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19. 生ける下水管と竜に乗る女神(5)


***


「ダハハハハ!」

「マジでやってらんないっすよ!」


珍しくくだを巻いているのはユーリスである。

ブルーグレーの瞳は半目で、この上なく機嫌が悪そうな顔つきだ。

情緒が安定しているタイプのユーリスにしては大変珍しい様相を呈している。


「まあまあ」

思わず苦笑しながら、空いたユーリスのジョッキに黄金の泡を注いだ。


「いやあ、クタクタになって遠征から帰ってきたら、まさかこんな面白い展開になってるとはなあ!」


先ほどからわたしの隣で爆笑しているのは我が兄、ジュリアノだ。

ちょっと、と脇腹を強めに小突くが、ジュリアノは止まらない。ゲラゲラ豪快に笑いながら、手元のジョッキをぐびぐび空けている。


ユーリスは遠征から戻って受け取った彼女からの手紙でフラれ、その上『別の人と婚約しました』と書いてあったらしい。

ユーリスにお別れの承諾をされる前から、全てを完了させていたわけだ。

何とも仕事の早い元カノジョである。


バロウワームを倒した後、わたしたちは村長にその旨を報告した。

その後、せっかくなので村の復旧もある程度手伝った。特にバロウワームが出た村の開けた広場のようなところについても、穴ボコだらけだったがあっという間に地面がならされて、元通りとは言えないまでも問題なく行き交い出来るようになった。

すると『何から何まで』と大変に感謝され、旬の野菜や果物、コメや名産の酒等をたっぷりと寄贈された。


『皆建物の中に逃げ込むのが精一杯、ゴブリンの群れになす術もなく手をこまねくことしか出来ずに歯痒い思いをしていました。

その上、地震のようなものが起きて、よくわからない内にゴブリンが土の中に引き込まれ始めたのです。

状況がわからないなりに王都には連絡を飛ばしたのですが、特殊部隊の皆様とは行き違いになってしまったようで…申し訳ございませんでした』


涙ながらに隊員たちの手を順番に握り、強く感謝を示してくれた。

隊員たちとしても労をねぎらわれ、気分も良く帰路に着いた次第だ。


頂いた寄贈品については、竜騎士組が手分けして持って帰ることとなった。

特にロデリックとアランは、ようやく着いたは良いものの、特にやることがないまま決着がついてしまったので二人で八割がた請け負ってくれた。

竜たちには、帰ってからたっぷりとご褒美の品を差し上げた。


『ブレス一吐きでこんなに美味しい酒が飲めるなら悪くないな』


ヴァロネ盆地名産のワインをぐびぐび飲みながら、ヴェールはご機嫌でそう言った。



そして勝利の凱旋、特にユーリスはちょっとした英雄気分で王都に戻ってきたら、このザマである。

何ともタイミングが悪い。


「ユーリス、何年付き合ってたんだっけ?」


わたしはやさぐれているユーリスの話を聞く体勢に入った。


「四年半です…」

「長いね!」


何となくは知っていたが、改めて聞くとなかなかの年月だ。驚いてユーリスを見ると、ぶすーと不貞腐れた。


「もう終わりましたけどね!」

「そうだな!どんなに長く付き合ったって、フラれたらもうゼロだ!」


ジュリアノがゲラゲラ笑いながら、さらに追い打ちをかけた。ユーリスがキーッと怒りながら、ジュリアノに噛み付いた。


「ちょっとぐらい慰めてくれたっていいじゃないすか!ジュリアノ先輩!」

「なんで俺様が慰めるんだよ、おまえがサクッと婚約しとかなかったのが悪いんだろうが」


さっくり刺したジュリアノに、ユーリスはウッと黙る。

ジュリアノは、更に死人に鞭を打ち始めた。


「要はこういうことだろ、『待ってやってたのにユーリスはいつまで経ってもケジメつけねえから別れる、わたしと結婚したいっていう男はいくらでもいたのよ』」

「ぐっ……いやわかってますよ、俺が先延ばしにしてたのが悪いことくらい…!」


確かにそうだ。

ユーリスの彼女・アリエノールは7つ上で今年二十七の歳だ。

ユーリスには、前世でも同じ歳の差の彼女がいた。

前世では別れるところは見なかったが、恐らくわたしが死んだ後に別れたのだろう。


てっきりそのまま結婚したものと思っていたが、違ったのか。


認識を改めてユーリスを眺めた。

二十七といえば、今世の婚姻時期としては少々遅めである。もちろん独身を貫く者もいるので一概には言えないが、貴族や裕福な商家であれば高等部卒業と共に輿入れすることすら珍しくない。


アリエノールは男爵家の長女だ。家自体は長男である弟が継ぐことになっているもののまだ学生で、彼女が家業を回している状態らしい。

というのも、彼女の父親が数年前に倒れ、その後復帰したものの本調子でなないからだ。それを機に領地の仕事の大部分をアリエノールが仮に引き継いだという。


「出来れば嫁入りしてもしばらくは家を手伝っていきたい」という旨は以前ユーリスに打診があったらしく、ユーリスとしてもそこは特に構わないと考えていた。

ユーリスは子爵家の長男だが、家の取回しとしては弟に実権を預けて任せる予定になっている。

弟はとにかく頭がキレるタイプだそうで、完全に文武の武に偏っているタイプのユーリスとしては『適材適所、弟の方が向いているだろう』と、爵位についてもそのまま渡そうとしたらしい。


しかし弟の方はそれを拒否して、『ユーリス兄さんは出仕して、たくさん武勲を立ててくれ。家の発展のためにはそれが一番良い』と言い聞かされたという。

まあ弟が言うなら、とそのままユーリスは自らの希望通り特殊部隊に入隊し、目論見通り入隊一年半にしてかなりの活躍を見せている。

将来的にもこのまま勤めていくつもりのようで、貴族としての交流やお役目等は出来る限り弟に任せていく予定だそうだ。


ちなみに弟氏は今年高等部を卒業、それと同時に幼なじみである男爵家の次女と結婚した。

婚約自体は中等部の頃から取り交わしており、『家の事情も分かっている女性』らしい。


このような状況のため、ユーリスが結婚した場合でも、その奥方が家の取り回しで忙しくなってしまうということもあまりなさそうで、アリエノールが実家の家業を手伝いたいならそれも構わないと考えていた。


「でも去年入隊したばかりだし…まだ階級も上がっていない中婚姻の申し入れっていうのは俺としてもスッキリしなくて」

「階級…」


その単語を聞いた瞬間、その場にいた全員があちゃー…という顔になり、ユーリスの影が一段濃くなった。ジュリアノはますますニヤついている。

わたしが再びジュリアノの脇腹を小突いていると、わたしと同期の竜騎士、アランが苦笑しながら恐る恐る口に出した。


「ユーリス、お前確か…」

「はい、来期から階級が上がるだろうって話を、先ほど隊長から…」


ユーリスはどよんとした声で答えた。


「ダーッハッハッハ!さっさと結婚申し込んどきゃあいいものを!」

「それはまた、タイミングの悪い…」


笑いをこらえきれなくなったジュリアノが高笑いをしながらいじめ始め、周りもあまりの悲惨な間の悪さに少し笑い始める。アランも苦笑いしながら、ユーリスの肩を慰めるように叩いた。


ユーリスは昨年度のワイバーン討伐での活躍に加え、今回の遠征でゴブリン及びバロウワーム討伐に大きく貢献した。

討伐を終えて今朝帰還したところ、ユーリスに隊長からの呼び出しがあった。そこで隊長に『その両方の功績を合わせれば階級を上げられるだろう』という言葉をもらったと喜んでいたのも束の間、その足で受け取りに行った手紙で彼女にフラれたというわけだ。


なんともまあ、間が悪いとしか言いようがない。



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