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16. 生ける下水管と竜に乗る女神(2)

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

ブックマーク登録や、「ポイントを入れて作者を応援しよう」より、ポイント評価などで作品を応援いただけたら嬉しく思います。

次は明日7時台に投稿予定です。

よろしくお願いいたします。


「全くいないですね…」

「うん。妙だな…」


通りにいたゴブリンを倒し切りそのまま皆で進んでいったが、ゴブリンが全く出て来ない。続けて戦闘する気満々だったので皆拍子抜けしている。


「数、間違ってたんですかね?」

「だが、確かに五十体ぐらいと村長から連絡があったと聞いている」


ぽつりと呟くと、答えてくれたのは隣にいたジュラン・ヴェルノワ分隊長だ。三十半ばの堅実な戦い方をする騎士で、皆からの信頼も厚い。

まだ倒したのは二十体程度、多少の数え間違えがあったにしても少なすぎる。


「おかしいな…俺たちが来るまでに何かあったのか…」


ヴェルノワ分隊長が心配そうに呟き、皆がなんとなく警戒した、その時。


ドゥン!!!!!!!


「わあっ?!」


地面が大きく揺れたと同時に、地響きが響き渡った。隊員の悲鳴も響く。


「うわ、まずい!引っ張れ!」


悲鳴の方を見ると、隊員のひとりが土の中に引き摺り込まれそうになっている。

周囲にいた隊員数人が、急いで引っ張り出そうとするが、ジリジリと引き込まれていく。もう太ももの辺りまで沈んでいる。沼に落ちているかのようだ。


「助けて!やばい、もうだめだ、すげえ力で足が引っ張られてる!!!!」


引き摺り込まれている隊員が顔面蒼白になりながら叫ぶが、そもそも何が起きているのかわからない。

その時、ジュリアノが右の手のひらを隊員が引っ張られているあたりにバッと向け、よく響く声で唱えた。


「"フォディア・ラルゴ!"」


その途端、持って行かれかけていた隊員とその周りで助けようとしていた隊員数人が、周囲の地面ごと丸い形で弾けるように飛んだ。

側から見ていると、植物をポットから引っこ抜いた時のようで少々間抜けだったが、このままいくと地面に叩きつけられる。


まずいというアラームは脳内でなるが、咄嗟に手が出ない。

俺は固まってしまったが、間髪入れずにヴェルノワ分隊長が吹っ飛んだ隊員たちに右手を向ける。


「"モリオ"!」


地面につく直前にその呪文は届き、着地すると地面の塊ごとぽよん、とクッションのように弾んだ。

ほう、と周りも本人たちも思わず息をつく。


「おい、大丈夫か?!」


ジュリアノが引き摺り込まれていた隊員に駆け寄った。

ハイトや俺もそれに続き、まだ土に半身が埋まっていた隊員を急いでみんなで引っ張り出す。


「大丈夫です…足もげるかと思いましたけど、ジュリアノ先輩が魔法唱えた瞬間、引っ張られてた力が抜けて…なんか奥で、ちぎれたみたいな…」


気持ち悪そうに自分の靴を見る。


「なんだこれ?」

「靴に何かついてるな…」

「きもちわるっ!」


ハイトが叫ぶ。隊員の靴底の裏を掴むように、白っぽい何かがついていた。

明らかにムカデや何かの幼虫のような昆虫っぽい質感なのだが、何しろサイズがでかい。


「これとってくださいよぉ、俺、虫ダメなんすよぉ」


隊員は半泣きだ。昆虫が大丈夫なハイトが手袋をした手で引っ剥がす。


「ほらよ」

「ハイト先輩ありがとうございますぅ!」

「ぎゃあ、抱きつくな!キモイ!」


ハイトたちが騒ぎ始めたが、ジュリアノやヴェルノワ分隊長たちは顔を曇らせた。


「これがムカデや何かの変異種だとしたら…」

「ああ。足はいっぱいあるな。まだくるぞ」


それを聞いて皆顔を引き締めた瞬間、


ドゥン!ドゥン!!!!ドゥン!!!!!!


三箇所で同時に地響きが起こった。

それと同時に「うわやばい!」「わあ!」「持ってかれる!」と言う悲鳴が重なった。

地面が大きく揺れ、思わず尻もちをつきそうになるが、グッと堪える。


俺たちのすぐ近くでもまた一人が沈み始め、慌てて周りが引っこ抜く。今度は初動が速かったからか、そのまま戻すことができた。


「おいお前ら避けろ!」


ヴェルノワ小隊長が叫んだと同時に、引き摺り込まれかけていた穴からグワリ、と先ほどの隊員の足についていたような白い足が出てきた。


「うわぁ!」


思わず悲鳴が重なる。


「「"インチェンデ"!」」

思わず手を向けて唱えると、ジュリアノの声と重なった。白い足がブワリ、と燃えて縮み始め、そのまま穴に引っ込んだ。


ジュリアノと目が合い、「ナイス」と声をかけてくれる。思わず笑うと、ジュリアノもニカッと笑った。

そのまますぐに振り返り、遠くで沈んでいる隊員たちに向かってそれぞれ「"フォディア・ラルゴ"」を唱えて引っこ抜いて吹っ飛ばす。

続けてヴェルノワ小隊長が「"モリオ」"を向け、両方ともぽよぽよん、と弾んだ。


ホッとしたのも束の間、


ドゥーーーーーン!!!!!!!!


また地響きが鳴り、大きな地震のように地面が震え、パキパキと地面にヒビが入った。

皆立っていられずに尻もちをついたり、支え合ったりしている。


「うわ、さっきの穴から!」


一番最初に沈み始めた時に植物ポットのように引っこ抜いた大きな穴から、巨大なミミズにダンゴムシの足の数ほどの白い触手が生えたのようなものが顔を出していた。そのままずるずると半身が出てくる。


「うわあああああ!」

「き、キモイ!!!!」

「バロウワームだ!」


逃げる隊員の声が重なる中、誰かがその魔物の名を叫ぶ。

あれがバロウワームか!

実際にお目にかかるのは初めてだが、中等部の時に教科書で見かけたことがある。

普段は地中深くに生息しており、振動や音に反応して寄ってくる魔物だ。


「ゴブリンの大群が来た時の振動で釣られてやってきてたんだろう。こりゃヤツら、飲み込まれてるぞ!」


ジュリアノが叫ぶ。残りのゴブリンが見つからなかったのはバロウワームのせいだったようだ。

バロウワームはかなり悪食で、動物も魔物も、もちろんヒトも食べる。地中に埋めて貯めておき、適宜取込むらしい。


「引き摺り込むのは白い触手だ、本体のデカい口以外、外殻に攻撃性はない!地上に出てきているうちにかかれ!」


ヴェルノワ分隊長の指示に、皆が一斉に攻撃し出す。

が、しかし。


「くっ、硬っ!なんだこれ!」

「ダメだ、剣が刺さりません!」

「魔法も…燃えないし、斬れないです!」

「くそ、金属と戦ってるみたいだ」

「てかすげえ臭え!!!!」


すぐに各所から嘆きの報告が上がった。

ぱっと見はデカいミミズのようだが、その体は岩のように硬い外殻に包まれている。まるで水道管のようだ。

先端にでかい口があり、そこはウネウネと蠢いて隊員を丸ごと食おうとしている。

しかも悪食だけあって酷い腐臭だ。

見た目と臭いが相まって、下水管と戦っているみたいな気分になってくる。


「とりあえず触手を根本から切りまくれ!触手が減れば大分マシだ!」


ジュリアノが叫び、皆がそれに反応してザクザク切り始める。

触手自体は柔らかいので簡単に切れるのだが、体長が長く、数えきれないほどの触手があるので地道な作業だ。

触手自体は本体からするとあまり痛覚がないらしく、切ってもあまり大きく暴れない。だが本体の口が隊員を食おうと身体を捩らせるので、それを避けながらの作業となった。


その上、定期的にムカデのような足が触手のように地中から伸びてきて、隊員たちを地中に引き摺り込もうとする。


「ジュリアノ!」

「はいよ、"フォディア・ラルゴ"!」


ジュリアノの同期の先輩も引き込まれそうになり、鋭く名前を叫んだ。とほぼ同時に、遠い位置からだったが植物ポットの呪文を放つ。

引き込まれたのが金髪碧眼の隊員だったおかげで、少々遠くても場所の検討が付けやすそうだ。

無事にすっぽ抜けるが、ずっと衝撃を和らげてくれていたヴェルノワ小隊長は反対側におり気づいていない。


「やばい、誰かクッション!」


ジュリアノが焦って叫ぶと、ヴェルノワ分隊の年嵩の先輩がそれに気づいて「"モリオ"!」と唱える。

地面に着地するとぽよん、と弾んで事なきを得て、思わず胸を撫で下ろした。


「くそ、帰ったら絶対"モリオ"、練習するぞ。おっさんたち、なんでみんなクッション呪文使えるんだ」


ジュリアノは隣で悔しがり、少々お口が悪くなっている。


「ちょっとこれ、キリ無いっすね」


ジュリアノに話しかけると、ああ、と頷く。


「バロウワームって弱点どこだっけ」

「いや覚えてないです…どこでしたっけ」

「背中っすね。外殻の繋ぎ目に四箇所、呼吸用のエラみたいなのがあって、そこだけ柔らかい」


ハイトが剣を同じところに何度も打ち込みながら、答えた。ジュリアノが驚く。


「え?!知ってるなら早く言えよ」

「でもデカすぎて俺たちじゃ届かない位置なんすよ」

「確かにな…ツルツルしてるから登れないしな…」

「そうすね…竜騎士たちが追いついてくるのを待つしか……」


相槌を打っているうちに、ふと思い浮かぶ。


「「この前の…!」」


ハイトと俺の声が重なり、思わず顔を見合わせた。


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