33.幸せな結婚と舞い惑う気持ち(3)
ユーリスたちとの挨拶を終えて彼らが席に着くのを見届けていると、後ろから聞き慣れた大好きな声がかかった。
「カミーユ、ルシアン、久しぶりね」
思わずパァッと笑顔になりながら振り向くと、思った通り姉のエレオノーラだった。
「エリィ!」
エレオノーラに思い切り抱きつくと、ひし、と抱きしめ返してくれた。華奢で小柄なエレオノーラは、いくつになっても可憐さがある。
わたしのことは、少し歳が離れていることもあって昔からとても可愛がってくれていた。
わたしはだいぶ早い段階でエレオノーラの身長を抜かして体格的にはだいぶ差がついたが、会えばやっぱり昔から変わらぬ包容力を感じる。
ルシアンもエレオノーラの肩を右腕で軽く抱いて挨拶する。
「エリィ、久しぶり」
「本当にね。職務はどう?」
「最近はちょっと落ち着いたよ。少し前は隣国から王族が来ていたからピリついていたけどね」
ルシアンが嬉しそうに微笑む。
ルシアンは兄弟の中ではエレオノーラと一番気が合うようで、昔エレオノーラの輿入れの時にはだいぶ膨れ面をしていた。
エレオノーラの方も、金髪に明るいグリーンの瞳の夫であるアンリ・モンレーヴ次期公爵について、『ルシアンと似ていてかっこいいし、気が休まる』というような話を漏らしたことがある。
「二人とも珍しい色味の装いだけれど、とっても似合ってるわね。カミーユが決めたの?」
明るいグリーンの瞳の中に、親愛の光がきらきらと踊るように舞った。
エレオノーラは母譲りの華やかさで、かつ相手を安心させるような雰囲気もある。
わたしにとっては大好きな姉でもあり、母のようでもあり、割と小さい頃に輿入れして家を出て行ったので"憧れの近所のお姉さん"のようでもある。
「ありがとう、そうなの。エリィもよく似合ってる。あまり見ない生地で素敵なドレスね」
「ふふふ、ありがとう。アンリが『君に似合いそうだ』って手に入れてくれた生地なのよ」
そんな風におしゃべりに興じていると、また後ろから話しかけられた。
「やあ、ルシアンにカミーユ、元気だったかな?」
エリィの夫、アンリだ。相変わらず麗しい。
アンリは学生時代"当代随一"と騒がれた実力の持ち主で、その上すごくかっこいいので大変に人気があったそうだ。
エレオノーラはそんな彼に見染められたくて、幼い頃からありとあらゆる自己研鑽に励んだのだと言う。
努力としてはわたしとは真逆の方向性ではあるが、むしろ貴族女性としては王道のルートであり、実際に好きな男をしっかり手に入れたのだから大したものである。
アンリは昔から変わらぬ品行方正で理知的な雰囲気を漂わせた麗しいお顔付きで、にっこりと微笑んでくれた。
「お久しぶりです。おかげさまで元気にしております」
「お目にかかれて光栄です」
それぞれ挨拶を済ませると、エレオノーラもにこやかに微笑んだ。
「式、本当に楽しみね。ウチがこんなに華やかになって、嬉しいわ」
「そうだね。兄弟が揃うのも久しぶりだし」
ルシアンが頷きながら、ふと周りを探すように視線を泳がせた。
「子どもたちは預けてきたのか?」
「そうなの」
エレオノーラは頷く。
「結婚式ってダンスパーティーがあるじゃない?久しぶりにアンリと心ゆくまで踊りたくて」
少し頬を赤らめたエレオノーラは、隣のアンリを見上げながら微笑んだ。アンリもギュッとエレオノーラを抱き寄せながら、にっこりと爽やかに笑う。
「子どもたちは今日はうちの両親とディナーを楽しんでいるよ。久しぶりだからお互い喜んでいた」
エレオノーラもニコニコと頷き、ルシアンとわたしも納得して頷いた。
エレオノーラとアンリ次期公爵を見るたびに、お互いがお互いにとってたった一人なのだということが伝わってきて、羨ましさが募る。
二人ともビジュアルの華やかさとは裏腹に、真面目で品行方正かつ穏やかなタイプだ。ケンカしたりすることも少なそうだし、理想の夫婦像だな、と内心憧れてしまう。
「そういえばジュリアノやお父様お母様は?」
エレオノーラが不意にあたりを見回した。
「どこだろう?あ、もう座ってるんじゃない?」
ふと見ると、ジュリアノの赤毛が前の方に見えた。新郎新婦の二人が乗るらしいステージに一番近い席で奥方と子ども共に陣取っている様子だ。その隣には両親が座っている。
「あら、本当ね。じゃあわたしたちも向かいましょうか」
エレオノーラの呼びかけで、皆で席に向かうこととなった。
式は大変に感動的だった。
今世の結婚式は前世でよくある形式と異なり、最初から新郎新婦で入場してきた。
ふたりに近い関係性の者は皆グッとくるものがあったようだが、その中でもわたしの感慨はひとしおだった。
何しろ前世からの大親友と、兄弟の中でも特に仲が良いアルベールが結婚したのである。
しかもその大親友は幼少期からの初恋を実らせての大恋愛だ。友人として嬉しくないわけがない。
たっぷりのドレープにレースをふんだんに使ったウェディングドレスは、エミリアに大変よく似合っていたし、アルベールもそんなエミリアを愛おしそうに見つめていた。
隣に座っていたエレオノーラが「あんなアル、初めて見るわね」と面白そうに囁いてきて、わたしもにっこりしながら頷いた。
そうして無事に挙式を終えると、会場の真ん中に植えてあった植栽がエミリアとアルベールの魔法でフワリと取り払われた。
今まで隠れていた会場の奥半分が見えるようになった時、ゲストからはどよめきのような歓声が上がった。
会場全体はシンメトリーな構成で、いくつものテーブルがまっすぐ縦長に並んでいる。
テーブルにはうっすらピンクがかったクロスが掛けられており、その上にはオリーブグリーンのテーブルランナーがきっちりと乗せられていた。
その両脇にずらりと並んでいるイスは挙式時のものと同様で、テーブルの上に飾られたキャンドルホルダーとお揃いだ。
キャンドルと共にテーブルを彩る花々は、たっぷりのグリーンとホワイトでまとめられている。パッと見る限り、どうやら列によって季節のテーマが設けられているらしく、様々な花材が使われていた。
全体的にロマンティックかつクリーンな雰囲気で、非常にエミリアの好みらしいしつらえだった。
今回の装飾を新婦のエミリアが担当したということはゲストにも伝わっているらしく、皆が感心したように辺りを眺めている。
これはエミリアの仕事増えるな、と内心で頷きながら、家族の皆と席に向かった。
お読みいただきありがとうございます。
このページに登場いたしましたエレオノーラとその夫アンリの短編を書きました。
R18ですがよろしければぜひご覧ください。
【R18】異世界で"大人の玩具"を造ったところを婚約者に見られてしまい、彼の欲望を煽ってしまいました
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