その雫が落ちるまで。
空が遠い。雫がひとつ降ってきた。雨だ。そう思った。
私、森田海はいつもいつも妹に何かを奪われ続けてきた。それでも妹を憎む事はできなかった。そして、今、私は死ぬ。妹の目の前で死んだのだ。最後に聞いたのは妹の声だった。
時は半年前に遡る。
「おはよう!お姉ちゃん!」
「おはよう。みな。」
妹のみなはなんでもできて才色兼備。おまけに優しくていい子。でも、いつも私から全てを奪ってゆく。
「みな、こないだのテスト学年1位なんて凄いわね!」
「そうだな!海もみなを見習いなさい!」
「そんな、お母さんもお父さんも褒めすぎだよー!えへへ!」
「……うん。」
そう、全てを奪われてきた。父や母からの信頼も。
「みなー。」
「あ、ゆうきだ!」
私の元彼のゆうきも……。
「ゆうき!今日も来てくれてありがとう!」
「みなの頼みだから当たり前だろ?」
玄関からゆうきが入ってくる。
「……よう、海。」
「……うん。」
気まずい空気がただよった。
「私、部屋に戻るね。」
「えー!お姉ちゃんもいてよー!」
「……ごめん。ちょっと用事があって……。」
「そっか!わかったよー!」
そんな嘘をついて。私は部屋に戻る。リビングからは賑やかな声が聞こえた。
「はぁ……みなになりたい。」
そんな願いは叶わない。わかっている。そんなある日、妹の部屋から妹の悲鳴が聞こえた。私は直ぐに向かった。だが、そこにはみなはいなかった。そしておかしな事に部屋にゲームが落ちていた。それは海が昔遊んでいた乙女ゲーム。みなはどこかに行ったのだろうか?そう思って落ちたゲームを拾う。おかしな事があった。ゲームのパッケージが変わっていたのだ。そこにはみながいた。
「みな……?」
おかしいと思った海はゲームをしてみることにした。すると、ゲームにみなが出てきたのだ。
「まさか、みなは異世界に?」
そんな訳ない。ありえない。そう思ったが何度見てもみながいた。
「みな……!」
そして、ゲームの中でピンチに陥っていた。異世界に転移したみなは魔法少女として人々を救っていた。しかし、その力を悪用しようとする人々やみなをよく思わない人々に利用され、処刑寸前の所だった。
「みなを、助けに行かなきゃ!」
そう思った瞬間にゲームに取り込まれる。どこかに落ちる。
「いたた……」
「……おい!」
「へ?」
異世界に落ちた私はなんと王子の上へと転移していた。
「重い!どけろ!!」
「!すみません!!」
この人、第2王子のヘンリー!?
「お前!……みなに似ているな?」
「あ、私、みなの姉で……」
「姉?姉だと?!ならお前も我らの国を滅ぼそうとしているのか?!」
「へ?」
こうして王子に誤解された海はみな所へと連れていかれた。そこは牢獄。
「きゃ!」
乱暴に牢屋に入れられる。
「い、たた……」
「お姉ちゃん?」
「みな!……え?」
そこには変わり果てたみなの姿があった。殴られたのだろうか?顔が腫れていて頭から血を流していた。
「お姉ちゃん!!」
みなは海に縋り付く。
「みな……」
「お姉ちゃん!私、私っ!」
「大丈夫、もう大丈夫だよ?」
そういった瞬間に何かが光った。するとみなの怪我が治る。
「お姉ちゃん、これって……」
「なに、これ?!」
「お姉ちゃんにも魔法少女の力があるんだよ!」
「魔法少女はちょっと勘弁してほしいな。聖女とかならいいけど……」
「じゃあ聖女だね!」
「みな、帰ろう?」
「帰りたい!帰りたいけど……」
そこに王子がやって来る。
「何を話している?」
「「!?」」
第1王子のルシアがきた。ルシアはみなの姿を見て驚いた。
「まさか!姉も何かの力をもっているのか?!」
「!」
「聞いてください!姉の海は聖女の力を持っています!どうか姉だけでもお救いください!国の為に役立てるはずです!!」
みなは大声で懇願した。
「みな!私は……!」
海が言うのを遮るようにルシアが問う。
「聖女?聖女とはなんだ?」
「聖女は魔法少女のように力を持っています!どうかお願いします!姉だけでも!」
「……」
ルシアはしばらく考えた。
「みな、お前はまだそのような世迷言で民衆を騙し、財産を独り占めするつもりか!?」
「?!妹はそんな子では……!」
「黙れ!お前らの事を信じる訳にはいかない!」
「そんな!妹は皆の為に魔法少女として人々を救っていたはずです!このような仕打ちはあんまりです!」
「……姉だと言ったな。名は?」
「海といいます!」
「海、ならお前が妹の潔白を、証明しろ!その力を国の為にのみ使いつづけろ!そうすればみなを解放してやる。」
「わかりました!」
こうして半年、みなと離れ離れで人々を救い続けた。なのに、
「もう力がない?ふざけるな!お前などもう用済みだ!」
そう言ったルシア王子は海を処刑することにした。そして代わりに妹を使う事にしたらしい。
「お姉ちゃん!」
「みな……」
ギロチンにかけられる。泣き叫ぶみな。そんなみなを最後に見ながらゆっくりと目を閉じた。バチンッと音がして意識が飛ぶ。最後に聞こえたのは妹の声だった。
「ばいばい、お姉ちゃん……。」
その声と共に私は散った。はずだった。死んだ後にも、何かが聞こえてくる。
「……私の為に死んでくれてありがとう、︎︎゛お姉ちゃん?︎︎゛」
え……?疑問符が浮かぶ。おかしい。みなはそんな事言わない。言わないはずだ。ならここにいるみなは…………。
「妹を演じるの大変だったなー。私の事妹だと本気で思ったの?」
嘘だ……。嘘だ、嘘だ!嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!!!!
そこにいたのはみなの皮を被った悪魔だった。
「この顔?奪ったのよ?本物?本物はね……」
それは口にすることもおぞましいそんな話しだった。
みな……は、どこ?
「お前の妹なんて契約した時に殺したに決まってだろ?!」
悪魔だ。悪魔がいた。
「最後までお前の事呼んでたよ?馬鹿だよね?」
馬鹿?そうかもしれない。
「ちょっと困ってるっていったら優しく助けようとしてくれたよ?馬鹿な妹だよね?」
そう、聞こえた。意識はなくなったはずなのに、ずっとそんな話しが聞こえてくる。そして、悪魔は私の死体を踏みにじった。
「ばいばーい♡お姉ちゃん♡」
どうしてだろう。おかしい。こんなのおかしい!そう思ったが身体に力は入らなかった。目覚める。
「……え?」
目覚めると3ヶ月前に戻っていた。
「私、生きてる?」
3ヶ月前、この時海は力を失っていなかった。
「今なら、逃げられる……。」
そう、妹は偽物で助ける意味なんてないから。そうだ。もう、殺されているんだ。そう思った海は逃げる事にしようとする。走った。どこかの国に逃げ込めばいい。城の廊下を走る。曲がり角でとある人物にぶつかった。
「いった……お前……」
「!?」
そこにはヘンリー王子がいた。
「お前どこに行くつもりだ?」
「えと……」
「逃げようとしたな?」
「…………」
黙って走りさる。しばらくして兵士達に取り押さえられた。
「妹がどうなってもいいのか?海?」
ルシアがやって来来てそうそうそう言った。
「ええ!構わないわ!」
「実の妹さえも見捨てるとは落ちたな!」
殴られる。痛かった。だが、みなはもういないのだ。
「妹を処刑してやる!」
「!」
こうしてみなの処刑が決まってしまった。処刑場へと連れて行かれる。そこにはみなの姿があった。
「お姉ちゃん……」
「みな……」
最後にそう言葉を交わす。そうだ。中身は悪魔なんだ。目を背けた。
みなは絶望したかのように光を失う。だが、次の瞬間笑っていた。そして、みなは処刑された。
「お姉ちゃん……」
最後にそう聞こえた。
「見たか、海!これがお前の選んだ道だ!お前も死にたくなければ言う事を聞くんだな!」
「!?」
そうか、みなが死んでも、こいつらからは逃げられないんだ。海はそう思って絶望した。そして、その場で舌を噛みきった。
「お姉ちゃん。」
「?」
目が覚めると暗い空間。そこには妹がいた。
「どうせ悪魔なんでしょ?」
「……そっか、そう言ったんだね。私。」
「?」
そして笑顔で悪魔はこう言った。
「ごめんなさい。愛してるよ。」
そうして妹は消えた。そして、目覚めるとそこは半年前だった。ヘンリー王子の上に落ちた辺りに戻る。
「いたた……」
「ごめんなさい!」
そう言って逃げる。これでもう誰も私を縛れない。妹は偽物なんだ。助けなくていい。
「はあはあ……」
必死に逃げた。そして、隣国へと逃げ込む。しばらく歩いていると男が倒れていた。ここでも力を使えば、良いように使われてしまう。それでも、海は放っておけなかった。
「はっ!」
力を使う。すると男は目を覚ました。
「ここは……」
「大丈夫?」
「君が助けてくれたのかい?」
「い、いえ、違います!違いますから!!」
そう言って逃げた。
「あっ!待って!!」
海は逃げた。だが、見知らぬ異世界の隣国である。どうやって生きてゆけばよいかわからなかった。しばらく街を彷徨っていると兵士達が誰かを探しているようだった。そして気がついた。そうだ!あの顔!ゲームの攻略対象である隣国の王子そっくりだったのだ。ちなみにルシアやヘンリーも、攻略対象だが、私やみなに対しては酷い。
まずい!またルシア達のようにこき使われて殺される!そう思った海は逃げた。だが、兵士達がおってくる。
「待て!」
「きゃ!?」
捕まってしまった。そして、城へと連れて行かれる。城へ向かう馬車は重い空気が漂っていた。城へと着くと王子の前に連れていかれた。
「また会えたね!」
「……はい。」
「嬉しいよ!」
「……」
「さっきはありがとう。こっそり城外に行って遊んでいたら不良たちに絡まれてしまってね。喧嘩に負けて倒れていた所に君が来たんだよ。救ってくれて、ありがとう。」
「い、いえ……」
「それで、君に頼みたいことがあるんだ!」
「……」
また、殺されるのだろうか?そう思った刹那。王子は海の前にひざまづいた。
「僕のお嫁さんになってくれないかな?」
「……はい。」
「うん!」
「へ?」
「へ?」
その言葉の意味が理解できない。しばらく2人ともフリーズする。目を見合わせておどろいた。
「ええええ?!」
「ダメ、かな?」
「ダメです!え?え?なんでですか?!」
「君に一目惚れしたんだ!」
「そ、そんな……」
きや、まて。きっとまた利用される。そうに決まっている。なら……
「わかりました。」
「ありがとう!」
こうして海は隣国の第2王子と結婚することになった。最初こそ警戒していた海だったが、聖女としての力を使えと言われることなく1年が経った。ある日のこと、隣国の魔法少女の話しを耳にする。
「確か、隣国の魔法少女が今日処刑されるらしいわよ。」
「え、魔法少女ってあの?」
「そうそう。」
なんてメイドが話していた。聴きながそうとするが、そうはいかない。
「みな……」
暗い顔で王子の部屋へと行くと、第2王子のルキが心配そうに声を掛けた。
「海!どうかしたのかい?暗い顔をして。」
「な、なんでもないです。」
「そうかい?」
そうだ。あれは妹じゃない。でも、……。
「ルキ様、真実の鏡って知ってますか?」
それはこの国に伝わる魔法道具だった。
「知っているよ。この国の宝で、真実を映し出す鏡だね。」
「はい。あれを、少しだけ使わせてほしいのです!」
「……構わないけど、何を?」
「少し気になることがあって……」
「……わかった!」
こうして真実の鏡を使わせて貰えることになった海は妹の真実を見てしまう。
「あ、ああ…………」
それは悲しいものだった。
「みな……っ!」
みなは死んでなどいなかったのだ。わざと悪魔のフリをして海を自由にしようとしていた。転生したのはみなの力のおかげらしい。
「そん、な……」
海は崩れ落ちた。そして、今日はみなの処刑日である。
「くっ!」
海は走った。みなの元へ行こうとする。走って走って走って。お城を、抜けて、国境を越えて、そして、処刑場へとたどり着く。そこではすでにみなの死体が晒されていた。
「う、嘘……いやぁあああああっ!!」
海は絶望した。そして、なんとか国境を越えて隣国へと戻った。隣国ではみながいなくなったことで騒ぎになっていた。
「みな!」
ついに第2王子のルキに見つかる。
「探したよ!」
「王子……わたし……私……!」
みなはルキに縋り付いた。
「海?!どうしたの?!」
泣きじゃくる海をルキは優しく抱きしめた。ループしたかいはなかった。みなを助けられなかったのだから。それを、海は責つづけた。そうして数日が経った頃海は、街に魔法少女が現れたと言う話しを耳にする。
「まほう、少女?」
なんでも、魔法で人々を救っているらしい。もしかしてと、思った。いや、みなは死んだのだ。そんなはずはない。そう思ったが違った。いてもたってもいられなくなった海は魔法少女と言う少女に会いに行くことにした。そこにいたのは
「お姉ちゃん……」
「みな……」
そう、妹のみなだった。
「嘘……どうして?」
「生きてるから驚いてるの?」
「……ええ。貴方は数日前……」
「うん、死んだよ?」
「じゃあ、どうして?」
「生き返ったの。」
「……そう。また会えるなんて……」
海は泣きそうになった。そんなとりとめのない会話をしているとそこにルキがやって来る。すると妹はわざと転んだ。
「きゃ?!」
「!」
ルキはみなを支える。
「ごめんなさい。」
「いえ、お怪我は?」
「大丈夫です。」
「それは良かった。」
「…………」
もしかして、また私は妹に奪われるの?海はそう思った。それからは早かった。みなは隣国の人々を救い、隣国の人々から愛される存在になった。もちろん、ルキからも……。
「海、君には申し訳ないが、婚約を破棄させてほしい。」
「え?」
「すまない。僕は真実の愛を見つけたんだ。」
「そん、な……」
みなは全てを奪っていった。何故なのだろう?
「みな!私のルキをどうして奪うの?!」
「……私のルキ?もう私のだよ?」
「?!」
「お姉ちゃんは私を助けてくれなかったじゃない。」
「……!それは……!」
「お姉ちゃんだけ幸せになるなんて許せない。」
「みな!」
「私は魔法少女として人々を救ってきた。愛されて当然なの?!なのに、あの国のやつらは私を殺した!」
「!」
「悪魔と契約した私を殺したの!皆の為に救ってきたのに!」
「……悪魔。」
「いつしか私の心も悪魔に取り憑かれているの。」
「!」
海は聖水をみなにかける。
「?!な、なにを……うわぁあああっ!?」
「悪魔が取り付いているのなら払います!」
「お姉ちゃんのせいだ!お姉ちゃんのせいで私は死んだの!」
「みな……」
そこにルキがやって来た。
「!?海!何してる?!」
「みながっ……」
ルキは海の言葉を、聞かずにみなに駆け寄る。
「みな、大丈夫か!?」
「は、はい。お姉ちゃんが、私に嫉妬して……こんなことを……」
「ちがっ」
「海、君には失望したよ。」
「!」
「この国を出ていってもらう!」
「そん、な……」
「お姉ちゃん……」
そうして、海は国を追い出された。のちにみなは風の噂で悪逆を好むようになったらしい。人々を虐げて楽しむような人になってしまった。追い出された海は旅をすることにした。そして、見つけた。
「これなら……」
海は秘密裏に隣国へと戻る。そして、ある夜、聖女の力を使い城に忍び込んだ。みなの寝室へと赴く。
「みな、助けてあげるからね。」
そう、海はずっと悪魔を払う力を探し求めていたのだ。海は眠るみなに力を使う。魔法石を握りしめて祈る。やがてみなが苦しみだした。王子とは別の寝床にいた事が幸いし、他の物に気づかれてはいない。
「お、おねい、ちゃっ……」
「みな!」
悪魔を払う。力を込めた。
「お姉ちゃん!」
海はみなを浄化することに成功した。
「みな……ごめんね。助けにいかなくて……」
「お姉ちゃん………ううん、私こそごめんね。お姉ちゃんのせいにした。」
「大丈夫。分かってる。」
「お姉ちゃん……」
こうして悪魔を、払う事ができた。しかし、……。
「お姉、ちゃ……ん。」
「みな?」
みなは息を引き取ってしまった。1度殺されているのだ。今までは悪魔の力で生きながらえていただけだったのだ。
雫が落ちる。雨では無い。それは姉の涙だった。




