1-3 部屋とこたつとダメ人間
イナズマ・ターンでワキト荘へ入ったオレは、チラシに書かれていた14号室をほどなく見つけた。
ドアにはオレが左足で書いた方が上手なんじゃねーかってくらい下手くそな平仮名で『かみの』と書かれた紙が貼られている。
チラシにあった名は『神野』。『じんの』って読むのかと思っていたが、まあ、ここで間違いないだろ。
そう思いノックすると、直ぐに中から返事があった。
意外にも若い女性の声だった。
「空いてるぞー」
……。
…………。
………………。
……………………。
しばらく待ってみても、それ以上はなにもない。
しょうがないから、「入りますよー」と言いながら、オレはドアを開けた――。
畳敷きの六畳一間。
花柄掛け布団のこたつ。
小さな木箪笥。
古いブラウン管の小型テレビ。
それに繋がれた旧世代のゲーム機。
そして、一人の女性。
こちらに背を向けてゲーム中だった。
バイト募集の主は変なむさ苦しいオッサンだと予想していたオレは、驚きつつもおずおずとその背中に声を掛けてみた。
「あのぉ……」
「てきとーに座ってな」
振り向きもせずに即答。
いきなり、そう言われてもね……。
馴れ馴れしくこたつに入るのもアレなんで、オレは部屋の隅っこに腰を下ろし、斜め後ろから女性を観察してみる。
ダラっとした伸び伸びのタンクトップにホットパンツ。
鬱陶しいから取りあえず括っといたという感じで雑に纏められたボサボサのポニーテール。
目ヤニがついてるすっぴん顏。
くわえ煙草でダルそうにコントローラを握るあぐら姿。
手元には飲みかけのビールのロング缶と空き缶灰皿。
全身から漂うダメ人間臭。
すぐわかった。
オレと同類だ。
まぎれもない社会不適合者だ。ダメ人間だ。
その上、それを恥じてないし、隠そうともしない。
オレよりも突き抜けている。
女性は苦手なんだけど、この人なら平気だ。
性別なんかよりもダメ人間っていう属性が圧倒的過ぎる。
ちょっと安心した。
そう思ったから、ちょっと落ち着いて考えられるようになった。
今まで呆気にとられていたけど、なにこの超展開?
疑問だらけっていうか、疑問しかねーぞ。
ツッコミどころ満載だぞ。
ということで、一番気になっていたことを尋ねてみた。
「あのー」
「ん?」
「寒くないんすか?」
今は十二月の夕ぐれ時。
暖房が入っておらず、日差しも悪いこの部屋は、むしろ外よりも寒いくらいだ。
トレンチコートを着てても肌寒さを感じる。
そんな中、こたつにも入らず薄着姿でゲームしてて、この人大丈夫なんだろうか?
「ああ、知らないのか? 酒を呑めば気にならなくなるんだぞ。イロイロとな」
ああ、全然大丈夫じゃなかった。頭が。
この人、俺の遥か上を行くダメ人間だ。
「キッチンの冷蔵庫に入ってるから、お前も呑んでいいぞ。あ、ついでにこっちにもう一本」
こんな寒いのにビールなんか飲めるかよ。
しかも、オレ一週間近くまともにメシも食ってないんだぞ。
それに、長年の引きこもりで運動不足だったのに、何時間も歩き通しでヘロヘロなんだぞ。
けど、こんな滅茶苦茶な状況なら知ったもんか。
オレは言われた通りにビールを取ってきて、ヤケクソ気味に一気に流し込んで、
うお~~~~。ビールうめ~~~~。
ちょーうめ~~~~~~~。
数年ぶりのビールは死ぬほど美味かった。
だが、案の定、オレはぶっ潰れ、そこで意識を手放した――。