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17. 生ける下水管と竜に乗る女神(3)


「なんかあるのか?!」


顔を見合わせた俺たちを、ジュリアノが目を爛々とさせて急かす。


「この前、ワイバーンの時に使った"スルサム"シューズを使えば…」


恐る恐る言うと、ジュリアノはぱあっと笑顔になった。


「あれか!すげえ跳ぶやつな!よし、今作れるか?!」

「俺は"スルサム"、あんまり得意じゃなくて。あの時はアラン先輩が作ってくれたんすよ。俺だと効きが甘くて、あんまり飛べません」

「アランか。あいつ、魔法力強えからなあ。この中だと、バスティアンが一番マシか?」


見渡した後、「おーい!」とさっき助けたジュリアノの同期隊員を呼ぶ。

それと同時に少しバロウワームから離れ、土に引き込まれないよう距離を取った。


「どうした?!」


駆け寄ってきたバスティアンに、「バス、お前、魔法得意だよな?」と声をかけた。


「まあまあな。魔法使いや竜騎士としてやっていけるほどじゃないが」

「よし。ユーリスの靴に、浮上魔法をかけてくれ」

「え、"スルサム"?ユーリスも上がってっちゃうよ?」

「いや、靴にだけかけてくれ」


ジュリアノが促すと、首を傾げながらも頷いた。

ジュリアノは「頼んだぞ〜」と言いながらまたバロウワームの近くに戻っている。

恐らく引き摺り込まれた隊員を引っこ抜く魔法をいつでも使えるようにだ。先ほどからの様子では、どうやら特殊部隊ではジュリアノ以外使えないらしい。


俺も、植物ポットのような形に広い範囲で深く土を掘る魔法は今日初めて見た。

一体、あの魔法は普段何に使っているんだろうか。

ジュリアノもカミーユと同じく、使える魔法の種類が多彩だ。竜騎士のロデリックがいつも、「あの兄妹、渋い魔法もたくさん使えてすげえ」と褒めているのを聞く。


ジュリアノが去っていくと、バスティアンは再び首を捻りながら左手を俺の靴に向けた。


「ユーリス、靴脱げるか?」

「はい、ちょっと待ってください!」


急いで紐を緩め、靴を脱いで置いた。履いたままでは俺も持ち上がってしまう。「いいか?」と聞かれてはい、と頷く。


「"スルサム"!」


左手の手のひらから白い光が直撃し、靴をふんわり包み込んだ。

その瞬間ビュン、と上に上昇しはじめた。


「うわっ!」


焦って上から靴を押さえつけ、急いで履く。

なんとなく土踏まずを中心に足の裏ごと押されている感覚はあるが、持ち上がるほどでは無い。ただうっかりするとスキップのようになってしまう。


軽くその場でピョンピョン、と跳ねると、普段全力でジャンプした時のようになった。

アランにかけてもらった時よりは若干足裏の押しが弱いが、むしろこのぐらいの方がコントロールはしやすいかもしれない。特に今回は、ワイバーンほど高く跳ぶ必要もない。


バスティアンはその様子を見て、「おお、すげえ」と感嘆の声を漏らす。

ハイトも「俺もいいすか」と言って、靴を脱いだ。

前回皆で試した時、ハイトも割と履きこなしていた。恐らく今回のコントロールしやすいスルサムシューズなら、より上手く跳べるだろう。


「お、出来たか?」


俺がジャンプしているのをみて、一旦バロウワームの近くに戻って周りを植物ポット呪文で救いまくっていたジュリアノが寄ってきた。


「めっちゃいいです!バスティアン先輩の"スルサム"、コントロールしやすいです」


ちょっとはしゃいで言うと、バスティアンが嬉しそうに笑い、何故かジュリアノも胸を張った。


「そうだろう、バスは昔から魔法のコントロールが上手いんだ」


ハイトもビヨンビヨン跳ねながら、「跳びやすいです!」と叫ぶ。


「やめろよ、大した事ないって」


バスティアンがジュリアノの肩を小突く。謙遜しながらも嬉しそうだ。

バスティアンは金髪碧眼で目立つ容姿だが、本人は堅実なタイプの騎士で、普段から謙虚で後輩にも優しい。


「よっしゃ!じゃあお前ら行ってこい!」


ジュリアノが鼓舞するように俺たちの背中を叩き、大きく声を張る。


「おいみんな!コイツの弱点は背中のエラだ!今からユーリスとハイトが跳んでそこを叩く!それまでなんとか耐え忍べ!」


うおお、という歓声が上がり、皆の士気が上がる。


「さくっと終わらせようぜ」


ハイトが軽い調子で声をかけてくれ、「はい!」と大きく頷いた。




ハイトと一斉に駆け出す。

走っている最中も、普段より足裏が押されているおかげか速くなる。

あっという間に本体にたどり着き、手前数メートルあたりから大きくダン!と勢いをつけて踏み切ると、ポーンと跳んだ。

まるで跳び箱の前に踏切台があったかのようだ。


目下にバロウワームの背中が見えたところで、着地準備をする。上への推進力が消えて下に落下し始めたので、手足を軽く振りまわしていると無事バロウワームの上に落ちた。

すぐ隣でハイトもドサリと着地する。


「っと、うわ!」


それと同時に本体がグネグネ動き、思わず落ちそうになった。何しろ金属のようにツルツルしている。ミミズのような凹凸はあるものの、あまり引っ掛りがなく滑りそうになる。

咄嗟にバランスを取り、なんとか耐えた。


「よし、エラを探すぞ」


思っていた以上に、本体が揺れ動く中さがすのは難しい。


「あ、ありました、これですかね?!」


なんとか外殻の節を見つけ、その間にエラのような呼吸穴を発見する。

ハイトが大きく頷いた。


「それだ!よし、こっちも見つけた!いちにのさんで剣突っ込むぞ!」

「はい!」

「いち、にの、さん!!!!!」


剣を振り上げ、できる限り本体に深く差し込む。


『キィイイイイイイイ!!!!!!!!』

「うわあ!」

「うるせえ!てか臭え!」


本体の口から甲高い悲鳴が大きく上がり、これでもかというほどのけぞった。思わず落ちそうになる。

ジメジメと暑い気候とヒヤリとした焦りが相まって、変な汗が流れ落ちた。


足には痛覚が薄かったバウロワームも、これはさすがに痛かったらしい。

ハイトと俺はほとんど地面と水平の状態になりながら、剣を支えになんとか姿勢を保持する。


と思ったのも束の間。


バァン!!!!!


『キィイイイイ、キィイイイイイイイ!!!!』


また全身を地面に叩きつけながらバウロワームが身を捩らせ、また大きく波打つようにのけぞった。

これはまずい。

振り回されながら、なんとか落ちないように踏ん張った。

なんとかしがみつきながら、せっかくだしついでに魔法も使っとくか、と頭の片隅で考える。


触手には縮んだし、外殻の中身にも効くかも、と「"インフェルノ"!」と剣の差し口に指を向けて唱えた。炎は上がらなかったが、ジュワア、と中が焼けている気配がする。


『ギィヤアアア、ギィイイイイイ』


どうやら効いたらしく、ますますバウロワームはのたうち回った。


「ああ!やばい!落ちる!」


その反動で、完全に焦った顔のハイトが本体に深く刺さった剣の柄を掴んだまま、ズリズリと落ちていく。

それに合わせてレバーを引いたかのように剣も回り、完全に分断して切れていった。


『ギィヤアアアアアア!!!!!!!!』

「うわぁ!!!!」

「"モリオ"!」


ハイトの悲鳴が聞こえるが、そちらをみる余裕がない。

ヴェルノワ分隊長の声が聞こえたから、おそらくクッション呪文で衝撃は和らいだはずだ。

耐え切ったのも束の間、またバウロワームは大きく身を捩らせてそのまま地面を叩きつけるかのように波打たせた。


反動で、剣を握っていた手がズルリと滑る。

その勢いで剣はより深く刺さった。


「あ!!!!!!!」


その瞬間、握り直す間もなく、そのまま金属管のような外殻を凄い勢いで滑り始めた。


「くそ!うわ!」

「ユーリス!!!!!!!!」


なす術がなくそのまま数メートルズルズル落ちていく。

ヴェルノワ分隊長は逆側だ、魔法は届かない。


やばい、これは骨折は免れない。

諦めて落下しながら地面を見ると、白いものが下に見えた。


地面じゃない?!


焦ったのも束の間、そのままその上に落ちた。


ヴワン!!!!!!


「ユーリス!大丈夫か!!!!!」


誰かの焦っている声が聞こえる。予想していたような衝撃はなく、クッション性の高いものに落ちた。


心臓をバクバクさせたまま下を確認するが、視界が焦りと緊張の緩和でチカチカしてよく判別できない。


「まずい!ユーリス!そこから避けろ!!!!!!」




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