとい水柱を出してさあ。二人ともびしょ濡れになっちゃって」
「あの子が創った世界なんだから、それくらい当たり前よ」
「やっぱ魔王ってすげーんだな」
「なに他人事みたいに言ってるのよ。よかったわね、嫌われなくて。あの子がその気になったら、アンタなんか簡単に消滅できるのよ」
「……マジか?」
たしかに、あの水流がオレに向けられてたら、弾き飛ばされて大怪我していただろう。
それに、あれくらいはまだまだサタン子ちゃんの本気じゃなさそうだった……。
「あ、でも、それはあっちの世界の話だよな? こっちの世界で死ぬって意味じゃないよな?」
ちょっと焦るオレ。
神様はその顔に薄い笑みを浮かべて黙り込んでいる。
『――ナメてると死ぬぞ』
比呂子さんの脅し文句が頭をよぎった。
冷や汗が背筋を伝う。
「まあ、その時はひろちゃんが止めに入ってたわよ。そのためについて行ってくれたんだから」
ふうー。
その言葉を聞いて少し安心した。
暇潰しについて来たみたいな顔してたくせに、比呂子さんはちゃんとオレの心配をしてくれてたのか。
今度菓子折りを持ってお礼に行かないとな。あ、でもお酒の方がよさそうだな。
「そこらへんはひろちゃんに釘刺されてると思うけど、仕事中はあんま気を抜いてないほうがいいよ。勇者はコンビニバイトじゃないんだからね」
いや、コンビニバイトもなかなか気を抜けないんじゃないか?
深夜のコンビニとか、某牛丼チェーンのワンオペとか、レジ強盗さんいらっしゃいだろ。僕、アルバイトォォ!!
まあ、比呂子さんも「しばらくはあんま無謀なことはさせねーから」って言ってた。
だから、しばらくの間は命の心配をするほどじゃないんだろう。
けど、その先は…………。
うわー、勇者って超ブラックじゃねーかよ!
危険手当込みだとすると、10万円って金額も割りに合わねーよ!!!




