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13. 上から見下ろすその眼鏡は真実の恋か否か(2)


「最近おアツいらしいな」


文武共同課題研究が発足してから一ヶ月ほどして、連続の休みが出来たので家に帰った時のことだ。

書斎で本を物色していると、そこにちょうど居合わせた長兄・アルベールに話しかけられた。

ニヤニヤしつつ、どこか心配そうな顔をしている。


「え?」


突然のことに何のことだかよく分からずきょとんとすると、アルベールは笑ったまま片眉を上げた。


「タレス・ヴァン・スタウトだよ。お互い名呼びして、親しげらしいじゃないか」


噂になっているのか。

ちょっと気まずくて肩をすくめる。


実際、タレスとは完全に"いい感じ"だ。

毎日のように魔法の小鳥をやりとりし、休みが重なれば街で流行りのお店で食事をしたり、素敵な景色を見に行ったりしている。

恐らく、その内に正式に交際の申し込みがあるだろう。


「まあね。素敵な人よ」


兄と目を合わせながら自分の恋バナをするのが気恥ずかしく、窓際の肘掛け椅子に腰掛けながらしれっと答えると、アルベールはふぅん、と曖昧な相槌を打った。

日差しでポカポカと温まった座面が気持ち良い。アルベールもこちらに寄ってきて、椅子の隣に寄り添うように立った。そっと髪を撫でてくれる。


アルベールは昔から、穏やかでかっこいい兄だ。

長兄として責任感が強く、忙しい父に替わってわたしたち兄弟姉妹をよくケアしてくれた。


わたしと似たタイプで気が合うのは、やんちゃで活発な次兄のジュリアノだ。

しかし、ジュリアノがどちらかというと友達っぽい関係なのに対して、"お兄ちゃん"としていちばん懐いているのはアルベールである。

アルベールの方も、少し歳の離れた末っ子であるわたしのことをすごく可愛がってくれている。

こんな風に成人しているわたしの恋愛事情を直接聞いてくる程度には、父よりもよっぽど干渉的で心配性だ。


「なによ。どうしたの?アル兄、ヤキモチ?それともタレス様に問題があるの?」


なんでも端的に話すタイプのアルベールにしては、なんだか煮え切らない態度だ。軽く問いただすと、アルベールはちょっと笑った。


「いいや、ちょっと心配なだけだ。ほら、レオニスのこともあっただろう」


元婚約者の名前を出してくる。


「カミーユは男を見る目があんまりないんじゃないかという、もっぱらの話題だから…」

「どこの誰がそんな失礼なことを言ってたのよ」


思わずアルベールの方を少し振り返って、座ったまま見上げながら眉を吊り上げる。アルベールはどうどう、とばかりにわたしの頭を撫でた。


「兄弟間でだよ。ジュリアノとルシアンが、『レオニスを選ぶ妹、将来が心配だ…』と言ってたぞ」

「ええ?そうなの?だったら最初から止めてくれればよかったのに」


後から分かったことだが、レオニスはかなり移り気な人だった。前世の玲央先輩と一緒だ。

婚約までしたのはわたしだけだったが、それまでもちょこまかといろんな女の子に手を出していたらしい。


次兄のジュリアノと三兄のルシアンは同じ騎士課だからその噂を知っていたのだろう。特にルシアンは同じ近衛だ。

そういえば婚約を報告した時も『ええ?レオニス?婚約?』と止めはしないものの、首を傾げていた。


「どうせカミーユは止めても止まらないだろうが。周りの心配はどこ吹く風で、竜騎士になったのはどこの誰だい」


アルベールが苦笑しながら言う。

間違いなくその通りだ。思わず首をすくめた。


「まあ、うちは昔から両親も『エレオノールが伯爵家の娘として義務を果たしてくれたから、カミーユには自由にさせてやれ』って方針だしなあ」


わたしが姉のエレオノールと違い、かなりおてんばで自立心に溢れる子どもだったせいもあるだろう。

エレオノールは芯は強いが、傍目には女の子らしいおしとやかなタイプだ。変わったことをしたいというよりは、一般的な人生の高みを目指した人である。


わたしと同じく小さい頃から自己研鑽に励んでいたらしいが、それはいわゆる貴族女性として必要な種類のものだ。

ビジュアルに磨きをかけると共に歴史や領地経営を学び、かつ母・マドレーヌから家の切り盛りの仕方の教育も受けていた。

母曰く、『十五歳時点で、少なくとも同格の伯爵家には嫁いでも恥ずかしくない』仕上がりだったらしい。


最終的には同級生だった侯爵家の長男と懇意になり、高等部卒業と共に輿入れした。

夫の侯爵家長男とは大変にラブラブで、それも見た目はもちろんのことだが特にエレオノールの聡明さに惚れ込んでいるらしい。

エレオノールの夫はアルベールと同じく文官で、その愛妻家ぶりは文官の間でも有名だとアルベールが教えてくれた。


エレオノールが貴族女性としての王道の幸せを手に入れ、アルベールは長男として文官のエリートコースを邁進しているからこそ、ピエリエール家は安泰となり末っ子であるわたしは『自由にさせてやれ』と言ってもらえている。


大変ありがたい兄弟姉妹である。


「でも、わざわざお兄ちゃんがわたしにそんなこと言ってくるなんて、なんかあるんじゃないの。タレス様に思うところでもあるの?」


椅子から見上げたままアルベールに問うと、わたしと同じヘーゼルの瞳が苦笑いした。

アル兄とわたしは、顔立ちや纏う色が兄弟の中でも断トツ似ている。ウェーブがかったブルネットの髪に色白の肌。

ちなみにそんなアルベールは"長年の片思い"を遂に実らせ、来年結婚予定である。

なんと、我が親友エミリアと。

小さい頃からずっと片思いしていたのはエミリアの方で、アルベールはある種根負けしたような形だ。


エミリア曰く『顔がカミーユと似過ぎてて、キスするとちょっと変な気分になる』らしいが、とにかく穏やかで冷静なアル兄と明るくてくるくる表情が変わるエミリアは、お似合いのカップルだ。

兄弟のキス話、聞きたいような聞きたくないような、こちらもちょっと変な気分になるのだが。


「うーん。隣の部署だからね。話はいろいろ聞くよ。とにかく優秀で頭がキレる奴だって」


それを聞いて思わずにっこりする。


「そうでしょう。わたしも今回仕事で初めて関わっているけど、とってもデキる人よ」

「そうか。まあ、今回も…多分止めても止まらないだろうからな」


なんだかボソボソ言っているが、よく聞こえなかったのでスルーすることにした。


結局タレスとカミーユであるところのわたしは、文武共同課題が終わるや否や燃え上がるように付き合ったが、やはりあっさりと別れた。


『カミーユ、きみの素直な態度や笑顔の可愛らしさが好ましい』


わたしのメロメロ光線が功を奏したのか、タレスの方から何度かデートに誘われた後に前世とほぼ同意義の告白を受けた。

今回のわたしは前世より恋愛に慣れていたので『嬉しいです、わたしもタレス様のオトナな雰囲気に惹かれてます♡』と可愛く返せたおかげと言うべきかせいと言うべきか、初っ端から違和感のある言動を引き出してしまうことはなかった。


しかし結局のところタレスの上から目線な言動や、わたしを軽んじる態度は前世と変わらず、途中から薄々『ああ〜〜これじゃん〜〜別れた理由〜〜』と察していた。

またレオニスの際と同様に、前世とは違って身体的な繋がりは結ぶ気になれずハグ止まりだった。

そんな様子にも恐らく痺れを切らし、そして実際にまた同じく『思っていたのと違った』というセリフと共にタレスは去っていき、二度目の恋も砕け散った。


恐らくタレスは可愛らしいフェミニンな雰囲気の女の子が好きなくせに、何故か騎士であるわたし、しかも近衛ですらなくモンスターと戦うべく日々鍛錬を積んでいる第二騎士団のカミーユと付き合ってしまったことが間違いの元凶であった。

確かに割と素直なのは間違いないが、男性の言う事を素直に聞く可愛らしいタイプというわけでは決してない。

わたしは背はそこまで高くないが、脱ぐと魔法を撃ったり走ったりするための筋肉もきっちりついているし、そんな自分を誇りに思っている。

故に文官であるタレスに守ってほしい♡というような気持ちも全くない。というか、下手したらわたしの方が強い。

その自立した態度もお気に召さなかったようだった。


別れるとなると途端に前世での記憶も鮮明に蘇り始めるため、怒りと呆れも倍増だ。

こんな男、こちらから願い下げである。


長兄のアルベールに「付き合って別れたよー」と報告したところ、「だろうな。ちょっとアイツはアクが強すぎる」との感想だった。

分かってたなら止めてみてくれても良いじゃないかと思ったが、まあ止められても多分一旦付き合ったので文句は言うまい。



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