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35.幸せな結婚と舞い惑う気持ち(5)


「あのふたり、とにかく絵になるなあ」


ロデリックが感心したように呟いた。

今、本日の主役である新婦のエミリアと、その親友のカミーユが真ん中で踊っている。

確かに、小柄で華やかなエミリアとスラリとして涼やかなカミーユがワルツを踊る様は、絵画か何かのようだった。


「カミーユってこうして見ると、美人だよな。普段は今更見た目どうこうなんて気にしてないけど」

「そうだね。あの子、気さくだしな」


バスティアンも頷いた。俺は頷けず、曖昧に微笑む。


ロデリックはカミーユの同期で、付き合いも学生時代からだ。普段の戦闘時もペアを組むことが多いようで、カミーユもロデリックに対しては気安い笑顔を向けているところをよく見る。

ついでに言えば、ロデリックの好みは本人曰く「ムチッとした可愛い系」で、アンニュイな雰囲気のカミーユはあまり当てはまらない。

仲の良いカミーユ自身もそれを知っているからかなのか、恋愛に発展してしまわないように…といった意識をせずに楽に付き合えているようだ。


バスティアンも派手な美女の奥方がいて、大変仲睦まじい。今日一緒に来ていないのは、第二子を妊娠しており身重なためだ。


ちなみに、未婚の時は異様なモテ方をしていたらしいバスティアンだが、現在は「他の人には興味薄い感じなのに、奥様と一緒にいる時にだけ見せる素の笑顔が可愛い」と評判で、行く先々で彼の周りを女の子が囲むようなことはなくなった。

バスティアン本人は目立つ見た目とは裏腹に堅実で真面目なタイプなので、やたらめったら異性が寄ってくるような状況ではなくなったことにほっとしているとのことだ。

そんな二人なので、カミーユのビジュアルの良さにはあまり興味がなかったらしく、改めていつもと違う装いで踊る彼女を見て感心していた。


俺は当然毎日カミーユの可愛さに心臓を締めつけられているので、二人の感想には同意しかねる。

ただ今日最初に会った時には、ドレスの色を見て思わず目を見張った。

ブルーグレーのそのドレスは、間違いなく俺の瞳の色だと確信があった。

ジッと見つめると、顔を赤らめたカミーユに目を逸らされた。


もしかしたらカミーユも、俺のことを。


そんな風に希望的観測を抱いてしまう。


「お、次は両家家族がそれぞれのパートナーとだな」


見るとカミーユは先ほど挨拶させて頂いた、三兄のルシアンと踊っていた。

三兄はあまりカミーユと似ておらず、なんとなくバスティアンと近い雰囲気だ。華やかで目立つ見た目だが、話すと穏やかな感じだった。


「やっぱりすごいな。ピエリエール家も皆美形ばかりだけど、侯爵家の方も華があるよなあ」


ロデリックは感嘆の声を漏らしつつ眺めている。

確かに新婦のエミリア側も、ローズピンクに近い赤毛のエミリアはもちろんのこと、燃えるような赤毛の兄も長身でスラリとしていて格好いい。

それぞれの両親たちもさすがというべきか、気品に溢れていた。


「さ、そろそろ曲が終わるぞ。声をかけたい相手がいるなら動かないと」


バスティアンが何故かこちらを見ながら言う。


「そうですね」


なんだか気恥ずかしい気持ちになりながら、しかし絶対にカミーユの相手を勝ち取りたく立ち上がった。


「え、ユーリス、誰か行くの」


ロデリックが驚いたような顔をしている。


「はい。行ってきます」


真面目な顔をしたまま頷いて見せると、ロデリックは片眉を上げて「頑張って」と言ってくれた。

もし今日ここにハイトがいたら死ぬほどいじられただろうが、今日一緒の先輩方は泳がせてくれる優しさがある。

ありがたく思いながら、ダンスエリアに足を向けた。




くそ。最悪だ。


俺は荒れた気持ちでカミーユを眺めた。

三曲目が終わり、急いでカミーユの元に向かうとほぼ同時か少し先に、一人の男性がカミーユに声をかけていた。


「カミーユ様。ベルフォール伯爵家のアドリアン・ド・ベルフォールと申します。次がお決まりでなければ、是非私と一曲」


焦茶の髪に薄いブルーの瞳の彼は柔らかな物腰でカミーユに手を差し出し、家格が下のユーリスはそれを黙って眺めるしかなかった。

カミーユは「あ…」とユーリスの方を気にしたが、黙っているユーリスを見てアドリアンの申し出を受けた。


あと一歩早ければ、あんなどこのどいつかわからない奴に先に踊らせたりしなかったのに。


ゆったりと踊る二人をギリギリと見つめながら、そんな風に思う。


まただ、と思う。

カミーユが三番目の男、リオネルと付き合い出した時もそうだった。

好きだと自覚した途端にリオネルに持っていかれて歯噛みした。やっと別れてくれて、もう他の誰にも奪わせたくないのに、またこうやって第三者のように眺めることしか出来ない立場に置かれている。


もうこの役回りはうんざりだな。

なんか笑い合ってるし…。


永遠のように長く感じる三分間がようやく終わり、カミーユとアドリアンはお互いにお辞儀をした。

ほとんど走るようにしてカミーユの元に駆け寄ると、カミーユはちょっと笑った。


「カミーユ先輩、次は俺と踊ってください」


ストレートに言うとカミーユは笑いを深める。


「うん。ありがとう。踊ろう」


この間の戦闘以来、なんとなく気まずかった空気が解けた気がした。

カミーユの白くて長い指先を取り、ワルツに合わせて踊り出す。


「カミーユ先輩、すごい綺麗です」


じっと目を見ながら言うと、カミーユはジワリと頬を赤くした。


「ありがとう…ユーリスも。いつもとまた雰囲気が違って…かっこいい」


恥ずかしそうに上目遣いで言われて、心臓がぎゅうんと握られたように締まる。


「ありがとうございます。今日、カミーユ先輩のことを考えて選んだ服なので、嬉しいです」


真っ直ぐに伝えてみる。

なんだか、もう今更気持ちを隠す意味も感じなかった。


「ええ?!そんなハッキリ言う?」


カミーユがたじろいだように言い、俺はちょっとむすっとした。


「ねえ先輩。さっきの…アドリアン様とのダンス、楽しかったですか」


軽くステップを踏みながら聞くと、カミーユはまたちょっと笑った。


「うーん。あんまりお話ししたことなかったから、ちょっと緊張したな」

「そうですか。俺と比べて、どうですか?」

「え?!なんか、今日…ユーリス、ストレートだね…」


カミーユがおろおろと視線を泳がせるが、俺は目を離さない。

カミーユは諦めたように俺を見つめると、口を開いた。


「ユーリスと踊るのも…緊張する。ドキドキしちゃうから」

「ドキドキ…してくれてるんですか」


嬉しくなって、するりと握った手を指先で撫でると、心なしかカミーユはふるりと震えた。

くるりと綺麗にカミーユがターンを決めた後、グッと腰を引き寄せる。


「俺も、ずっとドキドキしてます。カミーユ先輩のドレスの色も……自惚れていいですか」


繋いだ手をぎゅっと握って目を見つめて問うと、今度こそカミーユは真っ赤になった。


「……まだ、聞かないで………」


ずるいじゃないか。

こんなに俺のことを好きそうなのに、まだ逃げようとするのか。


そう言いそうになったが、カミーユの潤んだ瞳を見て飲み込む。


「わかりました。カミーユ先輩が教えてくれる気になったら、聞かせてください」


微笑んで言うと、カミーユも真っ赤な顔のままこくりと頷いた。



お読みいただきありがとうございます。

エミリアが主役の作品を公開いたしましたので、よろしければ併せてお楽しみください。


【R18】侯爵令嬢のわたしが"偶然"催淫状態になって乱れたら、好きと言ってくれないオトナな彼に慰められちゃいました

https://novel18.syosetu.com/n5638lv/



バスティアンが奥様と結婚して初夜に奮闘する作品も公開しておりますので、そちらもよろしければご覧ください。


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