4話 嘘吐きは泥棒の始まり
「偽物ォ!?」
俺は思わず路地で叫んだ。
「ああ。間違いなくこの絵は偽物だ」
やっさんは虫眼鏡で細かいところを見ながら言った。
「……そんな、バカな!」
そんな素振り一切見せなかった。本気で絵にほれ込んでいて……。
「ああ、お前は悪くない。あの絵を見た人間全員が騙されていたんだからな」
「……あ!」
俺はある事実を思い出した。
それは、俺が絵を見たときに感じたこと。
心が込もった絵を、心を込めて、心が込もらないように描いたような絵。
「……なるほど」
とやっさんは呟いてにやりと笑った。
「帰ってきたんだな、『タイガ』が」
「……たいが?」
俺は訊いた。
「……お前は今日のところは帰れ」
「あー……ちょっとそれは無理かな?」
「なんでだ」
「俺は今日でこの街を出る」
「……!?」
「だから言ったろ?認めさせてやるって」
「……そうか」
『タイガ』という名前の由来は中学高校地理に登場する冷帯の針葉樹の森林のことらしい。
その仕事はいわば『贋作師』だ。ただし、ただの贋作師ではない。
俺ややっさんのようなそういう物を扱う者でしか――さらに言えばその中でも、レベルの高いものでしか分からないそうだ。
例えばやっさんの場合は経験から『なんとなく違う気がする』という理由で分析を行い、おかしな点を本物と比べる。そうして今回のように気づくことができた。
俺の場合は完全なる直感だった。同じ言葉でも違う意味で『なんとなく違う』という気がしたのだ。
これは『芸術』だけど価値はない、と。
自分でも何が何だか分からなかったが、贋作だとわかって納得がいった。
贋作という芸術であり――しかし所詮はそれは贋作。価値などないのだと。
「……ふむ」
俺はバイオレットを野球ボールのように投げては取るを繰り返す。
それでは飽き足らず、足の下をくぐらせて上にあげたり、背中の後ろを通してキャッチしたりと、アクロバットの動きを始めてしまった。
気づけば街の中でやってしまっていたためか、周りの目が集まっていた。そりゃそうだ。こんなアクロバットな動きをしかも一般人では手も出せないような宝石でやってしまっているのだ。
「……」
何より恥ずかしかった。俺は逃げ出すように走り出した。
「坊ちゃま。お帰りなさいませ」
家に帰ると門前に居た所謂、『お目付け役』が俺に声をかける。
「遅かったですね」
「まあねー」
「明日この家をお出になるということでご両親は少しご心配なさっています」
「そう言っても彼らは今日も会社だろ?知ってんのさ、その辺のことは」
「ちなみに明日からも私は貴方に付きまといますが」
「ご存知ですよー。これからもよろしくね」
「了解しました」
ちなみにこの人は俺のお目付け役をすることをあまり良しとはしていない。
なぜならこの人はあくまで両親の会社の人間であって、四阿家の雇った人間ではないからだ。
東屋。
イントネーションは駄菓子屋のそれと一緒だ(ちなみに俺の名字の方の四阿は吉野家のイントネーションだ)。
最初は小さな和菓子店だった。父親の祖父が始めた。
それが大きくなり老舗の和菓子店となったのが、俺の祖父、つまり父親の父親、つまりつまり東屋二代目の時だった。
そして今、父親が色々な方法で人脈や商業方法を広げた結果、大企業へと成長を遂げ、幅広く活動している。
そんな父親とそしてそのサポートをしている母親を俺は企業家として尊敬し、人の親として軽蔑している。だから、俺は俺の力で金を稼ぐ。そしてその方法が――怪盗。
俺は自室に入った。
「何時見ても完璧な部屋だ」
俺は俺の部屋を見て真っ先に呟いた。
やっさんに鑑定してもらった本物でなおかつ価値のある宝石や絵画を広げた俺の部屋。
この部屋を見てお目付け役は何も言わない。どうでもいいようだった。
「これも持っていかないといけないけど、寮の部屋は広いのか……?そもそも1人部屋なのだろうか」
何せ、紙には何も書いていないのだった。後世学園はどうも固い固い機密組織のように情報が隠されているようだ。
まあ明日向こうから迎えに来るから大丈夫だろう。その時に事情は聴けばいい。
ちなみにこれらを持っていけないなら、入学の話は蹴る。
『四阿朔馬殿 あなたの入学を心よりお待ちしております。 後世学園』
空を見てみる。月明かりもない上に街中がネオンに照らされているため、星もよく見えない。
最悪の前夜だった。
序章―A phantom theif― 終了です。
次は 序章-A workman who fake a work of art-です。