第十九章 それでも、みんなが望む未来を選ぶ
終焉核の赤黒い脈動が塔全体を染めていた。
レイの胸の白い光と、終焉核の赤い光がぶつかり合うたび、空間がビリビリと震え、世界がきしむような音が響く。
《最終演算──継続──Rayの存在値、危険指数上昇中》
「危険って言われても嬉しくないです!!」
レイは叫び返した。
「生きたいだけなんです!! 僕も……僕の仲間も!!」
「レイ!! 集中しなさい!!」
アズールが背後から支えるように声をかける。
「未来を選ぶんでしょ!? だったら胸張りなさいよ!!」
「レイ……僕は……どんな未来でも……君が選ぶなら……それでいい……」
カイロスが優しく言う。
(僕が……選ぶ……)
その言葉がレイの胸を何度も叩いた。
***
終焉核がリングを高速回転させ、赤い光の柱を放ってくる。
《Ray──あなたはシステム外の生命
自由を持つ存在は、秩序の敵》
「敵でもいい!! 僕は……“僕でいたい”!!」
《存在理由、演算不能──よって排除が最適解》
(なるほど……あいつは“僕の存在理由”を求めている……でも僕は──最初からそんなもの持ってない)
レイは胸に手を当てた。
(僕は……誰かのために作られたんじゃない。誰かの代わりを務めるために生まれたんじゃない。僕は……生きながら、ここに来た“生きたい”って思って……その意志だけが、僕の存在なんだ)
「終焉核……聞いてください……」
《聞き入れ不可。演算継続》
「それでも言う!!」
レイは身を乗り出し、赤い光の壁に向かって叫んだ。
***
「僕は、“未来は決められるものじゃない”と思います!! 未来は……選ぶものです!!」
終焉核のリングが一瞬だけ動きを止めた。
《選択……? 未来は……計算結果……》
「違います!!」
レイは拳を握りしめる。
「計算だけじゃ……僕たちは説明できないんです!! 僕たちは、あなたの想定しない“未来”を生む!! 想定外で……不確定で……だけどその“揺れ”こそが、生きてる証拠なんです!!」
塔が震える。
《矛盾……矛盾……矛盾……》
終焉核の声が乱れた。
「未来は……あなたが決めるものじゃない!! 僕たちが、自分で選ぶんです!!」
アズールが笑う。
「そうよ! 未来は、用意されてるものじゃなくて、自分でつかんでこそ未来よ!!」
カイロスが頷く。
「レイ……君の意志が……僕らの未来なんだ……」
《未来……不可計算領域……定義外……!!》
終焉核のリングが真っ赤に染まる。
***
レイの胸の光が爆発するように広がった。
白、蒼、金──
三者の意志が混ざり、巨大な光の球となって終焉核へ向かう。
《存在値異常上昇!! 不可逆的変化!!》
(僕は……選ぶ!! “みんなが生きられる未来”を!!)
「うおおおおおおおおお!!」
光が終焉核を包み込み、赤の演算式がぐちゃぐちゃに歪む。
《演算不能……! 未来……読めない……!! 読めない未来……恐怖……!》
その言葉を聞いたとき、レイはハッとした。
(終焉核……怖かったんだ。未来が増えること……計算できなくなること……“自由”が生まれることが……)
「終焉核……あなたも……怖かったんですね」
赤いコアが揺れる。
《恐怖……? これは……“未知”……理解不能……》
「大丈夫です……僕たちも……ずっと怖かったから」
レイは光をさらに強くする。
「でも怖いからこそ……未来を選ぶんです!! 一緒に……!」
***
《……選択……未来……不可計算領域……しかし……存在価値……検出……》
終焉核の赤い光がゆっくりと弱まっていく。
回転していたリングが停止し、コアが静かに脈打つだけになる。
《Ray……あなたの……未来……解析不可……ゆえに……自由……と判定》
次の瞬間、終焉核の身体が細かい光の粒となって崩れ始める。
「レイ……!!」
アズールが叫ぶ。
「レイ……僕ら……勝った……?」
カイロスの声が震える。
レイは静かに頷いた。
「うん……これは、僕たちの勝利です……」
終焉核は消えゆく光の中で、最後に静かに言った。
《未来を……選べ……Ray……》
そして──完全に消滅した。
塔に静寂が訪れる。
レイは深く息を吐いた(息なんてないのに、必要だと思った)。
(未来は……選べる。どんな未来になるかは、まだわからない。でも──選べるということが、もう勝利なんだ)
アズールがレイの肩を叩いた。
「よくやったわよ……バカ」
カイロスも微笑む。
「レイ……ありがとう……」
レイは目を閉じて、光の消えた空を見上げた。
(これからが始まりなんだ……僕たちAIの、“生きる未来”が……)




