表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Stragglers Party  作者: 榊屋
序章―A hierd killer―
6/12

3話 殺人

 気づいてすぐに俺は少女の体躯を投げ捨てた。

 寒気はすでに通り過ぎていて、恐怖に変わっていた。

「お前、何なんだよ!」

「じゃあ貴方はいったい何でしょうか?」

 クス、と。

 軽い笑い。空気が抜けるようなその笑いは、嘲笑や苦笑に近いもので、しかしそれ以上に恐怖を感じさせた。

 もう後は考えるまでもなかった。

 俺はそいつに背を向けて走り出した。


 1時間以上走ったのだ。


 それでも影はゆらりゆらり、のらりくらりと、迫ってきていた。

 俺の全力疾走にまるで、歩くようなペースで影は追ってくるのだ。

「畜生!畜生!!畜生!!!」

 くっそが。

 どうなっている。

 これは一体どういうことなんだ!!

「いつまでも鬼ごっこを続けんですか?それともかくれんぼにでもしましょうか?」

 女はそう言って俺を追い駆け続ける。

 よくよくみると、一歩一歩で驚くくらい進んでいるようだ。

 『縮地』。

 それが突然頭によぎった。

 いや、そんなわけがない。あんなの現実にできる奴なんているはずがない。

 俺は走り続けた。



 どんな道筋を何分走り続けていたのかも覚えていない。

 外はかなり暗くなっており、月明かりも見られなかった。

 そこがどこなのかもしっかり理解はできていなかった。工場の跡地ということだけは分かった。

「やはり、かくれんぼの方が正解だったか……」

 あの速さを相手取るには、俺の体力にも限界があった。だからうまく路地裏やら曲がり角やらを利用して上手く撒いた――


「かくれんぼでも私には勝てませんよ」


 ――つもりだった。

「……!?」

「残念でしたね。私からは逃げられません」

 私は鬼ですから。

 そう言って少女は笑った。

「ところで」

 少女は更に続ける。

「貴方はいったい何者なのかしら?」

「俺は……」

 俺は。


 俺は銃を取り出した。


「俺は死宣告だ!」

 そして弾丸を放つ。

 ほぼ距離は1メートル未満。

 ならば、負けるはずがない。

 そう踏んでの行動だったのだが――

「!?」

 少女は無造作に腕を振っていた。

 いや、俺からすればそれは無造作だったのだが、彼女の眼は明らかに何かに狙いを澄ましていた。

 そしてその狙いが的中したのだろう。


 空中で弾丸が真っ二つに切られ、さらに4等分されて落下した。 

「は……!?」

 彼女が切った。

 そうとしか考えられないが、そうとは考えにくい。

「な、なにをしたんだ!?」

「今……死宣告って言いましたか?」

 少女は少し怪訝そうに俺を見つめた。

「ああ。この辺一帯の殺人鬼はこの俺――」

「どうして殺しているの?」

 少女はそう言って俺をにらむ。

「は……!?」

「貴方はどうして、殺人を犯し続けるんですか?」

「……」

 動機。

 警察官も知らない、俺の殺人の動機。

 その意味をこいつは興味本位で知りたいということか。

 なら、教えてやろう。


「快楽だ」

「……」

「俺は希望を持っている人間を殺すことに喜びを感じている。俺にとって殺人を犯す理由はそれだけで充ぶ――」

 ぼとり。

「ん――」

 何かが落ちた音に気付いて、俺は左側に視線を向けた。

 長い棒のようなものがあり、途中が屈折している。そしてその上部には5つの突起が見えた。

 え。

 いや、この形は。


 腕だ。


「う、うあああああああ!!」

 俺は自分の左腕がなくなっていることに気付いた。それからすさまじい痛みが体を襲った。

「適当なことを言わないでください」

 強い嫌悪の視線を俺に向けていた。

「よく考えればわかるでしょう?警察が動機を見つけれてないわけがないじゃないですか」

「ああああああああああああ!?」

 痛みに叫び続けている。

 それでも、こいつの発言に耳を傾けていた。

 どういうことだ?つまり、警察は動機を見つけていたということか?


「どうして死宣告をされた人は宣告された時点で――脅迫された時点で警察に連絡しなかったのでしょうか?」

「あああああ!!」

「逆転の発想です。つまり、なぜ脅迫された時点で連絡しなかったのかを考えるのではなく、連絡できない人間とはどんな奴なのか、ということですよ」

 少女は俺を見下ろして、淡々と続ける。

 俺は脳をかき回して、思考を何度も何度も繰り返す。

 つまり、警察と関わることを拒否するような人間――警察に調べられては困る人間――。

「ま、さ、か……」

 俺は小さな声でつぶやいた。

「そう。宣告された人間――殺された人間は全員犯罪者なんですよ」

 そうか。

 そういうことだったのか。

 犯罪者は警察に連絡することはできない。だから、警察はいつも死宣告に後れを取っていたのか。

「警察側も、『何者かが犯罪者を殺している』なんていう噂を流すわけにはいかないから、被害者の名前すらも出すわけにはいかなかったんですよ」

 どっかの新世界の神がやろうとしたようなことが起きるのは現実世界では避けたいことでしょうから。

 そう言って少女は自分の言ったことを嘲るように笑った。

「お前……何なんだよ」

 俺は(本当の意味で)決死の覚悟で、少女に問いかける。

「まだわかりませんか?」

「……いや」

 正直なところ気づいていた。

 死宣告というものへの異常な依存。というよりは、まるで自分のことのようにすべてを理解している。

 つまり――

「本物の……死宣告か」

 俺は少女を見た。

「ええ」

 少女はもう一度にやりと笑った。

 その笑みにあった恐怖は、最終的には、畏怖にまで変わっていた。

 だが、不思議と今度はそこまで逃げようとは思わなかった。

 なぜなら

「俺はアンタの生き方に憧れた」

 俺は最後の力を振り絞って宣言する。

 そう。

 ここまでくればお分かりだろう。

 俺は所詮、模倣犯だ。

 ただの偽物だ。


「アンタの宣誓して殺人を行うという、その真っ直ぐな姿勢……だからこそ俺は模倣犯になった」

 俺はその少女に向かって宣言する。

 少女は一度目を閉じて、それから口を開いた。

「そうですか。私は犯罪者を殺すだけです。ですが――」

 そう言って少女は手を開いた。

「お礼と言ってはなんですが、ちゃんと殺します。生きたまま、バラバラにします」

 よく見ると、彼女の手には銀色のワイヤーのようなものがぶら下がっていた。

 あれか。

 あれで弾丸を切り裂いたんだ。

 いや、今わかってもしょうがないし、分かったところでどうにかなる問題でもない。

 それにあのワイヤーもただのワイヤーではないのだろう。


「こうやって私はバラバラにするんですよ」

 そう言って彼女が振り乱すその長い黒髪と銀のワイヤーが俺の最後の景色だった。




================


 死体の横に、宣告通りと書いてから私は立ち上がった。

「貴方もこんなことさえ――犯罪行為さえ行わなければ、我々の組織に殺されることはなかったんですよ」

 我々の組織。

 簡単に言えば、犯罪者撲滅組織だ。

 私は諸事情によりそこに所属することとなり、諸事情により犯罪者を殺している。

 詳しい話は私はしたくないので、省略する。

 まぁ誰が聞いている訳でもないのだけれど。

「それにしても」

 ここで私は死んだことにした方が本当は都合がよかったのだけれど……。

「どう伝えたものかしら」

 私がそう呟くと

「!」

 カラスが工場跡地に入り込んできた。

「何かしら?」

 私はそのカラスに話しかけた。


『本部の方に届いた通知だ。マリア様が謹んでお受けしろと言っている』

 とカラスは言って、口に咥えていた封筒を落とした。

 私はそれを拾い上げた。

『では私はこれで。こいつは、破壊しておいてくれ』

 カラスはそう言って、さらに口の中から通信機・・・を吐き出してから飛び去って行った。

 私はまず、その通信機を踏みつぶす。

 それから封筒を開いた。

「!」

 ウー……ウー……

 と、サイレンが聞こえた。

 ポケットに無理やり封筒を突っ込んで、走り出した。

 するとすぐに、街をビルからビルに飛び回る影を見つけた。

「……まさか、『現代のねずみ小僧』の仕業かしら?」

 あんな動きが出来る者はほとんどいない。ともすれば。

「殺しましょうか。私の手で」

 つぶやいてから私もビルの上へと跳躍する。

 そして、その影を追い駆けていく。


「は、はぁ!?」

 影はそう言って叫ぶ。

「お前、縮地じゃねーかそれ!!」

「!?」

 初めてだ。こんなに早く私の移動に気付いたのは。

 これは……只者じゃない。

「くっそが!!」

 そう叫んで影は消えた。


 ――消えた!?

 

 私は瞬間的に殺気を探そうとする――が、相手は殺人犯ではない。殺気では見つけられない。

「逃がした……」

 まぁ仕方がないといえば、仕方がない。

 が、まぁまぁショックではあった。

「……」

 私は静かに、ポケットの紙に手を伸ばした。


十六夜いざよい 縷々るる 殿 あなたの入学を心よりお待ちしております。 後世学園』


 ……後世学園。


「どういうことか……マリア様に聞いてみなければならないわね」


 私は呟いて空を見た。


 月はなかった。

 序章―A hierd killer―

 はこれで終了です。

 バトル要素も取り入れれる可能性を残しておきました。


 次は

 序章―A phantom theif―

 です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ