11-3 本気な土下座
生涯で一番本気な土下座だった。
基本的にオレは謝らない。
自分が悪いと思っていないから。
なにかあっても、全部自分以外のせいにしてきた。
他人のせい。
体調のせい。
社会のせい。
謝罪する場合があっても、それは謝っているフリをしているだけだ。
説教を早く終わらせるためだったり、相手の怒りの矛先をそらすためだったり。
そのための手段として、「ごめんなさい」のポーズをとっているだけだ。
ちっぽけなプライドを守るために身につけた、オレなりの処世術だ。
とくに、ちんちくりんな神様に謝っている場合は、これっぽっちも自分が悪いとは思っていない。
理不尽なおこちゃま相手のご機嫌取りだとしか思っていない。
アイツ、意味不明なところにキレるポイントがあるからな。
でも、今回の土下座だけは違う。
本当に心の底からオレが悪かったと思う。
そして、本気で謝罪したいと思う。
比呂子さんに謝りたい。
昨日、オレと彼女はお互い一歩ずつ歩み寄った。
他の誰にも見せない心の大切な部分をお互いに晒しあった。
そして、それをお互い受け入れ合った。
不器用な二人が出会い、少しずつ探り合いながら、試し合いながら、相手を信じる気になれて、飛び込む決心をした。
普通の人なら簡単に立てるスタート地点に、回り道をしてようやくたどり着いて、そこから新たな関係が始まった。
そんな大事な、人生で一番大切な、二人の初めての夜。
一生忘れることがないはずの夜を、相手が覚えていないだなんて。
彼女に謝っても謝りきれない。
そして、もうひとり。
自分にも謝りたい。
昨日という大切な夜を覚えていたいのは彼女だけではない。
オレ自身だってそうだ。
彼女は最高に綺麗で、二人にとって最高に素敵な夜。
一生忘れることがないはずの夜を、オレが覚えていないだなんて。
オレに謝っても謝りきれない。
「ゆーさく、立って」
「ごめんなさい」
「いいから立って」
「ごめんなさい」
「もう、ほら」
立つようにうながされても土下座を止めないオレにしびれを切らしたのか、比呂子さんはオレの手を掴んで強引に立ち上がらせた。
彼女は真っ直ぐにオレを見つめる。瞳の奥まで見通すかのように。
オレも彼女の目を見る。
ここで目をそらしちゃいけないことは、さすがのオレでも理解できた。
「もう、怒ってないよ」
柔らかく微笑んだ彼女はオレを強く抱きしめ、熱烈なキスをくれた。