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32. 幸せな結婚と舞い惑う気持ち(2)



「うわー!」


会場となる庭園の広場にたどり着くと、思わず歓声を上げた。


「すごい可愛い…!」


入り口手前からズラリと並ぶ椅子は、グレーがかったアイボリーの石目柄に真鍮の縁取りだ。

見た目にはずっしりと重厚感があるが、芝生が潰れていないところを見ると、恐らく魔法で何か重量に関する加工をかけてあるらしい。椅子の上にはふんわりと柔らかそうなクッションが敷かれていた。


会場全体真ん中には、愛を誓う二人が乗るための大きな丸いステージがある。こちらも椅子と同じ石目で、周りにはふんわりとベールが浮いて垂れ下がっており、荘厳で幻想的なムードだ。


その後ろには魔法で移設したのか、その後ろを隠すように植木がズラリと並んでおり、会食の会場は見えないようになっている。


「さすがエミリアだね…」


うっとりしながら呟くと、ルシアンは、ああ、と納得するように頷いた。


「確か、設計士なんだっけ。センスが良いもんな」

「そうなの。城や貴族の邸宅改修が専門で、内装の提案なんかもしているって」

「へえ。うちも機会があったらお願いしたいね」

「そうね。エミリアに頼むなら安心だなあ」


エミリアならわたしの好みをバッチリわかっている。


「なんか…前回の時とは、かなり雰囲気が違うな」


様子を眺めていたルシアンが、声を顰めた。


「そうだね…あの時は教会だったっていうのもあるけど…」


アルベールの初婚の時は、伯爵家の嫡子とは思えないほどの簡易的な式だった。

お相手である元奥方が強硬に『盛大でなくて良い』と言いはり、国の運営する教会でささやかな式を挙げた。


本来、貴族の結婚式は家同士の繋がりの強化や繁栄を示す儀式であることはもちろんだが、式を行うことで一般の人々へ金銭を還元する側面もある。そのため、伯爵家の子息ともなれば、ある程度豪華な式にするのが一般的だ。


つまり、参加する貴族の各家がドレスのオーダーをしたり、当日の飲食物の注文や一時的なスタッフの雇用等を行うことによって、経済が回るというわけだ。


結果的にアルベールとまた奥方の式は『本人たちの意思を尊重しよう』という判断での簡素な対応となったが、それはイレギュラーなことだった。

今考えると、想い人がいる元奥方にとっては、違う相手との派手な結婚式は気が乗らなかったのだろう。



うってかわってエミリアと言えば、年季の入った初恋を実らせての輿入れだ。


その上にエミリアの生家であるラヴィエール侯爵家からすれば、唯一の娘であるエミリアの結婚式である。

今回の結婚式開催にあたり、『予算は全く惜しまないので、娘の好きにさせてやってくれ』と、ラヴィエール侯爵家による申し入れがあった。


当然ピエリエール家としては何もしないわけにはいかないが、エミリアから「幼い頃から憧れていたピエリエール家の邸宅を、会場としてお借りしたい」との打診があり、それを受け入れる形での支援がメインとなった。


実際に式の打合せが始まると、エミリアはアルベールの顔を見がてらピエリエール家に日参し、執事や使用人たちと当日の動きに関する綿密な打ち合わせを行った。

エミリア自身の専門が設計や空間の内装提案であること、魔法力の高さは同期でも指折りであることなどから、実際の準備はほとんどエミリアが行ったと聞いている。


恐らく、今日ここに置いてある家具や小物も含め、大体が自分でデザインして"創出"したものだ。

大きいものになればなるほど創出呪文は難しくなるが、エミリアはどうやらとんでもない量の"創出"をやってのけたらしい。


アルベールは『俺の手伝う隙がない』と嘆いていたが、その顔は大変に幸せそうであった。

自分との結婚に大変積極的なエミリアの姿は、アルベールにとっての初婚における手痛い裏切りを癒したものと思われる。


アルベールも前回の結婚では淡々としすぎていた節はあったし、結果的にエミリアに押しに押される形ではあるが幸せそうにしているのを見るにつけ、ピエリエール家として元奥方の所業へは怒りよりもどちらかといえば感謝が募るのだった。


そうこうしている内に、ゲストがちらほら集まってきた。


「本日はお招きいただき…」

「ありがとうございます、〜様でございますね。お待ち申し上げておりました」


入り口の方を見ると、受付ではピエリエール家で長く勤めるメイドたちがニコニコと対応している。

規模の大きい結婚式なので、一部臨時の使用人を雇っているものの、特に対応に難があってはいけない受付についてはソツのないメンツを揃えているようだ。


その時不意に、脇から声をかけられた。


「カミーユ様」

「ロデリック…!様、それにバスティアン様、ユーリス様も」


見慣れた顔ぶれに、思わず微笑む。

一瞬、いつも通りロデリックを呼び捨てにしようとして(今日は公の場だった)、と思い直した。


そのまま見まわすとユーリスと目が合い、心臓がどきり、と音を立てる。

ユーリスが視線を落とし、わたしのドレスを凝視した後、もう一度グッと目を見つめてきた。


ブルーグレーの澄んだ瞳に、自分のやましい気持ちを見抜かれたような気がして、思わず目を逸らしてしまう。


それに、一瞬見えたユーリスはチョコレートブラウンの正装にグリーンがかった変わった色のネクタイだった。

何となく、わたしの髪や瞳の色に似ていると思ってしまうのは、自惚れだろうか。


視線のやり場に困り、そわそわしてしまう。

少し落ち着こうと、どんなに見つめても何の気まずさも甘さもない、ロデリックの顔をしっかりと眺めた。


あっさりとして、飽きのこない堅実な顔だ。


わたしがうっすら失礼なことを考えているのがわかったのか、ロデリックは片眉をぴくりと上げる。

にっこり笑いかけると、そのまま少し肩をすくめた。


「本日はお招きに預かりありがとうございます」


ロデリックが軽く頭を下げ、それにバスティアン先輩とユーリスも倣う。

わたしは軽くドレスをつまみ、すましてカーテシーをした。


「こちらこそ、兄の結婚式にようこそお越しくださいました。こちら、三男のルシアンです。ルシアン、モルネ伯爵家のロデリック様はご存知ですね。こちら、モンフォール伯爵家のバスティアン様と、アストリオン子爵家のユーリス様です」


軽く紹介すると、ルシアンはふんわりと微笑んだ。


「ああ、どうも、よくいらっしゃいました。皆様、カミーユと特殊部隊でご一緒の方々ですね。ロデリック様はお久しぶりです。私は近衛で勤めております、ルシアンです。どうぞよろしく」


お互いに軽く頭を下げ、それぞれ握手をした。


いつもは家格関係なく気安い間柄だが、こういった場では家格を尊重した対応となる。

ロデリックとバスティアン同格の伯爵家、ユーリスは男爵家だ。バスティアンは元は子爵家の次男坊で、結婚してモンフォール家の長女と結婚したため、次期伯爵となった。


大抵の結婚式は新郎新婦の友人が数多く出席するため、年齢層が若くなる。それ故、家の付き合いとして招待を受けた場合には、爵位をもつ当主ではなくその子息令嬢が出席をする場合が多いようだ。


ちなみに、結婚式は一種の婚活パーティーのような側面もある。特に公爵家以上の式の場合には王都中の貴族が出席するような規模になるため、適齢期でパートナーがいない者は絶好のチャンスとなる。

ロデリックなんかはしばらく恋人がいないので、先日「よし、今度カミーユの兄ちゃんの結婚式でぜってえ相手見つける」と息巻いていた。


ユーリスは、どうなんだろう。


今日はエスコートの相手がいるんだろうか。


男三人で固まって挨拶に来たのだから、恐らく相手はいないだろうことは何となくわかっているのに、気にしてしまう。


自分の気持ちを認める勇気も相手に踏み込む勇気もないくせに、ヤキモチだけは一丁前だ。



他の女の子と踊る姿は、出来れば見たくない。



ここまでお読みいただきありがとうございます!

今回で書き溜めていた分は更新完了です。

次回からは週1回程度の更新予定です。

また、ブックマークや感想等ありがとうございます。

ご返信は控えさせていただきますが、読ませていただいております。

引き続きお楽しみいただけますと幸いです。


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― 新着の感想 ―
先生のお話、次は誰の恋バナかしらと、あっちでもこっちでも楽しみに読まさせていただいております。 19で、ユーリスが子爵家の長男と書いてたので、ここで男爵になってるのが気になりました。 私にとってもユ…
素敵な会場なんでしょうね。カミーユ、誘っちゃいなよ!
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