12-30 ドラゴン戦2
――そう。オレは勘違いしていた。
痛いのと熱いのは別物だった。
殴られたり、斬られたり。
そういうの痛みへの耐性はついていた。
だから、平気だとタカをくくっていたんだけど…………高温の炎がもたらす苦痛というのは、まったく別種、オレが未体験のものだった。
とても、耐えられるものじゃない。
嘘だと思うなら、キミもドラゴンのブレスを浴びてみるといい。
絶対に後悔するから。
その結果――。
「ぎゃあああああぁあぁぁぁぁぁぁ、熱い熱い熱いあついアツイあ゛つ゛い゛〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
ドラゴンのブレスをもろに直撃したオレは、地べたを転げまわってのたうち回る。
そのおかげで、引火した炎は消し去ることができたけど、結局、ムダに火傷を負っただけで、「振り出しに戻る」だ。
――ちっくしょ〜。
全身大火傷なブレスを浴びたオレだったけど、『勇者の身体』スキルのおかげで、たいしたダメージは負っていない。
体力ゲージが5パーセントくらい減った感じだ。
ただ、喰らったときの痛みまでは軽減してくれないので、オレは地獄のような苦しみを味わうハメになった。
残念ながら、『勇者の身体』スキルは、肉体は強化してくれても、メンタルは強化してくれないのだ。
――さて、どうしたものか。
といっても、他に選択肢はない。
華麗なフットワークでブレスを舞うように避けながら、鋭い攻撃を放つなんて技、オレには到底ムリだ。
当初の予定通り、多少くらいつつも、根性で耐えて攻撃するしかないな。
――ゴクリ。
嫌だなあ。
苦しいんだろうなあ。
ツラいんだろうなあ。
ホント、今すぐ帰りたいよ。
でも、そんなわけにはいかない。
オレは勇者なんだ。
サタン子ちゃんに格好悪いところは見せらんないよ。
だから、愚直に頑張るしかない。
他に取り柄なんかないオレなんだから。
大丈夫。
ごっちんの折檻だって、最初は死ぬほど辛かった。
いっそ殺してくれ、と何度も願った。
生きてるってなんだろ、って真剣に思った。
だけど、今はなんとか耐えられる。
ツラいことはツラいけど、なんとかなる。
「殺してくれ」って思いから、「ごっちん死ねよ」って思うくらいの余裕はできた。
だから、平気だ。
ドラゴンのブレスだって、今は死んだ方がマシってレベルだけど、そのうち耐えられるようになるはずだ。
オレは剣を構え、再度、ドラゴンに立ち向かった――。