【掌篇】指切りディストピア
毎晩、ソファの端っこに私が座り、その膝の上に小さな頭を乗っけた彼女が横になって、一緒にテレビやDVDを見る。見ている間はあまり喋らず、一区切ついたところで見た物について会話するのが常だ。今日の映画は近未来SFだった。
「噂だけどさ」とおもむろに彼女。
「何?」
「数年後くらいに、私たちみたいのは犯罪になるかもって」
「私たち?」
「女同士ってこと」
「ああ……」
こんな話をする彼女は、不安、なのだろうか。
「もしそうなったらどうする?」
「海外に逃げようよ」
私の答えに彼女は首を振る。
「もっと厳しいよ」
「……そうだね」
「隠すのには限界があるし。別れるか、心中だ」
私は真剣に考えて答える。
「……私は、チカとじゃなきゃ生きてけないけど、チカには一人でも生きていってほしい」
「私も一緒だ」
「お互いわがままだねえ」
「伊達に親を泣かせてないよ」
「じゃあどうしよう」
私の問いに、彼女は小さく笑った。
「約束しよう」
「どんな?」
「その時が来たらすっぱり別れる。その後お互い相手とは一切接触しない、調べもしない」
別に突飛な所のない約束のように聞こえて、でも彼女がこういう風に言うってことは何か意味があるはず。それを想像して、創造して、
「……それってつまり、別れた後は相手に自分のことは全然伝わらないから……お互いに相手は無事だって信じながら……」
「まあその可能性もあるね」
「……うわあ」
「約束する?」
彼女は悪戯っ子のような、でもどこかニヒルな表情で小指を差し出してくる。
「……する。指切りげんまん」
「嘘吐いたら針千本呑ます」
「指切った」
「よし。……ちょっと怖い話だったかな」
「でも、悪くないよ」
「ふふ」
架空の噂に、架空の約束をして、同性でも罪にならないのは恵まれてるって、色々不自由な現実も大したことじゃないって微笑みあって、私たちはまた、長い夜を一緒に過ごす。
お読みいただきありがとうございました。会話主体の話を書いてみようと思いました。




