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3. 前世は碧ちゃん、今世は竜騎士になる〜婚約破棄を添えて〜(3)


そんな風に竜騎士への道を邁進する忙しい日々の中で、癒しはふたつだった。

ひとつは友人とのお茶会、もうひとつはごくたまに対面できる竜との交流だ。



初等部に上がりすぐ、将来の目標を戦闘職種に定めたわたしーーカミーユだが、前世の碧ちゃんはごく普通の女の子だった。お喋りするのが大好きで、女の子らしい服装やメイクも好きだった。

そんな碧が、今世は貴族のお嬢様になったのだ。

ウッキウキである。

ビジュアルとしては碧をベースに前世でいうヨーロッパ風に仕立てた顔立ちで、心持ち目鼻立ちがハッキリし、また身長が五センチほど伸びた。


また、これも運動神経と同じく前世でみどりが『絶対来世はリセマラ!』と叫んでいた希望が叶えられている点であったが、色白かつ強靭な肌を手に入れた。

前世は長時間陽に当たると、全く赤くならないまま即紫外線を吸収して日焼けするタイプだった。

せっせと日焼け止めを塗りたくっていたがその努力も虚しく、夏が来るたびにこんがりとし、冬が来ると多少白くなるその繰り返しだった。

また思春期になると様々な肌トラブルに見舞われ、その対処には多大なる労力と時間を要していた。

しかし今世はどういう仕組みなのか、陽に当たっても全く黒くならず、中等部に入学してもニキビひとつそばかすひとつ出来なかった。

これは大変にありがたく、どうやら相当リセマラを頑張ったらしい碧に、強く感謝した。


そんなわけで前世の自分を少々グレードアップしたかのような見た目は、碧の記憶を引き継ぐカミーユであるわたしのお洒落欲を掻き立てた。

運動をするにはショートヘアが楽だが、常にたっぷりとしたロングヘアを保った。

大きくウェーブがかったブルネットの髪は、我ながら艶々でお気に入りだったからだ。

小さい頃から身の回りの世話をしてくれているメイドも力を入れてケアしてくれていて、運動する時はたゆんと揺れるポニーテールにすることが多かった。


また、可愛いドレスを着ることも楽しかった。

普段は竜騎士としての訓練や勉強に忙しいため、いたずらに何着も作るようなマネはしなかったが、シーズンごとに母や姉曰く『伯爵家の娘として恥ずかしくない程度』の着数はオーダーメイドで注文できた。

そんなドレスを着て行く先は、家で必要と判断されたパーティー等か、学校で仲良くなった女の子たちに招待された際のお茶会だった。


パーティーは義務的なこともあり楽しいばかりではなかったが、仲良しの友達に招待されるお茶会は純粋に楽しいことが多かった。

特に、親友となったエミリア・ロッシュとはいくら話しても話が尽きなかった。

日々の訓練や勉強の合間に短い手紙を手軽にやりとりするため、"魔法の小鳥"を使えるようふたりで練習した。

領地にワイバーンが出た際に特殊部隊に連絡を持って行かせた、アレである。

本来なかなか難しい魔法で高等部以降で学ぶ内容だが、エミリアとわたしは初等部二年目にはなんとか使えるようになっていた。

全てはお喋りのためだ。


もう少し大人になってから気づいたことだが、エミリアは魔法において大変優秀な人だった。

竜騎士を目指すに当たって高等魔法が必須のわたしは、何度もエミリアに助けられた。

女の子らしい可愛い見た目にそぐわず攻撃魔法も大変に得意で、よく魔法での決闘に付き合ってくれた。

わたしの攻撃魔法への適性は、エミリアとの切磋琢磨により一層の成果を得たと思われる。



そして、何より普段の生活の中でのご褒美は、たまの竜との交流だった。

中等部に上がった頃には『ジュリアノの妹は竜騎士になりたいらしい』と、特殊部隊で噂になっていた。

次兄のジュリアノ自身、『近衛のピエリエール家で初めての特殊部隊入り』で注目を集めていたが、そのジュリアノが『あと五年ぐらいしたら妹も入りますんで!』と言って回っていたらしい。


そのおかげなのかどうなのか、国が平和で竜が厩舎にいるタイミングでジュリアノの休みとわたしの学校の休みが重なると、厩舎を見学させてくれることがあった。

これは完全に特別扱いで、通常は竜という大切な国の資源を一般に公開することはないため、ピエリエール家の信頼が成せる技でもあった。

竜たちも女の子がもの珍しいからか、単純にわたしと生き物の相性が良いせいなのか、わたしが竜に対して心から憧れを抱いていることが伝わるからか、わたしが顔を出すと嬉しそうに挨拶しにきてくれる個体が多かった。

これは竜騎士になるに当たって大変に励みとなり、厳しい学生生活の中でエミリアとのやり取りと並んで大きな楽しみとなった。


そしてついにいざ進路を決める時期になった。

貴族女性としては甚だ珍しい戦闘職に就くことを希望した末娘に対して、両親は特に何か説得したりしようとはしなかった。

間違いなく幼少より『竜騎士に!』と宣言して努力していたことが功を奏していた。

実際に父である伯爵から言われた通り、わたしは全てを頑張った。

少なくとも竜騎士になるための候補生としては余裕で基準をクリアし、高等学校の魔法課を卒業すると晴れて候補生となることができた。



そうして出来得る全ての努力をし、さらには家族の理解も得られた上で臨んだ竜騎士としての選抜試験は最終試験まで危なげなく進んだ。

事前に『今年は例の竜騎士希望の女の子がいるらしい』と噂が回っていたらしく、試験の各セクションでは『おお、君か』と言われた。

当然試験官の注目は集まり、見る目はむしろ厳しくなることがほとんどだったが、必ず各セクションの終わりには視線が和らいだ。

わたしが絶え間ない努力をして実力をつけてきたことが伝わったからだったと思われる。



最終試験は、竜との対面だった。


焦がれに焦がれた竜たち。

物心ついてからはほとんどずっと竜騎士に憧れて、当然竜も大好きだった。

たまに会えばお客さんとして歓迎してもらえていたが、それはあくまで"客人の小さい女の子"だったからだ。

自分と一心同体となり契約をする相手として竜の前に立つのは初めてで、竜たちはほう、という顔つきでわたしを眺め回した。


わたしが最終試験を受けたタイミングで誰とも契約をしていない竜は、三頭だった。


一頭はベテランで、契約者の騎士が定年を迎えたために契約を解除したばかりのオス。

二頭目は穏やかな若いメスの竜で、こちらはまだ契約したことがなかった。

そして三頭目は若いオスの竜でヴェールと言い、『ここ最近では断トツに気性が荒い』との下馬評だった。

直近の契約者が家庭の事情で辞めることになり契約を解除し、その寂しさも拍車をかけて最近は特に荒れているという噂だった。

試験官からは事前に、『ピエリエールさんは女性だし、契約するなら穏やかなメスの竜がいいんじゃないかな』とアドバイスを受けていた。

わたしもそうかもしれない、とぼんやり考えていた。


しかし、ヴェールと初めて会った瞬間、その考えは吹っ飛んだ。


かっこいい。


それは竜騎士になったきっかけの彼らの戦いを見た時と同じ感想だった。

理屈でなく、心を全て持って行かれた。

艶々とした、深い森のようなグリーンの鱗。

秋の晴れた空のように澄んだ瞳。

大型の猫科動物のようにしなやかで大きい体。


この竜がいい。この竜と契約したい。


バチッとヴェールと目が合い、お互いを見つめあったまま、内心で大きく叫んだ。


『いいだろう』


偉そうな声が頭に響いた。


『え?!』


びっくりして、今度は声に出して叫ぶと、


『お前、ジュリアノの妹だろう。以前ソレイユの地にワイバーンが出た時に、助けてやったな』


ふふん、と鼻息を鳴らしながらヴェールが言った。


『え、え、もしかして』

『そうだ。あの時もお前はキラキラとした目で俺を見ていた』


なんとヴェールは、あの時領地を助けてくれた竜のうちの一頭だった。

さいきん家庭の事情で辞めた竜騎士というのは、あの時の彼だったらしい。

それはとても残念なことだったが、その出来事のおかげでヴェールはわたしをすっかり気に入ったようだった。

ヴェールは気性が荒いと言われていたが、わたしの小さな頃の純粋な憧れと、一目惚れにも似た"かっこいい"という好意は真っ直ぐ受け止めてくれた。


『合格だよ』


振り返ると試験官がいて、彼はにっこり笑って言った。


『最終試験の本当の試験官は竜なんだ。竜が気に入って契約できれば、そのまま竜騎士になれる。契約出来なければ特殊部隊の隊員として訓練を積みながら、翌年の最終試験に合流だ』

『え、でもまだ契約って…』


特に何も交わしていない。慌てていると、試験官はまた笑い、ヴェールはふんぞり返った。


『もう契約は済んでいるぞ』


『そうなの?!いつ?』


びっくりしてヴェールに問い返す。

答えは試験官が返してくれた。


『俺にはヴェールの声が聞こえないけど、今ピエリエールさんはヴェールと喋ってたよね?竜が契約を承認すると、契約者には竜の声が聞こえるようになるんだ』


なるほど。確かにわたしは心の中でヴェールと契約したいと叫び、ヴェールはそれを受け入れた。


『今日からおまえは俺の片割れだ。絶対に裏切るなよ』


軽い調子で脅されたが、ヴェールが前の契約者と契約解除したばかりで寂しがっている気持ちはよく伝わってきた。とても良い人だったのだろう。


『もちろん。よろしくね』


心底嬉しくて、ヴェールに駆け寄り鼻先をギュッと抱き締めた。

ヴェールは喉を猫のようにゴロゴロ鳴らしたが、そんな風になってしまう自分が不満らしくフン、と鼻息を荒くした。


とにかくわたしを受け入れてくれたのは間違いがなかった。



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