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11. 空飛ぶ黒い影と銀色に跳ぶ王子様(6)


「ところでユーリス、さっきは助けてくれて本当にありがとう。危機一髪だったよ」


今の乾杯で全員で話す空気がお開きとなり、みんなが各々近くの者と話始めたのでわたしも正面に座っていたユーリスに笑って話しかけた。ニカッと笑い返してくれる。


「いやあ間に合ってよかったです!ようやく辿り着いたと思ったら、先輩、さらわれそうになってるんすもん」

「あれは焦ったねえ。もう覚悟決めてた」


神妙な顔をして頷くと、ユーリスは「完全に目瞑ってましたもんね」と笑いながらジョッキを呷った。


「ていうか、そういえば!あの大ジャンプ、どうやったの?」


あれはかなり驚いた。地上十メートル辺りまで跳んできたのだ。通常のヒトではあり得ない跳躍だ。


「お!聞きます?」


ユーリスが嬉しそうにニヤッとする。


「実は、この間ハイト先輩たちと訓練してる時に、竜騎士って空飛べていいよなあ、って話になりまして」


ハイトはワイバーンがミルフォール領で出たという知らせを走って持ってきてくれたわたしの同期だ。

二つ後輩のユーリスは、特殊部隊の中でも限られた同年代としてハイトと仲が良い。


ハイトは足が速く、剣筋は重い。わたしは五十メートルダッシュなら大抵の男子に引けを取らないが、ハイトにはいつもギリギリ勝てない。その上、ものすごく持久力があり、筋力もある。

ハイトは剣の打ち合いが長引けば長引くほど、真価を発揮するタイプだ。


ユーリスも同じく足が速い。

これは特殊部隊でも随一で、わたしやハイトがお話にならないほどダントツで速い。

それに、身軽で剣も手数が多い。入隊してきた時はヒョロヒョロと痩せ型だったが、一年間の訓練でだいぶ筋肉がついて分厚くなってきた。身軽さや手数の多さはそのままに、剣筋も少し重さが出てきて、期待の新人である。


その上、なんと言ってもユーリスは守護魔法が使える。これは特殊部隊としても大変ありがたいことで、入隊してきた時はちょっとしたお祭り騒ぎとなった。


今回のような大規模な遠征でない限り、毎回毎回守護魔法を神官に頼むことは難しい。

隊に守護魔法保持者がいれば、毎度の遠征の安全性は格段に高まる。体力的に毎回全員にかけるわけにはいかなくても、特に危険度が高い先駆けの隊員にだけでもかけてもらえれば安心感が違う。


ただ、ハイトもユーリスも非常に優秀な騎士だが、その代わり魔法はあまり上手くない。

二人とも魔力が弱いわけではないのだが、とにかく使うのが苦手らしい。

ハイトはこの三年間、同期や先輩にしごかれにしごかれて、最近ではロデリックの得意技"インチェンデ"やわたしがよく使う"ディヴィード"はようやく実戦レベルになってきた。

ユーリスも同じく猛しごきに遭って大分マシにはなってきたが、まだまだ成長の余地はある。


竜騎士になるには強い魔法力が必須なので、ハイトやユーリス向きとは言えない職業だ。

確か二人とも元々騎士志望だったはずだが、"空を飛ぶ"ことへの憧れは全人類共通らしい。


「『俺たちは飛べないけどさ、一瞬でも空まで跳べたら飛行種とも戦えるチャンスあるんじゃね?』って話になりまして」


試行錯誤した挙句、靴に"スルサム"をかけたらしい。


「靴に?浮いちゃうんじゃ…ああ、なるほど」


聞きかけてすぐに気づく。


「そのまま履くのね」

「そうです」


ユーリスは我が意を得たりとばかりにニカッと笑った。


「スルサムって『上がれ』って魔法じゃないですか」

「そうだね。コントロールせず放っといたら、そのまま上に上がり続けちゃう」


だからこそ、高いところから落ちていく物体に"スルサム"を唱えると力が拮抗して浮いた状態となる。地面に下ろす時には、徐々に魔力を抜いていけばゆっくりと重力が勝っていって下ろせるのだ。

逆に浮力をキープさせたい時には、魔力を抜かないままパッと自分と切り離せば維持できる。


「そうです。でも靴より重いヒトが履けば、普通に歩いてる限りは浮きません」

「なるほどね。でも自分自身が助走つけて上に跳ぶとその力を押して推進してくれるってことね。考えたねえ」


思わず感心して褒めると、ユーリスも頷く。


「アラン先輩が考えついたんですよ。そのまま外行って、順番に試してみることになって」


アランはわたしのひとつ下の後輩竜騎士だ。去年唯一竜と契約出来た新人で、ありとあらゆる全ての能力が高いバケモノオールラウンダーである。

特にユーリスたちとは気が合うらしく、よく騎士に混ざって自主トレをしている姿を見かける。


そして皆で試した結果、元々身軽でバネのあるユーリスがいちばん高く跳躍できたらしい。


「それで後日隊長に見せに行って、『次に飛行種が出たら試してみろ』ってお許しが出てたんです」

「そうだったんだ。じゃあワイバーンはお誂え向きだったね」

「いやあ、正直ちょっとワクワクしてました」


眉をちょこっと上げて、しれっと内緒話のように教えてくれた。その様子がいかにも男の子って感じで、なんだかちょっと可愛い。

しかし、ずっと"可愛いけどまだちょっと頼りない後輩"だと思っていたのが、今日で一気に認識が変わってしまった。


もうダメだと諦めた瞬間、真っ青な空をバックに黒髪が靡くユーリスが跳び出してきた時、ハッとするほどかっこよかった。

剣だけでなく、全身がキラキラと銀色に光って見えた。


アルコールのせいか、不意に気を抜いてそんなことを考えてしまう。

いけないいけない、ただの職場の後輩に対してなんということを考えてるんだ。前世でいう、セクハラって奴だ。

慌てて内心自分を戒めて、手元のジョッキのお酒をがぶ飲みする。


ユーリスは割と端正な顔立ちで、文官の女の子たちなんかからも人気があるらしい。

その噂は知ってはいたものの、わたしにとってユーリスは可愛い後輩で、今まではかっこいいかどうか、検討すらしたことがなかった。


だがさすがに自分が命の危機に晒されているタイミングでのあの登場だ。

思わず見直してしまった。


ユーリス、かっこいいじゃん。


「ていうか、俺最後めちゃくちゃかっこわるかったですよね。助けてくれてありがとうございました」


内心変なことを考えていると、ユーリスがぺこりと頭を下げた。黒髪がサラリと目にかかる。

確かに、空中で焦りまくっていたユーリスは、お世辞にもクールとは言えなかった。

宙吊りになりかけるユーリスを思い出して、その可愛さに少し笑いをこらえる。


「全然だよ。でもあれ、どうやって地上に降りるつもりだったの?」

「練習では、ジャンプし終わったらそのまま下に落ちていくんで、サクッと着地してました。さっきはワイバーンの背中で二段ジャンプしちゃったせいで地上からの距離がものすごくなっちゃって、こりゃあさすがにここから落ちたらヤバいかもって」


確かに最高到達点は軽く地上から二十メートルぐらいあった。焦るのも当然だ。


「でもそのおかげでヴェールに乗せてもらえてうれしかったな。竜騎士、憧れなんで」


ニコッと笑ったユーリスに、思わずわたしもにっこりする。小さい頃から夢だった竜騎士という職業や、大好きなヴェールを褒めてもらえると無条件に嬉しい。


「嬉しいな。わたしも小さい頃から竜騎士憧れでさ」


軽く言ったが、ユーリスは優しく笑った。ブルーグレーの瞳がきゅっと細くなる。


「知ってますよ。それに、カミーユ先輩が才能だけじゃないのも皆わかってますから」

「え?」


驚いて思わず見つめるとそのまま笑いながら、空になっていたわたしのジョッキにお酒をジョボジョボ注いでくれた。瓶をガッシリ掴む骨っぽい手に色気があって男らしい。


「カミーユ先輩が死ぬほど頑張ってること、特殊部隊ならみんな知ってますよ」


さっきのシモンのやっかみのことだとわかった。

ユーリスが伝えてくれた言葉はあまりに直球で、さっくりと心の柔らかい場所に刺さってしまった。

なんだか泣きそうになって、急いで関係ないことを考える。


このビール美味しいな。

隊長、楽しそうだな。

ユーリスって、いつの間にか華奢な可愛い男の子って感じじゃなくなったんだな。


ユーリスは、自分のジョッキを適宜飲みながら、枝豆をパクパクと食べていた。


「…ありがとう」


取り止めもなく思い浮かぶままに気を逸らそうとしたが、やっぱり嬉しくてどうしようもなく、ストレートにお礼を言った。


涙が出そうになるのは、不意を突かれてしまったからだ。


ああ、周りの皆にはちゃんと伝わっているのか。


自分の努力は自分がわかっていればいい。周りには結果で示せばいい話だ。

そう思っていたのに、いざ努力も知ってると言われると震えるほど嬉しかった。


「俺も、カミーユ先輩たちが時間割いて色々教えてくださってること、無駄にしないように精一杯頑張りますから」


軽く笑ってはいるが、サッと姿勢を引き締めて頭を下げたユーリスに、わたしも気を引き締める。


「よし、励めよ!」


隊長の言い方をマネしておどけると、ユーリスも一緒に笑ってくれた。

ユーリスが伝えてくれた優しさは、ちゃんと心の特等席にしまっておこう、とこっそり心の中で決めた。



ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

初投稿で大変どきどきしておりましたが、ちょっとずつ増えるPV数を見て嬉しく思っております!!!!

ブックマーク登録や、「ポイントを入れて作者を応援しよう」より、ポイント評価などで作品を応援いただけたら嬉しく思います。

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