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レモン  作者: 河 美子
7/12

青いリンゴって素敵かも

 どうしてこの二人なんだろう。

 クリスマスのイルミネーションで飾られた庭園を眺める。

「どうしたの」

「ううん」

「本当は敦夫と過ごす予定だったんだろ?」

「ううん、くじ引きまでの話だから」

 と言いながらもみじめな自分につつーっと、涙がこぼれちゃった。

「わー、わかりやすいね華さんって」

「失礼ね、別に悲しくなんかないわよ」

 強がったところでこの状況のおかしさは否めない。

「今日は僕の好きな店に行かない?」

「クリスマスに予約なしで行けれる所ってあるの?」

「うん、僕の母の店だし」

「えっ、お母さんはどんな店してるの?」

「ゲイバー」

「うっそ!」

 そういう店なら興味あるある。

「行く行く」

 思わず二つ返事で行くことにした。

 恒夫は笑いながら歩き出した。彼のお母さんという想像の中にゲイバーはなかったわ。その店は名前は「青いリンゴ」と言うんだって。それもまたびっくりなネーミング。

 二人で話しながら歩くと、私たちも立派なカップルと世間の人は見ると思う。それはそれでうれしい。だって、今日は一人ぼっちになりたくないもの。

 おっとびっくり、と言いたくなるような毛深い女性がいるかと思うと、これまた絶世の美女もいるこの界隈。

「恒夫ちゃん、元気?」

 怖いような低音で話しかけられた。

「ああ、みっちゃん。元気だよ。ママいる?」

「ええ、でも満席よ」

「そっか、でもいいさ。カウンターに入ればいいし」

「ありがとう、今日は助かるわ」

 その低音のみっちゃんは、金髪で色白、足も手も細いけど、骨格が立派。そう、背が百八十センチはあると思う。彼女の後をついていくと、青いリンゴが見えてきた。

 青いリンゴと書かれた店は、大きな木のドアで開けると薄暗くジャズが聞こえてきた。

 中はボックス席が四つほど、カウンターには五人座っていた。クリスマスツリーが店の中央にあり、その陰からママが出てきた。 

「いらっしゃい。手伝って。ビールが四つ、おつまみが二つ」

「うん」

 恒夫がさっさとカウンターに入るから、私はどうするのと言いかけたところで、彼が手を引っ張った。

「ママ、この子も手伝う。エプロン貸して」

「裏にあるわ。サンキュー」

 わからないままに白いフリルがたくさんのエプロンを着せられた。

「あら、可愛いわね。でも、女の子はいらないわよ」

 と、ハスキーな声で客に言われた。

「まあまあ、そう言わないで。ママだけじゃ今日は手が足りないんだから」

「あーら、恒夫ちゃんがそう言うならいいわあ」

「マサルさん、今日はお店休みなの?」

 マサルと言われた人は、にこっと笑いながら煙草に火をつけた。

「ええ、これからよ。この店で飽きた人を連れて行くの」

「あら、ずるいわね」

 恒夫のママが後ろから声を掛けた。おつまみは柿ピーとキッスチョコ。恒夫は更にキッチンペーパーをさっと折り、その上に盛った。手慣れた様子で、ビールも注ぐ。

「恒夫ちゃん、こっちにはハイボール」

「はい、ちょっと待ってね」

「うん、いつまでも待つわ。閉店まででも」

 マサルさんは本気の顔だ。ちょっと怖い。

「華さん、そのおつまみ、あそこのボックス席に持って行ってくれる」

「はい」

 よくわからないけど、この雰囲気は好き。この店も好き。ママもいい感じ。何より恒夫はかっこいい。さりげなく客たちと交わす会話も楽しいし、気をそらさないいい人だ。

「お待たせしました」

 ボックス席に届けると、そこのサラリーマンたちがはやし立てる。

「可愛いねえ。ママ、こういう人もいるんだね」

「失礼ね、みっちゃんはうちの花形なのよ」

「そりゃ、みっちゃんはいいけど。この子みたいな可愛いのがいいなあ」

 肩をぐっと掴まれた。みっちゃんだ。

「この細い肩では男をあしらえないわよ。私みたいなのでないと」

 筋肉が盛り上がるみっちゃん。すごいわ。すると、みっちゃんは耳元でこういった。

「恒夫ちゃんと付き合ってるの?」

「いえいえ、そんな」

「まあ、いいわ。あの子はいい子だから泣かしたら許さないわよ」

 ううう、この人ににらまれることは避けたい。この体力では負けてしまう。

「華さん、ビール」

「はい」

 気を利かして呼んでくれた恒夫。

「みっちゃんはいい人だよ」

「そうね、とっても」

 それ以上は言えない。

「このチョコをそのグラスに入れて」

「はい」

 氷と棒チョコを入れると、ちょうどミラーボールが回りだして反射して美しい。

「次は恒夫が弾くわ」

 ママが有線のスイッチを止めると、恒夫を呼んでいる。ピアノが見える。

「へえ、弾くのね」

「ちょっとね」

 恒夫は腕をまくりながら舞台へ進む。

 客席からテープが飛んだ。マサルさんだ。

「いいわああ、恒夫ちゃあん」

 曲はトルコ行進曲。だけど、ジャズっぽくアレンジしてとても素敵。こんなトルコ行進曲聞いたことがない。髪がキラキラして先ほどの紙テープを私が投げたいほどいい感じ。

 すると、ママが恒夫の隣に立って連弾を始めた。

「わああああ!!」

 マサルもみっちゃんも興奮のるつぼ。もちろん、私も。こんなセッション大感激。

 思わずテーブルにあったビール、飲んじゃった。

「こら、それ私のビールよ」

 マサルさんが怒ったように言ったけど、顔は笑っていた。

「いいでしょ、この親子」

「うん、最高」

 私のボルテージは勝手に上がっていった。

 

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