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2-3 きりもみ大回転

 比呂子さんにうながされて、二人並んでベンチに腰掛けた。


「それで、オレはどうしたらいいんすか?」


 死ぬほどビビってた状況から、どうにか普通にしゃべれるまでに持ちなおしたオレは比呂子さんに尋ねてみた。


「まあ、最初だから説明してやるよ」


 そう言うと、比呂子さんはホットパンツのポケットからタバコを取り出し、火をつけて、吸い込み、大きく煙を吐き出してから、言葉を続けた。


「張り紙の内容覚えているか?」

「『勇者になって魔王を倒す』でしたっけ?」 

「勇者の仕事は『魔王を倒して世界を救う』ことだ。魔王を倒すだけじゃあダメだし、世界を救うだけでもダメだ。その両方が必要だ」

「違いがよくわからないんですが……」

「今はまだわからなくてもいい。やってるうちにわかるだろ。ただ、『魔王を倒して世界を救う』、このことだけは絶対に忘れるな」

「心に留めておきますよ。それで、具体的にはどうすればいいんすか?」

「アイツが魔王だ」


 比呂子さんが砂場の縁にポツンと座っている幼女を指差した。

 幼女は先ほどから、オレたちの存在に気づいていないかのように、一点を見つめたまま動かずにいる。


「あの子がですか?」

「ああ、カワイイだろ。でも、魔王だ」


 比呂子さんは苦々しげに言いながら、タバコを靴底で強くもみ消した。


「ここはアイツがつくった世界なんだよ。アイツを倒してこの世界を救うのが勇作、お前の仕事だ」


「いや、ムリっすよ。いくらなんでも、あんなちっちゃい子は殺せませんよ」

「勇作、お前物騒な奴だな。いきなり殺すだなんだの言い出して」

「は? だって魔王を倒すって話じゃ……」

「早とちりするな。倒すイコール殺すじゃねえよ。ゲーム脳か?」

「……」


 やっぱりよく分からん。殺さずに倒すってことか?

 なんにせよ、幼女を殺すなどという胸糞ワルイことは回避できて良かった。

 もし、そんなこと命令されたら、比呂子さんだろうと神様だろうと、まとめてブチのめしてやる。


「それにお前は根本的に勘違いしてるぞ。あれは魔王だ。どんな見た目をしてようとな。いくら獅子の子が可愛くても、そいつは肉を喰う。生きるためにな。魔王だって同じだ。存在するだけで世界に災いをもたらす」


 比呂子さんの厳しい言葉と鋭い眼差しに、オレの頬を冷や汗が伝った。


 比呂子さんは表情をゆるめ、肌と肌が触れ合う距離に座り直した。

 両手がオレの両手に重なり、ギュッと握ってくれた。

 柔らかくて、温かい。

 顔が近づいてきた。

 湿った息が頬の皮膚をなでる。柑橘の香り。

 耳元で優しい囁き。


「大丈夫だよ」


 ビックリして思わずのけぞってしまった。


 けど、もう一度見た時には、もういつもの比呂子さんに戻っていた。


「今日は体験版のレベル1だ。フツーにやりゃー平気だって」


 タバコに火をつけながら、他人事のように言い放つ比呂子さん。


 はあああああああ~。

 なんかやる前からすでに疲れた。

 この世界に来てから10分もたっていないと思うけど、感情のジェットコースターがきりもみ大回転で、オレの寿命がストレスでマッハだ。

 完全に比呂子さんの掌の上で踊らされてるな。


「わかりましたよ。あの子を倒して世界を救えばいいんですね」


 オレはため息混じりに返した。


「おう。お前のやり方でやってみ。ヤバかったら助けてやるから」

「んじゃ、行ってきます」


 ベンチを立ち上がり、砂場に向かって歩き出したオレの背中に


「帰ったら、風呂で洗いっこしような~」


 と比呂子さん。


 まったくもう、この人は。


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