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wish fairy  作者: 月城スイ
1/5

出逢い



美しい女狩人の不思議な出会いの物語。

舞台は、豊かな自然に囲まれたとある村。



 セレナ・ルーデンは、この村でたった一人の女狩人だった。

「セレナ、今日も男たちに混ざって、狩りに行くのかい?」

「はい。いってきます!」

 元気よく返事をしたセレナは、森のほうへかけて行った。

長い金髪をポニーテールにしているため、セレナが走るたび軽やかに揺れた。150センチほどの身長に細身な体を、茶色く丸襟のついたシャツに、すそに向かって広がった向かい緑色のキュロットスカートで覆っていた。低めのヒールの茶のブーツを合わせ、狩人さながらの風貌である。美しい瞳は、淡い水色だ。

「おーい!みんなー!」

セレナが手を振った先に、同じ狩人の男たちが待っていた。

「おー!セレナ、早かったなぁ!」

セレナを迎え入れ、狩り場へと一行は向かって歩き出した。

「それにしてもよ~…いつも言ってるけど、セレナ、お前が狩人なんて、もったいないぜ…」

一人の言葉に男たちは賛同の意を示した。

「本当だよ。お前ほど美人な女もなかなかいねーってのに…ま、俺たちは嬉しいんだけどよ!」

そういって、男たちは豪快に笑った。男たちに合わせて、セレナもふわりと笑って、答える。

「何を言っている。みんなでからかっているのだろう?…私は父のような狩人になると決めているんだ。それに、そのほうが似合いだよ。」

(もったいない…)

男たちをよそに、セレナは決まって「父のような狩人に」と答えるのだった。白い肌にドールのように整った顔立ちのセレナは、村一番の美人であった。

「おかしいな…確かに、このあたりのはずなんだが…」

森をしばらく歩いて行くと、開けた場所に出た。一行は足を止める。

「今日は、何を狩る予定なんだ?」

―ガサッ

「セレナ!」

その時、セレナの背後で不審な音がした。セレナが振り返ると、熊が出てきた。セレナはとっさに、腰に持っていた剣を抜こうとしたがその手を止めた。

「セレナ!下がってろ!」

男たちが熊と対峙していた。

「みんな!」

「心配すんな!これくらい大丈夫だ!」

セレナの声をさえぎって、意気揚々と男たちは答えた。

「いや…」

セレナは、苦い表情をした。

―バキッ

男たちは熊を撃退し、セレナを振り返った。

「怪我はねーか、セレナ?」

「……あぁ、ありがとう。」

無理に笑って、セレナは礼を言った。

(あれくらい。私だって倒せるのに…)

村で一人の女狩人であるセレナは、他の狩人たちにいつも守られていたのだった。セレナはそんな優しさに感謝しつつも、もどかしい思いを抱いていたのだった。

(女扱いなんていらない…危険を怖がっていては強くなることはできない…いつか必ず、父のような狩人になってみせる…願い続ければきっといつか…)

セレナは、小さい頃に母親に教えてもらった言い伝えを信じ、狩人になった。

『村の隣の森に、願いを叶えてくれる妖精がいるの。その妖精は、願いを叶えると…』

(…やっぱり最後までは覚えていないな…)

セレナは、言い伝えを最後まで覚えてはいなかった。それでも、いつか願いがかなうことを信じているのだった。

「うわぁ!なんだあいつは!?」

「!」

考えにふけっていたセレナが振り返ると、男たちが叫び声をあげていた。

「なっ…!」

狩人たちの目の前に、5メートルはあろうかという巨大な熊が迫っていた。

―バキッ

「うわぁ!」

「お前ら!よけろ!」

―ドガッ

次々に男たちが倒れていく。セレナは今度こそ剣を抜いた。

(さっきの熊の親か!?それにしてもこの大きさは…)

「グワァァ!」

巨大な熊が、セレナの前へ突進してきた。

「くっ…」

「セレナ!」

一人の男が、セレナを守るように躍り出た。

「逃げっ…」

―バキッ

「うわぁ!」

セレナの目の前で男が吹っ飛ばされた。

(……!また…!)

セレナは悔しさに表情をゆがめた。

「セレナ!逃げろ!」

「逃げろ―!」

男たちの声に周りを見ると、立っているのはセレナ一人だった。

「みんな…」

「逃げてくれ!セレナ!」

目の前に再び巨大な熊が迫ってくる。

セレナはまっすぐに剣を構えた。

「セレナ!何を…」

「私だけ逃げるわけにはいかない!」

そう言ってセレナは走り出した。

「セレナ!」

―ドガッ

「うわぁ!」

セレナは熊の腕に突き立てようとした剣とともに吹き飛ばされ、倒れた。

「セレナ―!」

男たちの声がかすかに聞こえる。

(くっ…今まで守られてきたからか…全然…戦えないじゃないか…!)

打ちつけられた全身が痛む。

「グガァァ!」

セレナの目の前で、熊がとどめを刺そうと爪を振り上げた。

「なん…なんだ…私は…」

宝石のような水色の瞳から、涙がこぼれ、セレナは悔しさに歯を食いしばった。

「……大丈夫だよ。」

―キィィン…

「!」

「グガァァ!?」

熊が攻撃をする瞬間、軽やかな声が聞こえた。

同時に熊の攻撃は弾かれ、セレナの目の前に少年が立っていた。

「え……」

セレナは瞳に少年を映して、驚いて見つめる。

金色の髪は、猫の毛のように気まぐれにはねている。整った顔立ちに、深い緑の瞳がきらめいていた。

燕尾服にシルクハット。首元には、ふんわりと白のスカーフを巻いて、襟元からのぞかせていた。白と黒の服装にアクセントをつけているのが、ハットの装飾とブローチ。どちらも赤、黄、青、ピンク、緑など様々な色の羽や花が夢のように飾られていた。

(誰…だ…?)

少年はセレナを優しく抱き起して、手を握った。

「な…にを…」

体が痛むセレナは、戸惑いながら少年を見た。

「君があいつを倒すんだ。」

少年は優しく笑った。

「そんなこと…」

震える唇でセレナがつぶやくと、少年は瞳を閉じた。

―ふわっ

少年とセレナのまわりを白い光が包んだ。

「できない?」

―ぐいっ

少年はセレナの手を引っ張り、無理矢理立たせた。

「!…立てた…?体が…動く……!」

セレナは立ち上がって、突然回復した体を動かして、驚く。その目の前で、少年が人差し指をひょいっと動かすと、地面に落ちていたセレナの剣が、セレナと少年の間に飛んできて浮いた。

「剣が…」

―ポンッ

少年が指で剣を触ると、まぶしいくらいに白く光った。

「さぁ、剣を手にして。君ならできる。いや…君にしかできない。」

深い緑の瞳で、少年はまっすぐにセレナを見つめた。セレナはきょとんとして見つめ返した。

(不思議なことが…起こりすぎて…わけがわからないけれど…)

水色の瞳にセレナは決意を映した。

(私がやるしかない!)

「わかった!」

セレナは剣をとって、熊に向かってかけだした。怒り狂った熊もセレナに向かって走ってきた。

「セレナ!やめろぉ!」

男たちは、叫んだ。しかしセレナは、止まることなく熊の目の前に飛び込んだ。

「グワァァ!」

「せやぁー!」

相手より早く、セレナは攻撃をする。熊の肩から斜めに剣を振りおろした。

「グガー!」

―ドシーン!

巨大な熊は、倒れた。

「はぁ…はぁ…」

セレナは肩で息をする。

(なんだ…今のは…私だけの力で、あんな巨大な熊を…)

セレナが振り返ると、先ほどの少年の姿はなかった。

(あの少年は…どこへ…?)

「セレナ…」

「そうだ!みんなを…」

それからセレナは村へ助けを呼びに行き、狩人たちの手当てをした。セレナの活躍は、男たちによって村人に知らされたが、少年の姿を見たものはいなかった。


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