表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レモン  作者: 河 美子
6/12

クリスマスイブなのに、WHY?

 あの二人の仲のよさそうな雰囲気が頭から消えない。

 純と敦のツーショットは似合いすぎ。

 面白くないけど、クリスマスパーティーはどうしても行きたい。そんなことを考えると、恒夫が指揮台に立った。ほーっ、その白いシャツがとてもよく似合っている。

 グリークラブの歌声は私の邪な心にも優しく入ってくる。

 響く歌声。

 クリスマスにこの歌声を聞いたら夢の世界にいざなうって感じ。

 二時間を超えるコンサートは無事終了。カーテンコールも二回。恒夫も感動した様子で顔が紅潮している。ふと、私は自分が泣いていることに気付いた。

「どうしたんだい? 泣いてるの?」

「ちょっと感動して」

 敦は意外そうな顔をして、ハンカチを出した。

「持ってる。でも貸して」

 敦のハンカチはポケットに入っていたから暖かい。そんなことを感じていたら、横の純が敦に話しかける。

「今日はこれからデートですか」

「いやあ、華と大くじ引き大会に行くのさ」

 なんでそんなことを彼女に言うわけ?

 どうしてデートだって言わないの?

 ハンカチを返す気持ちが失せた。

 丸めてバッグに押し込んだ。

 会場を一人でさっさと抜け出した。後ろから敦が追いかけてくる、来ない?

 敦はケータイで楽しそうに話してるじゃないの。どこまでも私の不本意な状況なのね。

「うんうん、いいよ。くじ引きしたらそっちに行くから」

 誰と話してるの?

 その笑顔は翔なのね。

 クリスマスぐらい女の子のいるほうを選んでほしいわね!

 仕方なしに敦が来るのを待っている私。

 愛されてないってわけね。やっぱり。

 これっておもいっきりつまんない。

「ああ、ごめんごめん。翔からだった」

「それで?」

「パーティーのくじ引きをしたら行くって言っといた」

「どこに行くの」

「翔の家」

 なんで、クリスマスイブに翔なのよ。

 おしゃれしてきた私はなんなの。

 怒ったところで仕方ないのよねえ、私は告白されてないし、しかも敦が翔のことを好きなのは知ってるし。所詮実らない恋だもんなあ。

 ホテルの大広間で行われるクリスマスパーティーは、大盛況だった。家族連れがどっさりで、毛皮のコートを着た女性とタキシードの紳士もおれば、綺麗に結い上げた髪に和服姿、おしゃれした子供たち。ドレスを着ている若いレディも。

 随分とがんばっておしゃれしたつもりだったけど、ここでは全く映えない。

 敦は知り合いがいるようで会釈して話している。

「友達の松風さん」

 そう私を紹介していく。

 どこまでも友達なのよねえ。

 それでも、このゴージャスな雰囲気は初めての経験でドキドキする。

「華さん」

 ここで、私に声をかける人がいるなんて誰?

 恒夫だ。

「あら、恒夫さん。素敵だったわよ」

「ありがとう」

「このパーティーに来てるなんて知らなかったわ」

「ああ、僕の方こそ、君に会えるなんて思っていなかったよ。ここにずっといるの?」

「うーん、くじ引き大会までは」

「え? くじ引き?」

「ええ、ここの景品がいいって聞いたから」

「そうだね、僕は去年電動自転車が当たったよ」

「えーっ、ほしい! そんな景品当たるといいなあ」

「あそこに置いてるだろ? 今年のは」

 指差す方向を見れば、舞台にずらっと並んだ景品。

 あの高価なケリーバッグまであるわ。あれがほしい。しかも、空くじなしって。

「ねえねえ、空くじなしって言うけどビリは何かしら」

「ははは、クオカードさ」

「いくら?」

「千円だろ」

「うそ! すごい! 来てよかった!」

 思わず声が上ずったら、敦が近寄ってきた。

「やあ、ここで会うとは」

「うん、来てくれたんだね、コンサート」

「よかったよ、華なんか泣いてたぞ」

「え、ホント?」

「嘘よ、大嘘」

 それでも、恒夫は嬉しそうにサンキューと最高の笑顔で握手してくれた。

「僕のくじが当たったら君にプレゼントするよ。外れても」

「わあ、ありがとう」

 恥ずかしいほど、ゲンキンな私。

 三人で話しているとドラムだ。

「皆さん、お待たせしました。恒例の大くじ引き大会を行います」

 いつものことなのか、みんな拍手しながら席に着く。

「それではいよいよ始めましょう」

 バンドがクリスマスソングを演奏する。

 気分が高揚してきた。司会者が来場者のパーティーチケットの半券が入った箱に手を入れた。

「ナンバーが二六三八の方、今話題のタブレットです」

 ため息の中、小さな男の子がうれしそうに前に行った。

「おめでとう」

 次々と発表されるが私の番号はない。敦が手を挙げた。

「わあ、僕はホテルのディナー券だ」

「いいわねえ。私は当たらないのに」

 しばらくすると、恒夫まで当たった。

「わ、十八金のネックレスだよ。華さんにあげるよ」

「ホント? 悪いわ」

「いいよ、約束だし僕はしないから」

 走って行って受け取った恒夫は早速私の首にかけてくれた。

 すると、司会者はもったいぶってこう話した。

「これで、いよいよ高額商品は最後です」 

 やっぱり、私は千円のクオカードか。

 がっかりしながらも、最後の一枚に期待する。私のナンバーは三四六七だ。

「では、これはケリーバッグです。最初が三」

 え? 当たるかも。

「次は四」

 そうよ、そう!

「さらに六」

 わ、泣きそう。心臓が止まりそう。

「もう一度六です」

 へ? なんで七じゃないの!

 私の前の女性がぎゃあぎゃあ叫びながら司会者のもとへ。

 

 クオカードをもらった。

 

 敦は翔のもとへ一緒に行くかって聞いてきた。

「ううん、いいわ」

 そうよね、そんなことはできないわ。


 敦の後姿を見ていたら、恒夫がこう言った。

「華さん、僕とクリスマスしない?」


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ