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14. 上から見下ろすその眼鏡は真実の恋か否か(3)




前世でも、いざ付き合ってみた勇太は、最初の違和感通りかなりのモラハラ野郎だった。


最初はエスコート上手で知的な彼にキュンとするばかりだったが、しばらくすると本性が露呈した。

碧が嫌がることをやめてくれない、碧の行動にケチをつける、碧の態度を矯正しようとするエトセトラエトセトラ、数えればキリがなかった。


当然しばらくすると碧の我慢の緒は切れ始めたが、それ以上に勇太の気持ちは早々の終焉を迎えた。

フラれる時には『思ってた感じと違った』と言われた。

そっくりそのままお返ししたいところである。

知的でスマートで余裕のある彼はどこへやら。


ただ玲央先輩の時と違い、勇太には積極的に碧からアプローチをかけたわけだから、見る目がなかった碧にも責任は大いにある。

甘んじて受け入れることとした。


こちらは前回の大失恋・玲央先輩とは異なりあまり引きずらなかった。

何しろ、短い期間だったにも関わらず付き合ってる最中に何度も幻滅を繰り返し、何度も別れの文字が脳裏に浮かんでいた。"恋"がイコール玲央先輩で"別れ"という選択肢を知らないピュアガールだった時の碧とは違ったのである。


というわけで、前世の碧と勇太も今世と同様派手に別れた。

しかし今世でも何故か、何故か強く惹かれてしまった訳である。悔しい。

その上、"前世で別れた"ということは鮮明にわかるのに、付き合って実際に別れるまで別れた理由は思い出せないのだ。それ故、前世でときめいた時の気持ちそのままで彼にメロメロになってしまう。

どうせ別れることになるとわかっているのだから惹かれても付き合わなければ良かったのだが、そうはいかないのが恋である。

あまりにも素敵(に見える)彼と両思いになりながら、付き合わないというのはなかなか酷な話だ。




訓練の合間にお昼ご飯を食べようと、食堂に向かった。

昨日別れたばかりではあるが、しっかりお腹は空いてくれる。

隊の皆とは休憩時間が合わず、ひとりランチだ。

誰かと楽しくお喋りする気分でもないので、ちょうど良い。


日替わり定食を選び、食堂の端っこの席で食べ始めた。

がっつりボリュームのある定食で、戦闘職種としてはありがたいメニューだ。

前世でいうタルタルチキンのようなものがメインで、その他に小鉢がいくつかついている。

ちなみに、この国の主食は完全にコメである。名前もそのまま"コメ"だ。元・ニホン人のわたしとしては、これは本当にありがたかった。

世界観としては、完全に前世でいうヨーロッパ系なのだが、食文化は明らかにニホン風だ。


絶対わたし以外にも、前世を思い出してる人がいる気がしている。


その中には間違いなく料理人や農家が混ざっているはずだ。今日も食べている定食の形式なんて、完全に日本の文化だし、味覚的にも違和感がなく美味しい。ショウユやミソもそのままの名前で存在しているし、コメ以外にもかつて前世でよく目にしていた野菜や食材、料理も多数ある。

そういえば、"定食"はこの城の料理人が発案したと聞いた。

案外近いところに"前世持ち"がいるのかもな、等とぼんやり考えた。

というか、そもそも前世で関わってきた人間が今世でもそこら中にいすぎている。その上、皆大体前世と似たような職業に就いたり、人間関係を築いたりしている。


どう考えてもこれは、いわゆる異世界転生の類じゃない。

小さい頃からずっと考えてきたことだが、おそらくこの世界は前世と地続きになっている。というか、便宜上"前世"と呼んでいるが、実際には前世ではない気もしている。


多分、並行世界というやつなのではないだろうか。

それも、かなり最初の段階で分岐が変わった世界の。


こちらの世界では科学が全く発展していない。その代わり、魔法がその機能を果たしている。

多分、"前世"で死んだ者から順番に、隣の並行世界に移り、同じ魂で生き直しているような形だ。

だからこそ、前世では早死にした者でもその年齢を超えて生きていたり、逆もあり得るし、なんとなく能力値的にも近い具合になっているのでは。


魔力の付与の基準や、明らかに前世の自分の希望が叶っている特定の能力値のアップ等、不明な点は多々あることはともかくとして、何かしら前世の世界と今世の世界に繋がりがあることは間違いないだろう。


それに、こと恋愛に関しては今世の自分が前世と完全に同じルートを辿っている。

基本前世と近い人間関係が構築されるような仕組みになっているとすると、恐らく恋愛についてもその適用内らしい。

レオニスの時もタレスの時も、避けようがなくほぼ一目惚れのように恋に落ちてしまった。しかも別れたことは覚えているにも関わらず、惹かれる気持ちは止められない。


その上始末の悪いことに、身体を重ねることには強い抵抗を感じる。好きで両思いでもだ。

前世のわたしはものすごく身持ちが堅いタイプというわけでもなかったし、今世も特に処女で結婚しなければ死あるのみというような価値観でもないわけで、当然周囲も適宜そういったことを自由恋愛の一環として行っている。

貴族としては派手に遊ぶことはよろしくないが、まあその程度である。前世の価値観とほぼ同様だ。


それなのに前世の元彼たちとそういうことをするのに強い嫌悪感や拒否反応が起きるのは、魂が前世の失敗を覚えているということだろうか。


このまま行くとまた元彼と付き合った挙句、そういう気になれずにフラれるパターンだ。

まあその程度で冷められてしまうのであれば、そもそも運命の恋ではないのかもしれない。

しかしトータル四十五年以上生きてきたわたしとしては、どんなにぴったりな相性でも、些細なことで噛み合わなくなったり、タイミングが合わなければ上手くいかないことも知っている。


果たして今世のわたしはちゃんと幸せになれるのか。


ふとそんな疑問が脳裏に浮かび、ふるふると頭を振る。

まあ考えすぎても仕方がないし、その時々精一杯やるしかないか。


ちょうど定食をぺろりと平らげたあたりで、なんとなく自分の腑に落ち、ヨシ、と立ち上がった。



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