4. 前世は碧ちゃん、今世は竜騎士になる〜婚約破棄を添えて〜(4)
そうして無事に憧れの竜騎士となったわたしは日々鍛錬を積みながら、特殊部隊の皆にも馴染んでいった。
女性の少ない部隊である上にわたしが伯爵家の娘だということで扱いに戸惑ったようだったが、その内にあまり気にしすぎずに接して良いとわかったようだった。
貴族出身者が九割以上を占める騎士たちは、基本紳士的な振る舞いが身についている。
貴族が多いのは魔法力の関係で、貴族以上の方が魔力は発現しやすいからだ。平民にもいないわけではないが、貴族に比べてかなり少ない。
また、ヴァンテル王国には共学しかなく、基本は学生時代に異性との適切な付き合い方も学んでいるし性別を超えた友情を築いてきた者も多い。
それこそ最初の内はわたしの見た目を見て声をかけてきた人たちもいたが、そんな時はジュリアノが明るく追い払ってくれて、しばらくすると困った話はほとんどなくなった。
そんな風に一年ほどを過ごしてから、今世初めての恋をした。
先ほどわたしを振った金髪碧眼の婚約者ーーレオニス・ヴァン・クラルテのことである。
レオニスは近衛兵である第一部隊に所属する騎士で、5つ年上の25歳。とにかく見目が良く、サラリと金髪を靡かせ白馬に乗る姿は、まるでかつての世界で碧が想像していた"王子様"のイメージそのものだ。
実際には伯爵家の末っ子で王子様ではないのだが、その優雅な物腰から年頃の貴族女性にファンが多かった。
レオニスとわたしは、家同士の繋がりもあり婚約する運びとなった。
キラキラかっこいい彼は、カミーユの好みとは少々異なるが好条件と言えたし、何より婚約当時はむしろ、彼の方がカミーユに熱を上げていた。
『君は剣にも才があるんだな』
城で王族を守ることを任務とする第一騎士団のレオニスとは違い、わたしは魔物を征伐することが任務の特殊部隊の配属だ。
普段勤務中に関わることはないが、その日はたまたま訓練交流日で合同での訓練だった。部隊ごちゃ混ぜで紅白戦をやることになり、わたしはレオニスの分隊に入った。
『あ、ええ、苦手ではないですね』
剣が割と得意なのは事実だ。
うちの家系は近衛騎士が多い家門で、女子でも男子と変わらずに剣はみっちり仕込まれる。
姉のエレオノーラは華奢な母に似て筋力がないため護身用の短剣がメインとなったが、小さい頃から竜騎士を目指していたわたしは剣も人並み以上に使えるよう訓練した。
実際に竜騎士になると、竜騎士は魔法を使って戦うのがメインとなるため剣を使う機会は少なかったが、筋力維持の目的もあり今も毎日素振りはしている。
『レオニス様は剣の扱いがお上手だと伺っています』
『ああ。ありがとう。俺も"苦手ではない"よ』
レオニスは白い歯をキラリと覗かせ、わたしの言い方を真似ながら自信ありげにニッコリと笑った。
『元々才能はあったと思うが、日々鍛錬も積んでいる』
もちろん竜騎士のきみもそうだと思うけど、と微笑み、そのまま少し口籠った。
『剣を振る君は、何と言うか…強く美しい。普段から努力していることがよくわかる』
少し目元を赤くしたレオニスは絵画のような美しさで、そんな彼にわたし自身が最も大切にしている竜騎士としての自分を認められ、心が疼くのを感じた。
少し経ち、クラルテ家から家を通して婚約の打診が来た時には存外に嬉しく、『是非に』と答えを返した。
わたしは兄弟姉妹が多いこともあり、特におっとりとした家風であるピエリエール家の家族からは『カミーユは竜騎士として頑張ると決めたのだから、結婚してもしなくても構わないよ。無理やり好きでもない人と結婚する必要はないからね』と言い聞かされてきた。
実際、この世界では貴族であっても恋愛結婚が多く、無理やりの政略結婚はかなり珍しい。長子の場合にはやむを得ず家格の釣り合う相手と…ということもあるが、次子以降については恋愛結婚あるいは未婚の者も多い。
領地の方に行くとそういうわけにも行かないようだが、特にこのヴァンテル王国の王都ルミエールでは、元の世界の言葉でいう"都会"なので、ピエリエール家に限らず自由な気風が強いようだった。
そんな中ではあるが、家格としては同格の名家であるクラルテ家と縁を結べることはピエリエール家としても"良い縁談"であり、かつカミーユも前向きな反応だったので家族も喜んでくれていた。
レオニス本人を知っているジュリアノとルシアスは『レオニスぅ?大丈夫か?』と片眉を釣り上げていたが、わたしが喜んでいる様子を見てそれ以上何も言わなかった。
それにその後、初めて会った時のレオニスは大変に嬉しそうで、ぎゅっと握られた手は優しかった。
だが、一緒に過ごすことが増えるにつれて、レオニスの不満は溜まっていった。わたしは手を握る以上のことをされると逃げたくなり、実際に逃げたが、レオニスはそうではなかった。
王子様のように美しい彼のことは遠巻きに見ている分には良かったが、自分のパーソナルスペースに入れるとなるとイマイチしっくりいかなかった。
「アイツ、玲央先輩だ…」
前世の記憶を取り戻した今のわたしにならハッキリわかる。無意識に身体的接触を避けたかったのは、前世の彼との関係が記憶の奥底にあるせいだった。




