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~決意 the will to win4~

11月14日、4~6改稿

 シャンも少し話し疲れたみたいだから、今度はボクが話すね。

 ええっと、アミナさんは<深紅の蛇骨(レッドボーン>のことについて知ってるかな? そう、表社会はもちろんのこと、裏社会の人たちにまで恐れられていた裏ギルドだよ。そんでもって、数多の荒くれ者を圧倒的な力と畏怖によって従えていたのが、かの有名な超絶極悪魔法使い、エミド・マスキュラス。


 彼らと一戦交えたのは遡ること一年と少し前。エレグスの軍部にレッドボーンの犯罪計画が内通者からリークされたのがきっかけだったの。

 事のあらましを説明すると、レッドボーンの傭兵たちはエミドの命令に従い、エレグス国内の様々な場所に魔石柱を仕込んで巨大な魔法陣を描こうとしていたんだ。領域内に住まう大勢の生きた人間を依代にして、封印されていた悪霊を特定の人間に降霊させるという非人道的な実験を行おうと暗躍していたってわけ。

 この事態を重く見たエレグスの上層部は、主要な公共施設でレッドボーン討伐のクエストを貼り出し、優秀な傭兵たちの参加を募った。それでボクやティートは、ちょくちょく一緒に仕事をやっていたシュイやシャンも誘って、レッドボーン殲滅戦に参加することにしたんだ。


 実を言えば、ボクたちが戦う前にも一度、エレグス軍がレッドボーンのアジトを二千の兵で強襲していたらしいんだけど、第一次討伐隊は、相手にろくな損害も与えられずに半数以上の兵士を失っちゃっていたらしいの。そのことからも、レッドボーンの手強さが窺えるよね。

 その後はエレグスの上層部でも色々揉めたらしいんだけど、結局国軍単体での討伐は諦めて、ボクたち傭兵との共闘に活路を見出したんだ。

 集められた傭兵の内訳は、エレグスでの活動を主とするフリーの傭兵たちが大半を占めていたけど、アースレイやシルフィールなどの有力ギルドの傭兵たちも何人か加入していた。最終的には、総勢五十名からなる精鋭のみの二個小隊が編成されたんだ。



 レッドボーンのアジトはポリーの町よりずーっと北の方にある、ワイラナ湖っていう大きな湖の中にあった。霧がやたらと濃い場所だったから、ピティリムが大活躍したんだ。あの子なら空を飛べるし目もいいから、感知魔法に悟られない位置で安全に敵の動向を把握できたしね。


 そんなわけで比較的防衛線の薄い方角から島に接近したんだけど、乗っている船からも島の上陸地点でレッドボーンの面々がずらりと並んでいるのがわかった。

 そのまま船で上陸しようとすれば格好の標的にされちゃうでしょ? そこで、討伐軍の指示役だったレインフォード・ミュラー大佐は一計を案じたんだ。陸からやや離れたところで魔法使いたちが氷結魔法を用いて海水を凍らせ、島に至るまで広範囲の流氷を作っちゃったの。

 足場を確保できたところで、ボクたちは二手に分かれて上陸作戦を開始した。あんなに大勢で戦う経験はなかったから、なんだかすごい新鮮だった。


 敵が迎撃しようと動き出したところで、先陣を任されていた傭兵たちが海水を巻き上げて視界を遮り、その隙に身軽な傭兵たちが流氷から流氷へと飛び移っていった。後衛からの援護をもらいつつ、前衛の人たちが敵部隊を切り崩していく様は見ていてスカッとしたよ。

 人数は相手が上回っていたから、しばらく一進一退の攻防が続いた。でも、もう一方の部隊が島の側面からの上陸に成功してからは討伐隊に形成が傾いた。

 レッドボーン側にも数名、準ランカーに匹敵しそうな傭兵がいたから、上陸してからの戦いは熾烈を極めた。幸い、相手にそれほど連帯感がなかったこともあって、なんとかその場は制圧できたけどね。


 側面を突いた討伐隊は――シュイはそっちの方に加わっていたんだけど――いち早く敵の防衛網を突破して島の中央部に向かったんだ。対するこっちは、上陸で囮になったこともあって負傷者が多かったから、治癒や退路の確保なんかで少し時間を取られたの。もしかしたら、この時間差がなければボクたちの運命も変わっていたかも知れないね。


 先に進んだ討伐隊を追ってボクたちが島の奥地についたとき、先行した隊はほとんど壊滅状態だった。みんな開いた口が塞がらなくて、目もまん丸だった。隣にいたシャンやティートもね。

 その場にはなんかしらの、多分彼らのアジトだった建物が建っていたんだと思うんだけど、その名残とも言うべき大小の瓦礫が、そこかしこに散乱していた。

 まるで大軍同士がぶつかり合った跡のように地面がひび割れていて、たくさん群生していたはずの木々はことごとく切り倒されるかへし折られていたんだ。

 何人もの傭兵たちが環状に倒れていて、その中央には顎髭が長くて目つきの悪い大柄な老人が、エミド・マスキュラスが平然と立っていた。そう、陽だまりの中でも散歩しているかのような感じで。


 正直、ボクたちは甘く考え過ぎていたんだと思う。いくらエミドが強くてもこれだけいれば、楽勝とはいかなくとも圧し包んで勝てるだろうって。

 でも、現実は違ったんだ。目の前に広がっていたのは、さっきまで言葉を交わし合っていた仲間たちの屍で、まったく疲弊した様子のないエミドだった。彼は、高位の魔法をおのれの手や足を動かすだけで自在に行使することができた。上級傭兵クラスの使い手が二十人以上でかかっていって、それでも壊滅寸前まで追い込まれるほどの、二度と出会いたくない強さと底知れぬ冷たさが、そこにあったんだ。


 生きている人はまだ相当数いたみたいだけど、立っているのは数人だった。傷だらけのエレグス兵や傭兵が、あっちこっちで膝を突いてるか、倒れているかって有様だったんだ。骨折程度ならまだ軽くて、腕を肩口からばっさり切られてる人もいた。切断面を見るだけで、気を失いかけたのを覚えてる。

 そうしている間にも一人、また一人と私たちの目の前で力尽きていった。思い出したくもないよ。紅の電撃に焼かれて、全身の皮膚が焼かれてぶつぶつと細かく泡立ってさ。

 私たちが戦場に駆け付けようとするわずかな間にも、生き残っていた腕利きの魔法騎士や傭兵たちが五、六人で一斉に中距離から魔法を放ったり、幾つもの矢を浴びせかけた。遠目には、エミドは攻撃に転じる隙すら見つけられず、周りに障壁を維持するのがやっとのようにも見えた。

 でも、距離が狭まったところでそれは違うってことがわかった。攻撃されているエミドの顔にあるのは余裕と退屈で、攻撃している人たちの顔には怒りと焦り。そして、それ以上の恐怖だった。勝算があっての突撃というよりも、ただ自暴自棄になっていたという方が正しかったかも知れない。

 ボクはそれほど武術には詳しくないけれど、攻撃を仕掛けていたのは間違いなく一流の戦士だったよ。武技だけなら、シュイやシャンとも遜色なかったくらい。なのに、彼らの攻撃は一向にエミドの身体に届いていなかった。全身を網羅する半自律型魔法障壁によって、あらゆる攻撃が肌に触れる前に、透明な壁に遮られてたんだ。

 恐ろしく強靭な壁に守られたエミドは、外から必死に攻撃している騎士を部屋の中から、窓に群がってくる蚊でも見るような、興醒めした目で眺めてた。ボク、誰かをあんなに怖いと思ったことは、一度もなかったよ。今でもね。


 予想通りっていうのもあれなんだけど、ボクたちが援護に加わった後も形成は覆らなかった。これはエミド本人が言っていたことだけど、彼の魔法は、攻撃よりも防御に特化していたんだ。つまり、本人が使う攻撃魔法は本人の防御魔法を突き破らないってこと。

 それを証明するかのように、エミドは自分を巻き込むように強力な広範囲魔法を惜しげもなく披露した。シャンも、レインフォードさんもみんな、隕石に見立てた魔力の塊をまともに受けて、その場に崩れ落ちていったんだ。


 残されたボクたちもなんとか助けになろうと、<|ユニゾンサモン(合体召喚)>っていう奥の手で戦ったんだけど、呼び出した風獅子ヴァルナンシアの攻撃すらも通じなかった。逆に、召喚魔法を維持するためにボクらの魔力が減っていくばかりで、ジリ貧になっていった。そうしているうちに、召喚獣に命令を出す一瞬の隙を突かれたんだ。

 ティートが無数の石礫を浴びせられて気絶した後、ボクは、文字通り首根っこを強く掴まれたまま、体に直接電撃を流され続けた。苦しいのと痛いのとで頭が真っ白になって。泣き叫んだつもりだったけど、喉を鷲掴みされてたせいで、まともに声も出なかった。

 エミドはまったく抵抗できないボクを見て、ただ笑っているだけだった。彼はただ、人が苦しむ顔が好きみたいだった。激痛と胃の痙攣からくる吐き気で意識を失ったかと思えば、ひときわ強い電撃で、無理やり起こされた。殺されなかったのは、たまたまエミドが<合体召喚ユニゾンサモン>の仕組みに興味を持っていたからだった。あの時のボクは、エミドを悦ばせるための研究材料で、玩具に過ぎなかった。

 どんなに悔しくても、逃げたくても、体に力が入らなくて。ただ震えて、涙を流すことことしかできなくて。そんなボクの心に構わず、エミドは無邪気な笑みを浮かべて、ひたすらに苦痛と恐怖を与えてきた。いっそ殺して欲しいと思うくらいだった。



 だから、だからさ。シャンとシュイがボクを助けてくれた時は、もうどうしようもないくらい、顔がくしゃくしゃになっちゃうくらい、うれしかったんだよ。

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