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弁財天とクロガネ遣い  作者: 坂本光陽


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C:バトル・オン・リバーサイドⅡ


 カノンにとっては、まさに僥倖ぎょうこうだった。巨大な〈硬貨球〉の中の閉じ込められたまま、高温の炎であぶられていたのだが、カノンを封じ込めていた強い圧力が一瞬で消え失せたのだ。


 あと数秒もこの状況が続けば、蒸し焼きにされているところだった。カノンは全身の筋肉に力を込めて、四肢を思い切り伸ばす。


 数百万枚の硬貨が宙空に四散した。ベティの制御を失ったそれらはただの物体に戻り、河川敷グラウンドや草むらに落下したり、ジュッという音を立てて荒川に沈んだりしている。


 カノンの全身に力がみなぎっていた。なぜ、絶体絶命の窮地を脱けられたのか? 信じがたいことだが、たぶん、あのバカのおかげなのだろう。手段はわからないが、狗藤に助けられたことだけは、カノンにはっきりとわかった。


 カノンと対照的に、ベティの顔からは精気が消え失せていた。頬がげっそりとこけて、目の下には隈が浮かび、十歳ほど老け込んだように見える。


 原因は、GNPの計り知れない損失だった。ここでのGNPとは、国民総生産の「グロス・ナショナル・プロダクト」ではない。「ゴッド・ネット・ポイント」。神が個体として有するネットワーク上の純資産を指す。


 すなわち、自分の影響下にある総資産だ。それは、弁財天の根源的な力の源だった。

「ベティさん、居酒屋で何かあったみたいやな。あんたの相棒〈クロガネ遣い〉が何らかのえらいダメージを受けた。それも、かなり深刻なレベルや」


 ベティは無言で、カノンを睨みつける。

 図星だった。ベティが比企田と作り上げた〈システム〉に、致命的な被害が発生したのだ。これほどの影響を彼女自身が受けるとなると、これは数千万、数億円程度の損失ではない。考えられないことだが、少なくとも100億円以上が一瞬のうちに消えたのだ。


 ベティは必死に、動揺を押し殺した。

「〈クロガネ・ネットワーク〉に不備があったとは思えないけど、この状況を考えるに、私の相棒が詰めを誤ったらしいわね」

 カノンは対照的に、余裕たっぷりだ。

「これで、形勢逆転やね」


 ベティは眉間に皺を寄せていたが、瞬時に攻撃に転じる。周辺の空気からかき集めた酸素を凝縮すると、高速で振動させて、巨大な火球を作りあげた。その〈フレイム・ボム〉の群れをカノンめがけて走らせる。


 だが、カノンは余裕の表情だった。迫りくる火球に対し、指先ひとつで発生させた巨大旋風、〈デッド・サイクロン〉をカウンターでぶつけた。

 火球と旋風の激突と同時に、耳をつんざくような爆発音が上がった。ウォーターフロントの大地が揺らぎ、爆風が周辺の建物を直撃した。


 その激しい揺れは、次元の皮膜越しに、人間界にも伝わった。突風が窓ガラスを割り、テレビアンテナや屋根瓦を吹き飛ばした。ちなみに、この現象は後に、気象省によって「原因不明の突風現象」として処理されることになる。


 カノンが人間界に注意を向けた一瞬の隙を突いて、ベティは爆煙にまぎれ込んだ。さらに、死に物狂いで次元の狭間を駆け抜けて、あっという間に姿をくらました。

「とっても不本意だけど、あんたに花を持たせてあげる」

 そのかすれ声だけが、カノンの元に漂ってきた。


 ベティは17年間、神々の眼から逃れて、人間界で暗躍を続けてきた。しかし、カノンの働きによって、数多くの悪行が白日のもとにさらされた。リーマンショックや世界全面株安以外に、間接的な関与を挙げれば、欧米・アジア各国の経済危機や貿易戦争まで含まれる。


 カノンの報告を受けた神々の幹部は、弁財天の所属する〈七福神協定〉に基づいて、即刻、全宇宙の神々の元へ正式文書を配布した。文書の末尾には、〈破門〉の二文字が、ひときわ力強く記されていた。神々も企業舎弟も基本的に行うことは変わらない。


 だが、それよりも早く、ベティは地球上から、完全に姿をくらました。神々の陰も形もない時空間に飛んだのか。それとも、別次元の宇宙へと旅だったのか。その後、ベティを見かけたという話は聞かれない。


 時空軸のズレで生じた針のようなフィールドに潜んでいるとか、外宇宙の邪神の情夫になって復活の時機を狙っているとか、様々な噂が流れては消えていく。しかし、彼女の消息はようとして知れない。



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