プロローグ 6page
俺はこの森の外へと出る決意を固めた。
この世界に来てから一度もこの森を出たことはない。しかし、フィエムの事を考えれば森から出ずに育てるということもはばかられた。
フィエムには、俺という父親しかいないのだ。父親の愛しか受け取ることができないのだ。
「フィエム、俺と一緒に外の世界を見に行こう。そして、お前はたくさんの事を学んで幸せな人生を…違うな、竜生を生きてくれ。」
フィエムは俺の首筋に顔を擦り付けてくる。
フィエムなりの愛情表現なのかもしれないし、フィエムが俺のことを励ましてくれているのかもしれない。
俺はフィーリアの残した一振りの剣を片手に持つ。あまりの斬れ味の良さに鞘にいれることすら出来ない程の剣だ。
これがあれば、俺はフィエムを守ってやることが出来る、そう思えた。
そして何より、この剣がフィエムを守ってくれると思っていた。
俺は勢いよく起き上がった。泣いたまま寝てしまったことに気付いてしまったからだ。
周りを見渡せば、人の姿のまま、俺の手を握ってくれているフィーリアの姿があった。
「なんじゃ、もう起きたのか?まだ日も上っておらぬ。まだ夜じゃぞ、夜とは寝る時間じゃ。」
薄っすらと目を開けたフィーリアが俺の体を無理やりベッドへと倒す。
ベッドに倒されて初めて、俺が俺自身の作ったベッドに寝ていることに気がついた。
大きな洞穴の真ん中にポツンとあるベッドに二人で眠っている姿は中々滑稽かもしれない。
「フィーリア、ごめん。」
俺は気付けばそう呟いていた。
フィーリアが俺の顔を抱き寄せる。
豊満な胸元に顔が押し当てられ、どこか甘い香りがした。柔らかな感触と甘い香りで、何故か心が落ち着く感じがした。
「何故謝る。お主は何か悪いことをしたのか?私は何もされておらぬ。心が痛いときは休まなければいけぬのじゃ。だから、今は休め。そしてまた、一緒にご飯を食べるのじゃ。
そしたら、私たちは家族も同然じゃ。」
家族…とは、こんなに暖かいものなのだろうか。こんなに優しいものなのだろうか。
そして何より、こんなにも愛おしく感じるものなのだろうか。
「フィーリア、ありがとう。俺と出会ってくれて、ありがとう。」
少し上から聞こえる優しげな声に、俺の心が溶けていく感じがした。安心してしまった俺は睡魔に抗うことをやめてしまった。
でも、最後にフィーリアが言った言葉だけは、不思議と僕の耳に届いた。
「好きなだけ、ここにおるが良い。その方が、私も嬉しい。」
これで、プロローグは終わりです。
このまま、二種類の話を進めていくか、片方ずつ進めていくか迷っています。
とにかく、プロローグだけですが、楽しんでいただけたら幸いです。