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8. 空飛ぶ黒い影と銀色に跳ぶ王子様(3)



透明の状態でワイバーンの群れに近づくと、ミルフォール領の騎士たちが苦戦している姿が見えた。

かなりボロボロになっている。

よし、と改めて気を引き締めた。


『俺は一番手前からいこうかな』

「じゃあわたしは右奥から。まわり込んでいくね」

『了解』


群れの両端から叩く作戦だ。透明のまま一匹ずつでも倒せれば大分違う。

回り込みながら目で数えると、九匹しか飛んでいない。

ふと下を見ると、一匹が力尽きていた。

どうやら領地の騎士団で一匹倒したらしい。


なんと。

内心で舌を巻く。基本領地の騎士は対人がメインで、魔物への戦闘訓練は少ないはずだ。

しかもミルフォールは穏やかな土地で魔物が出ること自体が歴史上でも稀である。

その中でワイバーンという強種、しかも群れとなればもはやそれは天災に近い。

そういった背景を鑑みて、一匹とはいえ数を減らしたというのとは快挙と言ってよかった。どうやらかなりきっちり訓練された騎士団らしい。


ドゥン!


背後から爆発音がして、ああ始めたか、と思った。

ロデリックが手前にいたワイバーンに攻撃を仕掛けたらしい。

こちらに近いワイバーンも一気にそちらを振り返る。慌てたようなピギャー!という鳴き声が何重にも重なるが、当然透明のロデリックは見えないので何が起きたかわからず、戸惑っているらしい。

わたしも急がねば、と思った瞬間ヴェールがスピードを上げ、群れの反対側にまわり込んでぐるりと旋回した。


「よし、いくよ」

『思い切りやれ』

『こっちは調子いいぜ』


ヴェールが煽るのとほぼ同時に、ロデリックの声が聞こえた。首尾よく進んでいるらしい。


「"ディヴィード!"」


右手の人差し指と中指を絡めてそれ以外の指を握り込み、一番手前にいたワイバーンの背中に放つ。


『ピギャアアアアアアア』


斬撃の呪文が直撃したワイバーンの悲鳴が響き渡り、その個体はのたうち回って羽をバサバサと動かした。片方の羽が半分切れ、黒い蒸気のようなものが噴き出した。


周りのワイバーンが何事かと振り返る。

撃った場所にいては危ないので、ヴェールは上昇して位置を変えた。

思った通り一匹が、わたしたちが元いた場所に猛然と突っ込んで行ったが、当然そこは誰もいない。

拍子抜けしたような様子でキョロキョロと辺りを見回した。それを見ていた他のワイバーンも、一気に臨戦体制に入っている。

透明でいられるのはせいぜいあと二分程度だろう。ジタバタしているワイバーンに向かって、間を置かずもう一度指を向ける。


「"リガーレ"!」


キィンと光り輝き、ワイバーンにギュッと金の鎖が巻き付いた。羽は無理やり閉じられ、拘束されたワイバーンはそのまま落下し始める。


またヴェールに移動してもらってポジションを変えながら、咄嗟にもう一度指を向け、「"スルサム"」と唱えると、地上数メートルあたりでピタリと止まった。

ゆっくり力を抜くと、そのまま拘束されたワイバーンがふわふわと地上に降りていく。

地上で戦っていた騎士団たちは、自分の頭上からすごい勢いでワイバーンが降ってきたので焦っていたようだが、その様子を見ておお、と歓声が上がった。

明らかに魔法で拘束されているワイバーンの様子に、特殊部隊が助けに来たのがわかったらしい。


ただ、上空を見上げてもわたしたちが見えないので首を捻っている。ワイバーンの息の根は止めていないが、ミルフォールの騎士団の様子からすると、ここまで片付ければすぐ対処してくれるだろう。


『落としたか?!』

「うん、一匹ね。"ラパクス"!…っと。ロデリックは?」


透明な内に何とかもう一匹、とロデリックに聞き返しながら近くの個体に魔法を当てる。気絶魔法が背中の真ん中に雷のようにぶつかり、声もなく落下し始めた。また"スルサム"を唱えて地面の直前で浮遊させ、そっと下ろす。

周りのワイバーンはやはり何が起きたのかわからず、その個体を見下ろした後、焦ったように騎士団への攻撃を再開した。空中で仲間が墜とされていく理由がわからないので、目に見える敵に標的を変えたらしい。騎士団のために防御膜を張りたいが、厚く張るには距離が遠すぎる。


『"インチェンデ!"』


ロデリックの声がした途端、また反対側でドゥン!という爆音が鳴った。こちらから一番遠い個体に直撃したようで、その個体はよろめいたが何とか持ち直して周りをキョロキョロと見回した。

爆撃はロデリックの得意な呪文だ。あっさりした顔に似合わず、派手な呪文を豪快に撃って戦う。


『チッ、やっぱこれ効き悪りぃな。"ディヴィード"!』


今度は斬撃の呪文を唱えるとまた同じ個体に光線がぶつかり、今度こそ『ピギャアアアア』と悲鳴をあげて落ち始めた。

落ちた個体は騎士団に攻撃を始めた内の一匹だったため、騎士団のど真ん中に落ちて行きヒヤリとしたが、すぐに輝く膜のようなものが薄く広く張られた。

騎士団に魔法を使える者がいたらしい。思わず止めていた息を吐く。

薄い膜がネットのようになり、落ちてきたワイバーンを受け止めた。そのままゆっくり地面に下りていき、地べたに横たわったワイバーンからぷすぷすと煙が上がっている。

ロデリックからもホッと息を吐いた声が聞こえた。


『あぶねー…騎士団の魔法使いナイス。今ちょうどこっちも二匹落としきった。次、ちょっと距離がある真ん中あたりのワイバーンに当てるよ。透明な内に撹乱しよう』

「了解。じゃあこっちはロデリックが打ったらそのワイバーンから遠い個体に撃つ」

『おい、俺もやるぞ』

「はいはい。ヴェールが焦れてる」


笑ってロデリックに伝えると、向こうも笑い声をもらした。

『グリセルもそろそろブレス、吐きたがってる』


「だよね。そろそろ透明化切れるよ!」

『よし、切れたらグリセルとヴェール、同時にブレスだ!』

『ようやくかよ」

『承知した』


ドゥドゥン!!!!


その返事とほぼ同時に、また"ディヴィード"が聞こえ、こちらから見て真ん中の左側あたりにいた個体に光線が直撃して爆発する。

透明化が解ける前にと急いだのだろう。そのまま自由落下し始めたワイバーンに向かって、ロデリックはすかさず"スルサム"を唱えて空中で止めた。それを横目で見ながら反対側に回り込み、真ん中あたりの個体に向かって指を向ける。


「"グラキエ"!」


指先から青い火花が散り、光線が当たったワイバーンが悲鳴を出す間もなくピキン!と勢いよく氷結していく。

固まりきった途端、そのまま落下していくが、氷で重いせいで先ほどまでより落ちるスピードが速い。

急いで"スルサム"と唱えると、建物の屋根ギリギリで止まった。あとはゆっくり地面に下ろし、民家を壊さずに済んでよかったとホッと胸を撫で下ろした。


とその瞬間、ピィン、と空気が張り詰め、わたしたちの透明化が解除された。


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