プロローグ 3Page
「ははは…。はは、は…。なんだよ、コレ。ホント、何なんだろうな。」
必死に立ち上がろうとしては倒れるを繰り返した小さな黒竜は、その輝く瞳を俺へと向けた。
俺には何をしてやるコトもできないのに。
「何でだよ…。なんで、コイツが生まれるまで、待ってくんねぇかな。コイツ見たら、アイツだったらどんな反応するかな。喜んだだろうな…。二人の子だぞって。何をほうけておるって。そして俺はさ、ニヤニヤしながらさ、コイツ抱くんだよ。そして初めて気付くんだ、俺は父親になったんだって。」
抱いてやるコトすらできやしない。
俺は、たった今、この子の母親を殺したばかりなのだ。
そんな人間が、返り血を浴びた人間が、子供を抱ける訳がない。
「俺はその後、何て言うかな。パパだよーとか言うのかな。コイツの鱗触ってさ、硬いとか言うのかな。そんで、やっぱお前と同じで硬えよとか言ってさ。アイツも怒るんだろうな。」
ポタポタと地面に雫が落ちる。
雨かと思って空を見上げるが、俺の葛藤など知らんとでも言うように、カラリと綺麗な青空を見せていた。
雨が、返り血を洗い流してくれたら、どれだけ良かっただろう。
そうやって考えて、やっと、俺の涙であるコトに気が付いた。
「それって、黒竜の一人娘ってのは、自己紹介に絶対必要なの?」
一瞬、何を言われているのか理解をしていないような表情をしていたが、すぐに何かに気付いた。
そして、俺の顔をジロリと睨む。
いや、睨んでいるわけではないのかもしれないが、こちらを見つめていた。
「竜にとってどの竜の子供であるかとは、人にとってのステータスと同じ位の意味を持つのじゃ。我々にとって血筋とは、そのまま自らを証明するものであり、自らの可能性じゃからな。」
可能性というコトは、自分はそこまでいける可能性のある竜というコトなのだろうか。
それならば、誰の子供であるかは大事な要素なのかもしれない。
「へぇー。そういえば、俺はなんて君をなんて呼べばいいの?」
俺にとって、かなりの問題である。
外人と同じなら、フィーリアが名で、オーリスが姓だろう。
日本人と同じ可能性もあるが…。
「ふむ。フィーリアと呼ぶがいい。嫌ならオーリスでも良いが…。私は自分の名が気に入っている。父が遺してくれた、たった一つのものだからな。」
やはり、フィーリアが名のようだ。
しかし、今の言葉を聞く限り、フィーリアの父親は亡くなっているようだ。
あまり、父の話題を出すのは得策ではないだろう。
「フィーリア、俺のコトは詩音って読んでくれ。あまり、苗字は好きではないんだ。嫌いな人達と血が繋がっているコトをわからされるから。」
俺もまた、両親の話はあまりされたくないのだ。
父も母も兄も、俺は余り好きではない。
いや、父や母や兄が俺を好いてはいなかったというのが正解だ。むしろ、嫌われていた。
「詩音、よろしく頼む。しかし、詩音。どうするのじゃ?私には街に行く道がわからぬ。まぁ、一方向に歩いて行けばどこかにはあるだろうが、それでは余りにも気が長すぎるであろう?」
確かに、次の街に着くのが、一月後とかだったらツラすぎる。
俺の予測が正しければ、ココは中世辺りまでの文化だと思う。
近代的になってるとしたら、この自然が余りにも自然過ぎる。
それを考えると、街が日本みたいにちょこちょこあるとは考えない方がいいだろう。
「どうすると言われてもな。とりあえず、2〜3日泊めてくれないか?寝床と飯があればいいんだが…。この所食べていないんだ。だから、少しでも体力を回復させたい。」
両親から、俺は虐待を受けていた。
食事を与えないなんて当たり前、時には暴力をふるわれたり、家に入れて貰えないコトもあった。
そして、俺がココに来るキッカケも兄の代わりに犠牲になった結果だった。
「構わぬよ。私が住んでいる所はココからすぐ近くにあるのじゃ。とりあえず、着いてからじゃが…。困ったコトがあればいつでも言うといい。私は友人を家に招くのは初めてなのじゃ。」
愛する人を殺すってのは、どんな気持ちなんでしょうね?
なぜ殺したのかは後々です。
そういえば、この前、子供を抱きました。
手のひらに俺の指を乗せると、ギュって握ってきて…。
やっぱり、子供って可愛いですね…。
いつか、子供欲しいなー。