クリスマスイブなのに、WHY?
あの二人の仲のよさそうな雰囲気が頭から消えない。
純と敦のツーショットは似合いすぎ。
面白くないけど、クリスマスパーティーはどうしても行きたい。そんなことを考えると、恒夫が指揮台に立った。ほーっ、その白いシャツがとてもよく似合っている。
グリークラブの歌声は私の邪な心にも優しく入ってくる。
響く歌声。
クリスマスにこの歌声を聞いたら夢の世界にいざなうって感じ。
二時間を超えるコンサートは無事終了。カーテンコールも二回。恒夫も感動した様子で顔が紅潮している。ふと、私は自分が泣いていることに気付いた。
「どうしたんだい? 泣いてるの?」
「ちょっと感動して」
敦は意外そうな顔をして、ハンカチを出した。
「持ってる。でも貸して」
敦のハンカチはポケットに入っていたから暖かい。そんなことを感じていたら、横の純が敦に話しかける。
「今日はこれからデートですか」
「いやあ、華と大くじ引き大会に行くのさ」
なんでそんなことを彼女に言うわけ?
どうしてデートだって言わないの?
ハンカチを返す気持ちが失せた。
丸めてバッグに押し込んだ。
会場を一人でさっさと抜け出した。後ろから敦が追いかけてくる、来ない?
敦はケータイで楽しそうに話してるじゃないの。どこまでも私の不本意な状況なのね。
「うんうん、いいよ。くじ引きしたらそっちに行くから」
誰と話してるの?
その笑顔は翔なのね。
クリスマスぐらい女の子のいるほうを選んでほしいわね!
仕方なしに敦が来るのを待っている私。
愛されてないってわけね。やっぱり。
これっておもいっきりつまんない。
「ああ、ごめんごめん。翔からだった」
「それで?」
「パーティーのくじ引きをしたら行くって言っといた」
「どこに行くの」
「翔の家」
なんで、クリスマスイブに翔なのよ。
おしゃれしてきた私はなんなの。
怒ったところで仕方ないのよねえ、私は告白されてないし、しかも敦が翔のことを好きなのは知ってるし。所詮実らない恋だもんなあ。
ホテルの大広間で行われるクリスマスパーティーは、大盛況だった。家族連れがどっさりで、毛皮のコートを着た女性とタキシードの紳士もおれば、綺麗に結い上げた髪に和服姿、おしゃれした子供たち。ドレスを着ている若いレディも。
随分とがんばっておしゃれしたつもりだったけど、ここでは全く映えない。
敦は知り合いがいるようで会釈して話している。
「友達の松風さん」
そう私を紹介していく。
どこまでも友達なのよねえ。
それでも、このゴージャスな雰囲気は初めての経験でドキドキする。
「華さん」
ここで、私に声をかける人がいるなんて誰?
恒夫だ。
「あら、恒夫さん。素敵だったわよ」
「ありがとう」
「このパーティーに来てるなんて知らなかったわ」
「ああ、僕の方こそ、君に会えるなんて思っていなかったよ。ここにずっといるの?」
「うーん、くじ引き大会までは」
「え? くじ引き?」
「ええ、ここの景品がいいって聞いたから」
「そうだね、僕は去年電動自転車が当たったよ」
「えーっ、ほしい! そんな景品当たるといいなあ」
「あそこに置いてるだろ? 今年のは」
指差す方向を見れば、舞台にずらっと並んだ景品。
あの高価なケリーバッグまであるわ。あれがほしい。しかも、空くじなしって。
「ねえねえ、空くじなしって言うけどビリは何かしら」
「ははは、クオカードさ」
「いくら?」
「千円だろ」
「うそ! すごい! 来てよかった!」
思わず声が上ずったら、敦が近寄ってきた。
「やあ、ここで会うとは」
「うん、来てくれたんだね、コンサート」
「よかったよ、華なんか泣いてたぞ」
「え、ホント?」
「嘘よ、大嘘」
それでも、恒夫は嬉しそうにサンキューと最高の笑顔で握手してくれた。
「僕のくじが当たったら君にプレゼントするよ。外れても」
「わあ、ありがとう」
恥ずかしいほど、ゲンキンな私。
三人で話しているとドラムだ。
「皆さん、お待たせしました。恒例の大くじ引き大会を行います」
いつものことなのか、みんな拍手しながら席に着く。
「それではいよいよ始めましょう」
バンドがクリスマスソングを演奏する。
気分が高揚してきた。司会者が来場者のパーティーチケットの半券が入った箱に手を入れた。
「ナンバーが二六三八の方、今話題のタブレットです」
ため息の中、小さな男の子がうれしそうに前に行った。
「おめでとう」
次々と発表されるが私の番号はない。敦が手を挙げた。
「わあ、僕はホテルのディナー券だ」
「いいわねえ。私は当たらないのに」
しばらくすると、恒夫まで当たった。
「わ、十八金のネックレスだよ。華さんにあげるよ」
「ホント? 悪いわ」
「いいよ、約束だし僕はしないから」
走って行って受け取った恒夫は早速私の首にかけてくれた。
すると、司会者はもったいぶってこう話した。
「これで、いよいよ高額商品は最後です」
やっぱり、私は千円のクオカードか。
がっかりしながらも、最後の一枚に期待する。私のナンバーは三四六七だ。
「では、これはケリーバッグです。最初が三」
え? 当たるかも。
「次は四」
そうよ、そう!
「さらに六」
わ、泣きそう。心臓が止まりそう。
「もう一度六です」
へ? なんで七じゃないの!
私の前の女性がぎゃあぎゃあ叫びながら司会者のもとへ。
クオカードをもらった。
敦は翔のもとへ一緒に行くかって聞いてきた。
「ううん、いいわ」
そうよね、そんなことはできないわ。
敦の後姿を見ていたら、恒夫がこう言った。
「華さん、僕とクリスマスしない?」




