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25.前世の終点はどこへ向かう(5)


ワイバーン討伐から少し経ち、入隊二年目を迎えてすぐのある日、『カミーユに新しい彼氏ができたらしい』と噂が回った。

同期のレミーが『くそー、俺狙ってたのにぃ』と悲しみの声をあげていた。


『狙ってたのかよ』

『そりゃそうだよ、超美人で優しくてさあ。付き合えるもんなら付き合いたいよ』


嘆くように言ったレミーは、ジトリと俺を睨んだ。


『なんだよお前、余裕こきやがって。彼女がいる男は違いますねえ』

『はは、嫉妬か?』

『うわー!こいつむかつく!そうだよ!悪いか!』

『好きなら伝えに行けば?』


少し肩をすくめながら言うと、レミーは『はぁ……』と深々ため息をついた。


『くっ…無理に決まってるだろ!フラれて気まずくなるのがオチだよ。』


たしかに、特殊部隊に限らず何人かカミーユに突撃していたが、皆撃沈するばかりだった。


『ていうか、ユーリスこそカミーユ先輩に可愛がられてるじゃねえか。ちっともそういう気持ちないわけ?』


正直に言って、付き合いたいとか好きかもしれないみたいな気持ちは全くなかった。

もちろんカミーユのことは好きだが、尊敬の気持ちが強く、恋愛感情というには明らかに甘さが足りない。

カミーユへの気持ちを形容すると、"仲の良い先輩"が一番近い。


それに、アリエノールとの仲は順調といえば順調だった。

付き合いは四年を過ぎ、年上の彼女からは婚約へのプレッシャーが日に日に高まっている。


結婚する気がないわけではもちろんないのだが、隊に入ってまだ二年目、給料は悪くないとはいえ、自分の実力に懐疑的な俺はなかなか踏ん切りがつかなかった。

アリエノールには『昇格したらプロポーズする』と伝えてはいたものの、止まない遠回しの催促や将来への不安からか機嫌が悪いことも多く、それも踏ん切りがつかない理由の一つとなっていた。


間違いなく綺麗で良い子だ、でも一生の伴侶にするとなると『こんな感じでぬるっと決めて良いもんなのか』とも思う。

そもそも付き合い自体、熱烈に始まったという訳でもない。どこかの家主催のパーティで知り合い、お互いになんとなく気が合って家格も合って、という流れだ。


それに、うちの兄弟の変わった事情もアリエノールのお気に召したようだった。

アリエノールは、輿入れしても実家の家業の取り回しをしたいと考えており、弟夫婦に家督代理を任せようとしている俺はちょうど良かったらしい。

そんなふうに理性的なところが彼女の魅力ではあったが、打算的すぎる気もしていた。


かと言って積極的に別れるほどの欠点でもなく、多分このままいけばあと半年から一年ぐらいで昇格できそうだし、その後プロポーズかな、とうっすら考えていた。


ちなみに、その後割とすぐに『カミーユが彼氏と別れたらしい』と速報が回りレミーはガッツポーズしたものの、やはり実際にデートに誘ったりする気はないようだった。




『カミーユ、別れたらしいな』

『うわ、もう噂回ってるの?やだなー』


たまたまカミーユ、ハイトと俺の休憩時間が被り、食堂で一緒になった時にハイトが話を振ると、カミーユは『もう〜』と言いながら目線を落として頬を少し膨らませた。

もう、と言いつつパクパクと白米を食べる手は止まらない。


なんか、ハムスターみたいだな。


普段はデカい竜に乗って戦うカミーユは物凄く頼れてかっこいいのに、地上に降りると小動物のようでなんだか可愛らしい。

先輩相手にそんな感想悪いか、と内心呟きながら、コメをモチモチと頬張るカミーユの白いほっぺを眺めた。


『なんで別れたの?』

『フラれたのよ!』


カミーユは噛み付くように言い、ハイトは吹き出した。


『またあ?!』

『またとか言わないでッ』


プンプンしながら魚を口に運ぶ。

魚食べるの、上手いな。

お皿がみるみる綺麗になっていく様は見ていて気持ちが良かった。


『なんでフラれたんだよ?』

『なんでって、うーん』


興味津々で聞いたハイトに、カミーユは困ったようにハシを止めた。


『まあちょっと…クセがある人だったっていうのと、』

『いうのと?』


口を切ったカミーユをハイトが促す。


『なんていうか……まあ異性に言う話じゃないな』

『なんだよ!途中まで言いかけて止めんなよ、気になるだろ』


ハイトが抗議したが、カミーユは『はいはい、ごめんね』と流した。


『相性悪かったのか?』


ハイトはあけすけに聞いたが、カミーユは嫌そうな顔をした。


『ちがうし。やめてよ、それセクハラ。家から抗議させるわよ』


軽く家格の差を持ち出し、ハイトは泡を食ってすまんすまんと謝った。


特殊部隊に限らず城に仕える騎士については、勤務中は家格による上下はなく、基本入隊時の年齢が重視される。

ハイトは男爵家の末っ子なので、本来伯爵家であるカミーユ・ピエリエールより家格的には下になる。しかし、そのルールに則り、勤務中や公の場でない限りは同期として対等な立場で関係を築いている。


ハイトは基本的に良い人ではあるのだが、軽率なところがあり、カミーユには度々叱られているらしい。

『アイツ、マジでキレると怖えぜ』と裏で言っていたのを聞いたことがある。

そういうところですよ先輩、と言いかけたが、俺はあまり軽率なタイプではないので口には出さなかった。


『ていうか、今回は文官と付き合ったんだな。前回は近衛だったよな?文官ってどういうところで知り合うわけ?』


ハイトが懲りずに深掘りし始めた。

カミーユもちょっと呆れたように肩をすくめたが、律儀に答える。


『そう。若手何人か集められた共同課題あったでしょ、騎士と文官の。あれで同じグループだったのよ』

『ああ、そういえばありましたね』


ハイトを見ると、舌打ちでもしそうな顔をしていた。


『覚えてるよ、ロデリックとユーリスも呼ばれたやつだろ。ワイバーンの時の功労者組の。あれ悔しかったなー俺呼ばれなくて』


ハイトのいいところは、この素直さだ。軽率で直情的なタイプだが、裏表がなくて付き合いやすい。後輩に対しても面倒見が良く、俺もお世話になっている。


『あれ、結構グループの人と仲良くなりますよね』


俺も、同じグループだった歳の近い文官の女の子たちが俺に興味を持ってくれたらしく、しばらくお茶の誘いが来たりなんなりしていた。

『かっこいい』と噂されること自体、気分は悪くなかったが、イマイチなんだかピンとは来なかった。


そもそも人生で強烈にこの人だ!と確信するような恋をしたこともない。

見た目を褒められることは嬉しくはあったが、顔しか知らない相手に褒められてもそれ以上の感情はなかなか生まれない。むしろ『俺の何を知ってるんだ…』という気分になることも多かった。


カミーユはデザートのマンゴープリンをぱくつきながら続けた。


『元カレ、会った瞬間に"あ、わたしきっとこの人のこと好きになる"って心だけ持ってかれちゃって…自分でも止めようがなくってね……』


カミーユが残念そうな顔をして言う。


『カミーユ、お前近衛の元彼の時も同じようなこと言ってたぞ』


ハイトは笑いながら突っ込んだ。

カミーユはどうやら付き合ったのを後悔しているらしい。


『そうなんだよねえ……でも都合がいいかどうかで恋するわけじゃないから、なかなかコントロールが難しいんだよね』


はあ、とため息をつくカミーユに、俺はなんとなく目が離せなくなった。

お互いの都合の良さが交際の大きな決め手のひとつとなった俺とアリエノールとは全く違うな、と内心呟く。


打算がなくまっすぐ恋をしている様子のカミーユが、なんだか眩しかった。



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