表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Stragglers Party  作者: 榊屋
序章―A muderous fiend―
3/12

3話 月無き夜、星に願いを

 月の無い夜。

 その田舎町で、人も車も見られない中で僕を含めた2つの影が走り続ける。

「……」

 僕は静かに前方の影を追いかける。対して、

「ハァ……ハァ……」

 向こうは苦しそうに逃げ続ける。

 僕は強くナイフを握り締める。そして息切れしないような全力で追いかける。そのくらいの呼吸法は知っている。僕は頭はいいのだ。体力もある。

「……」

 しかし、向こうもなかなかにしぶとい。女にしては体力がある。僕と同じ運動方法を取っていないのだから、凄まじい体力だ。

 コンビニからの帰りだったろう。そのときに声を掛けた僕を見て――見ただけで、逃げ去っていった。まだナイフも出していなかったのに、だ。相手を殺人鬼だと気付いて逃げ出した神経のすばらしさ。末恐ろしい女だ。

 いつ考えても凄い姉さんだ。

 殺したいほど。

「ハァ…………ハァ…………」

 苦しそうに走っていく。

 大丈夫、もうすぐ楽にしてあげるから……!

 僕はフードを深くかぶりなおした。

 気付くと田舎町では、まだ都会部に値する地域に到着した。

 人は居ない。そりゃあそうだ。僕のような殺人鬼が存在する街で夜中に外に出ようなどと考える者が居るはずも無い。のに、僕は連続で人を殺すことができている。

 だって物好きな奴が居るんだから。だから僕は止まれないのさ。

 路地裏に入ったその「物好きな奴」を見て、スパートを掛ける。そしてそこで追いつくことに成功した。

 つーかまーえた。

「く……!」

「…………」

 僕はその顔を殴った。女は飛ぶように奥へ吹き飛ぶ。

「……」

 僕は自分の拳を見直す。

 当った感触の割りに、向こうにダメージはほとんど無いようだ。

 やはり凄い女だ。

 ナイフを持ってきておいて良かったようだ。

 僕はまだ倒れ伏している対象に向かってナイフを突き立て――。

「!?」

 腹部に強烈な痛みと衝撃が走った。

 そのまま数メートル僕が転がって配水管のポールに背中をぶつけて止まった。

「……」

 そこには男がフードをかぶって立っていた。

 男は黙って口に何かをスプレーする。恐らく……。

「サッサト逃ゲロ!」

 変声期のような音を出して、女を見る。

 女ハ男の姿を見て、頷いて逃げ出した。

「……」

「悪イナ。アレヲ殺サセルワケニハイカナインダヨ」

「……」

「アレハ僕トハ違ッテ表立ッテ強イワケジャない」

 声が戻ってきたのだろうか、男はもう一度口にそのスプレーを入れる。

「……ヨシ。デ、アレハソノキニナレバ何デモ殺スト思ウケド……。僕ハソレヲヨシトハシナイ」

 聞くのも無駄だ。

 僕はそう判断して走り込んだ。そしてナイフを胸部に突き立てようと腕を伸ばす。

「諦メロ」

 君はそう言って、そのままナイフを右手の人差し指と中指の間で掴みとった。

「!」

 コイツはヤバイ。おかしい。

 普通の運動神経や握力、そしてこんな状況に即応してナイフを掴むなんて……普通は出来ない。こいつは普通じゃない!

 と思った瞬間。空いていた左手が僕の腹部を殴ってきた。そしてそのままナイフを抜き去り、右手で頭を押さえつけられて、地面に仰向けに倒された。

 後頭部に強い激痛が走った。

「オ前ニナイフヲ使ウヨウニ仕向ケタ。オ前ハ気付イテイナイダロウナ。デ、オ前ハ使い方を知らない。ナイフを使ったとしても――ナイフを使ったからこそ、お前が僕に勝てる事は無くなったということだ」

 声が戻った。

 そして気付いた。

 コイツ……!!

「お前の動機は理解しているつもりだぜ?殴殺死体が出来上がり始めたのは、合格発表の当日……つまり、3日前だ。その日以来、1つずつ死体が出来上がっている。……ここまで言えば、誰にでも分かると思うぜ?なぁ」

 そう言って僕を見下ろして、フードを外した。

 そして僕の名前を呼ぶ。


「針葉」


「……かさねェ!」

 どういうことだ!うしてコイツが……!!

 ともかく現状回復だ。

 僕は馬乗りになっている襲を蹴り飛ばした。そして距離をとった。

「……」

 何から喋ればいいのか、と思っていると。

「まず」

 と、向こうから話を始めた。

「動機は『受験失敗』だ。受験に落ちた腹いせに、他の成功した奴らを殺すことでストレス発散しようとしたんだろ?警察は無差別殺傷事件の続きだと思ってるらしいけど、そうじゃないことは僕がよく知ってる」

 襲は笑う。

 そして僕を指差した。

「犯人はお前だ」

 まるで探偵のような振る舞いだ。

「探偵……?僕はそっちじゃないよ。どちらかといえばお前側だ」

 僕側……?

「ともかく」

 襲はそう言って話を区切った。

「お前は難関高校を受けて落ちた。いつも天才って言われ続けたプレッシャーとそれによるストレスが爆発した。それでその夜、1人目の男を殺した」

「……」

「何で怪しいと思ったか……それは主に勘だ。お前が犯人じゃないかと思って、お前の発言の一つ一つを注意して耳を傾けていたのさ。そして今日・・・・・・いや、もう昨日になっているな。昨日の学校での話に矛盾を発見した」

 襲はニヤリと笑った。

 何だ。

 僕は何を失敗した。

「3つ目の死体が発見されたのは今日の昼だ。なのにお前は朝から知っていた。つまりお前は17人目が死んだのを何故か知っていた。朝は鵜呑みにしていたが、昼になってようやく全てが繋がったんだ」

「……僕は死体を見ただけだ」

「じゃあ何で通報しなかったんだ?どうして夕方まで人が現れないような道を使って登校して来たんだ?何で、ニュースを見たって嘘をついたんだ?」

 叩き込むように僕に向かって言い放つ。

 何か。

 何か言い訳僕は天才だその程度の事瞬時に思いつかないでどうするだから僕は落ちたんだ落ちた?落ちた僕が落ちた違う皆が何かしたんだ僕は何も悪くはない僕は何かしたわけじゃない何もしなかったわけじゃない頑張った頑張ったんだだけど――「ああああああああああああああああああああああ!!」

 僕はそのまま襲に突っ掛かった。

 しかし襲はそんなものを諸共しないように受け流した。そのまま今度は額を地面にぶつける。

 僕は必死に襲の方に向き直った。

 すると、先ほど同様に襲は僕を見下ろしていた。

「全てが指すのは『お前=犯人』という等式だけだ」

 襲は僕を指差した。

「お前に学校でこの話をしてプレッシャーをかけて、姉さんを囮に使ってみた」

「姉さんを囮に……」

 囮にしていたのか……しかし、事情を知っていた風な感じではなかった。

「ああ、説明すると僕より先に姉さんが行動を起こしそうだからな。何も言わずに外に出るように誘導させたのさ」

 襲はそう言って冷たい目を見せた。

「お前とは昔からの付き合いだからな。姉さんもいつもと違う雰囲気をお前から感じたんだろう。殺気を感じ取ったんだよ。姉さんは、そういうのに敏感だから」

 だからこそ、何の説明もせずに囮に利用したんだけれど。

 襲はそう続けて、僕を睨んで「あと」とさらに続けた。

「姉さんはお前の姉さんじゃない」

「悪いな。家族ぐるみの付き合いだったから、無意識だ」

 僕はそう言って静かに立ち上がった。

「初めて会話が成立したぜ」

「もう諦めたんだよ。警察でも何でも呼べ」

 襲をそう言って突き放つ。現状にのっとれば、本来の意味で突き放されているのは僕だが。

 しかしここまでバレているのなら、もはや無意味だろうという判断の発言だった。

 のだが。

「はぁ?」

 襲の発言は僕の望むべきものではなかった。

「お前は捕まえない。姉さんを守るためには、殺人鬼のいる町として治安を守るべきなんだよ」

「……?」

 確かに、今こうして殺人鬼がいる街並は、その殺人鬼を除けばとても平和だ。

 だが。

 それはつまり、僕を逃がすという事か?

「つーわけだ」

 そう言って襲は僕から奪ったナイフを僕の前に投げた。

 なるほど。どうやらそういうことらしい――。

「!!」

 僕は落ちていたナイフを取ると同時に後ろに下がった。

 襲の手の中で何かが光ったのを見たからだ。

「ばれたか」

 そう言って堂々と襲はナイフを光らせた。

「お、お前……」

「お前には死んでもらうぜ」

 何言ってんだコイツ……。しかし、襲の目は本気で、ナイフをしっかり握っているのが分かる。

 待て。

 よく考えればおかしい。

 何故、コイツは僕の前に現れたんだ?犯人だと分かっていて、かつ、3人も殺しているような奴を相手取るなんて、いくら姉さんを守るためとは言え、無謀すぎる。

 そして。

 そして何故。

 何故僕はコイツを恐れているんだ!?

「く……来るな!」

 咄嗟にナイフを前に突き出して距離をとる。

「ど、どうして僕を殺すんだ!」

「動揺したな?弱味をみせたら殺人は負けなんだぜ」

「僕が生きていないと殺人鬼は居なくなる!今みたいに治安は守られないぞ!?姉が守れなくなるんだぞ!?」

 僕の発言に襲は

「まだ分からないのか。だからバカなんだよ」

 と笑った。『バカ』という言葉が僕の胸に思い切り突き刺さる。

 その所為か、急に冷静さを取り戻した。

 そして走馬灯。

 僕と襲、そして姉の3人での楽しかった日々が思い出された。

『警察は無差別殺傷事件の続きだと思ってるらしいけど、そうじゃないことは僕がよく知ってる』

 先ほどの襲の言葉が急に思い出された。

 ああ、そうか。

 そういうことか。

「殺人鬼はお前じゃない。お前の前に居た本物だ」

 その声で僕は現実に戻された。

 襲はそう言って。

 僕に逃げる隙も与えなかった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 警察があまりテレビで報道ができなかったのは、僕が殺していたのは『犯罪者』だったから。

 誰かが犯罪者を殺しているなんて、そんな噂を流すのは良いことではないから。

 だから、誰も『僕の時』は捕まえることができなかった。

 でも、針葉の時からは一般人。

 僕の時とは違って報道できるし、運が良ければ針葉の方を『真犯人』として捕まえられれば今までの事件もなかったことにできる。

 まあ、そこまでの算段があったかはわからないけど。

 ともかくこれが警察が今まで14人に関われなかった理由――そして、僕が捕まっていない理由だ。


 僕は針葉の首からナイフを抜いた。未だ、鮮血が流れている。噴水のように、とまではいかないが。

「ハハハ……」

 僕は静かに笑う。

 ピリリリリ……と、何の設定もしていない携帯電話が悲しく鳴る。

 ポケットの中から携帯電話を取り出す。

『如月 魅了』

 と書かれていた。

『もしもし?大丈夫なの?』

「……終わった。ちゃんと」

 僕はそう言って静かに通話を切った。

 続いて、

 テロリロリーンという雰囲気にそぐわない陽気な音でメールを受信した。

「……」

 ニュース速報だった。

「へぇ……」

 画面には「死宣告、8人目の殺人」という見出しだった。

 死宣告。この地域ではない場所で最近、騒がれている殺人鬼だそうだ。

「会いたいもんだな。僕と同じ殺人鬼さんに」

 僕はそのままポケットに携帯をしまい込んで、代わりに、入れておいた紙を抜き取る。

 『如月襲殿 あなたの入学を心よりお待ちしております。 後世学園』 

 紙にはそう書かれてあった。

「行こうか」

 誰に言うでもなく、星だけの孤独な空を見上げて僕は呟いた。

 照らす月もなく暗がりの中を静かに歩いた。


 序章―A muderous fiend―編は終了です。


 次は序章―A hierd killer―編です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ